「経験と語学生かし挑戦」NHKの新中国語ニュースのキャスター:鎌倉千秋さん
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鎌倉千秋さんは大学時代に第2外国語で選択し中国語を学び始めた。NHK入局後の2009年、派遣研修制度に自ら応募し、中国へ留学。1年間現地の放送局のアナウンサーらと交流し、番組にも出演するなど貴重な機会を得た。「中国の番組って…」と決めつけていた偏見が想像もしなかった中国語圏の世界の広がりを目の当たりにして大きく変わったそうだ。
その後、国際報道や「クローズアップ現代+」を経て、2018年末、NHKが初めて取り組むインターネット中国語放送「華語視界(かごしかい)」の立ち上げに関わることに。「グローバル化の世界で情報収集も対外発信も日本語だけでは間に合わない。外国語を使って何かをする特別さというより、多言語のコミュニケーションが今や私たちの日常に溶け込みつつある点を是認することが大切だ」と感じているという。
外国人旅行者の安全を守るなど、目に見えない情報インフラとしての役目を果たす外国語放送。その重責を担うため、「報道の経験と身に付けた中国語を活かし、新たな挑戦にまい進したい」と考える。同時に、日本における中国語テレビ放送の先駆者として、たくさんの若い日本人が続いてくれることを期待している。
以下はインタビューの一問一答。(使用した言語は主に中国語)
訪日観光客にタイムリーに情報提供
——2019年1月15日に始まった「華語視界」はどのような番組ですか。内容をご紹介下さい。
鎌倉千秋 日本に関する情報を主に日本を訪れる中国語圏の視聴者に向けて提供します。毎年日本を訪問する外国からの観光客は3000万人に達し、政府は2020年の東京オリンピック開催までに4000万人という目標を立てています。そのほぼ半数が中国大陸、香港、台湾や東南アジアの中国語圏からです。彼らにタイムリーに日本の情報を提供することは時代の要求であり、必然です。
「華語視界」は毎日約5時間放送されます。私が担当するニュースのほか文化、観光、ファッションなどがあり、すべてNHK制作によるものです。
中国語で日本の魅力、文化を紹介するほか、ドキュメンタリーもあります。若者向けコンテンツも多く、日本だけでなくアジア各国も紹介します。視聴者に役立つ日本の情報を伝えます。NHKではこれまで、ネット上で同様の英語放送がありましたが、これで中国語版がそろいました。タレントの矢野浩二さん、段文凝さん、桜庭奈々美さんも番組MC(司会)を勤めます。
訪日観光客の中には日本語が分からない方も多く、2018年の西日本豪雨や北海道地震の際に彼らは情報入手に苦労しました。これもわれわれ報道関係者が反省すべき点であり、こうした必要性を踏まえて訪日観光客の皆さんにタイムリーな日本の情報を提供することとなりました。
放送は日本時間で毎週月曜から金曜の午後6時から午後9時まで。午後8時から9時は7時現在のニュースなど、翌日の午後2時から3時46分まではニュース以外をそれぞれ再放送します。内外のインターネットユーザーはNHKワールドの公式サイトと“NHK WORLD TV”アプリで視聴できます。
——すべて中国語ですが、鎌倉さんにとって日本語での放送とどう違いますか。
鎌倉 アナウンサーとして10年以上になり自分でもある程度キャリアを積んだと思いますが、中国語は私にはやはり外国語です。まず発音が難しく、自分の中国語の水準が十分でないため時には基本的な中国語の発音すら苦労します。放送前に必ずネイティブに発音を矯正してもらう必要があります。
中国語での放送は私にとって多くの学びがあります。同じフレーズでも日本語の語感で中国語を話すと中国語ネイティブにとっては奇妙に感じられるのです。だから一つ一つのニュースの個々の表現を練習して修正を繰り返し、標準的な中国語にするようにしています。当然、中国語放送のための準備には日本語より多くの時間が必要です。
——中国語の勉強や中華文化を理解する上で難しさがありますか。
鎌倉 私は2009年に北京の中国伝媒大学(The Communication University of China =CUC)に留学しました。当時、日本語と中国語の基本的な語彙(ごい)がほぼ同じだと考えていたので難しさがありました。たとえば日本語の漢字「空港」をそのまま中国語読みで発音しても通じません。中国語で空港は「機場」です。「人気が有る」も当時の中国では「受歓迎」と言わなければならずだめでした。
もっとも現在はインターネットの発達で日中間の文化交流も活発化し、若者の間の交流もますます盛んです。東アジアの文化的融合という変化が言語にも大きく影響しています。いま中国の若者と話をすると、日本語の「空港」「人気が有る」はどちらも通じます。中国語の勉強を始める日本人にとっては以前に比べ楽になっていますね。
——中国で学び生活した中で何か忘れがたい出来事がありましたか。
鎌倉 留学時にたくさんのテレビ局を訪問し多くのアナウンサーと一緒に番組にも出演しました。その中で湖南衛星テレビの娯楽番組「天天向上」の中で、中国の娯楽番組制作のプロセスを体験しとても面白かったです。それまでは中国のテレビ番組と言うと決まりきった内容でつまらないに違いないと思っていたのですが、実際には日本と同じでみんなが面白い番組を作るために寝る間も惜しみ、若者たちが努力していました。中国の若い世代の活力が光り輝くのを感じました。この時、矢野浩二さんと一緒に番組に出演したことがあり、日本でまた一緒に「華語視界」で共演できてうれいしいです。
もう一つは中央電視台(CCTV)のアナウンサーと一緒に何度か番組に出演したことです。
中国のバラエティー番組は、NHKとは違って中国語の「主持人」(司会)という役回りが文字通り中心になってすべての場面を仕切る役割を担っており、一番目立つ舞台中央に立ち、番組を取り仕切っていました。日本のアナウンサーの司会はいつも隅の目立たない場所で衣装もあまり華美ではありません。CCTVは中国14億人から選ばれたエリートで大スターと同じ存在なんです。この点は本当に日本とは舞台の上での心構えなども違い、同じアナウンサーとして異なる気分を体験できて面白かったです。
中国語放送は時代の要請
——今後中国語圏で取材・報道する際にどのように困難を克服していかれますか。
鎌倉 中国だけでなく、外国人として取材・報道する時に現地のメディアと比べ情報が少なく、足りないことはたくさんあります。時には勇気をもって自分自身にも挑戦し、諦めないようにしなければなりません。海外で取材し番組を制作すると、時間の制約がありさまざまな方法を考え出して目的を達成しなければなりません。これは外国の記者、メディア関係者から学んだことです。
——今回、日本を代表するメディアNHKが中国語放送を展開した意義は何でしょう。
鎌倉 これは時代の要請です。NHKは自らの持つ情報を中国語で放送する責任を負っています。いまはインターネット上にフェイクニュースがまん延し、情報が洪水のように氾濫する時代です。例えば北海道地震の際にもうわさを含めさまざまな情報が交錯しました。こうした時にタイムリーに正確な情報を伝えることが非常に重要です。特に緊急報道や災害報道には信頼できる情報が最も重要です。
——今回始まった番組、日本の中国語学習者はどのように見たらよいでしょうか。
鎌倉 今回の番組が始まった後にある日本人から言われました。彼が言うには、昔は電話やラジオ放送を通じて中国語を勉強したが、今はネット上ですぐに勉強できて学習環境がとても良くなったと。
私は大学の時に中国語を勉強し始めたのですが、中国語のレベルはネイティブには遠く及びません。中国語を勉強する方たちには、この番組を通じて私と一緒にレベルアップし、中国のいまホットな語彙や流行、時事的なことに触れていただけたらうれしいです。
今回私がこの仕事をするに当たり、中国語が遠い外国の言葉ではないように感じさせられました。外国語を使って仕事をするためには時には基本的なことから始め、初心を忘れず、前向きに努力を忘れないようにする必要があると思います。報道の経験と身に付けた中国語を活かし、新たな挑戦にまい進したいです。
文・李海
訳・編集部
バナー写真:鎌倉千秋、東京都渋谷区で撮影(2019年1月)