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カニカマ製造装置で世界シェア7割―ヤナギヤ : ニッチな市場でとことん顧客に寄り添う製品開発とメンテナンス

経済・ビジネス

戦後日本で「食品の三大発明」と言われるものがある。インスタントラーメン、レトルトカレー、カニカマだ。その中のカニカマを作る装置で、世界シェア7割を誇るのがヤナギヤ(山口県宇部市)。創業100年を超える長寿企業だ。柳屋芳雄社長は、ユニークな経営哲学で独自のものづくりの道を追求している。

信頼を集めるニッチなものづくり

「現在、世界でカニカマは年間60万~70万トン作られています。ただ、製造ラインは全部合わせても数百くらいで、それほど大きなマーケットではありません。うちは世界シェアトップと言っても、そのニッチな産業で有名になっているだけですよ」

柳屋さんは謙遜して笑うが、世界の顧客からの信頼は厚い。カニカマの製造装置は顧客と話し合いながら細かく設計図面を描き、個々の要望に沿って1台1台オーダーメードで作り上げる。そうして納めてきた機械は今や世界20カ国以上で使われている。ヤナギヤはカニカマ製造装置で培った“練る・混ぜる・切る”といった技術を生かし、食品だけでなく、薬や化粧品、塗料などあらゆる分野での装置作りにも取り組んでいる。

カニカマ製造装置(ヤナギヤ提供)
カニカマ製造装置(ヤナギヤ提供)

日用品大手のライオンと2022年に共同開発したのは、歯磨き粉の香料を自動で調合するロボット。香料原料は0.001g違えば風味が大きく変わる。ヤナギヤは高い精度で機械の動きを制御することによって、慎重を期して時間を要していた工程を自動化することに成功した。

「当社の製品はほとんどがお客さんから『こういう装置を作れませんか?』という相談から生まれています。普通、中小企業だと『うちはやってないんで』と断るじゃないですか。当社は『ちょっと考えさせてください』と内容を持ち帰って、どうすれば作れるかをみんなで考えるようにしています」

そうして毎月のように新規の製品開発が進んでいく。顧客との秘密保持契約で詳しくは公表していないが、コンビニやドラッグストアに並ぶ加工食品や総菜、日用品はヤナギヤの装置で作られているものが多いという。カニカマなど水産練り物の製造装置をコアに、一つずつ突起を増やすように取り扱う分野を広げる。柳屋さんはその戦略を「金平糖(こんぺいとう)経営」と呼んでいる。

山口県宇部市のヤナギヤ本社 ©HIDAKA Yasunori
山口県宇部市のヤナギヤ本社 ©HIDAKA Yasunori

経営の危機を救ったカニカマ製造装置

1916年創業のヤナギヤのルーツはかまぼこ店だ。当時は魚のすり身を手作業で練っていた。その重労働を何とか機械化できないかと、柳屋さんの祖父で、創業者の元助さんは考えた。魚肉を均一にかき混ぜたり、潰したりする機械を生み出し、32年に「柳屋鉄工所」を開業した。戦災を受けつつも、戦後は水産練り物装置メーカーとして成長していった。

ヤナギヤのルーツとなった昭和初期の柳屋蒲鉾店(ヤナギヤ提供)
ヤナギヤのルーツとなった昭和初期の柳屋蒲鉾店(ヤナギヤ提供)

2代目社長時代には営業所や工場を立ち上げて事業を拡大したが、70年代になるとオイルショックの影響もあり経営は徐々に厳しさを増していった。2代目社長の体調不良などで、75年に柳屋さんが24歳の若さで3代目社長に就任した。

「仕事が減って、社内の雰囲気が悪くなり、技術力も衰え、人手も集まらなくなる。銀行の目も徐々に冷たくなる。悪くなる企業の典型的な状況でしたね」

そんな苦境から脱すべく、就任後にまず取り組んだのは営業のテコ入れだ。スタッフと一緒にトラックに乗り、全国の販売先を訪ね回った。「ここまでよう来たから買ってやるか」などと声をかけられながら、少しずつ販売を伸ばしていった。そんな地道な営業活動の中で気が付いたのが、カニカマの将来性だ。

「当時、カニカマがブームになりそうな時期でした。お客さんから『こういうもの作れないの?』って言われて。作り方は全く分からなかったので、自分たちでアイデアを絞り出していくしかありませんでした」

カニカマの原点は食品メーカーのスギヨ(石川県七尾市)が開発したフレーク状の「かにあし」。それが繊維を束ねた棒状に進化して大ヒット。開発に参入する企業も増えて、さらにブームが盛り上がった。

実際にカニカマを買ってきて、この弾力や食感をどうすれば出せるか、そんな議論から開発は始まった。かまぼこで培った技術や練り製品への知見を生かし、1年ほどかけて79年に製造装置を完成させた。

ヤナギヤはその後もさらにおいしく、リアルな食感のカニカマづくりを探求する。原料のスケソウダラなどの魚の身を薄くシート状に伸ばし、蒸気で加熱する。それに細かく切れ目を入れて束ねる。そんな製造方法のアイデアはあったが、カニの身の本物らしい食感を出すのが難しかった。

進化するカニカマ製造装置(ヤナギヤ提供)
進化するカニカマ製造装置(ヤナギヤ提供)

本物のカニの身の繊維が斜めに並んでいることに着目。ヤマサ蒲鉾(兵庫県姫路市)と共同で研究し、棒状に束ねた繊維を短く斜めに切り、向きを変えて連結させて上から圧接することで、より本物のカニの身に近い繊維の組み合わせを実現した。噛むと口の中でほろほろと身が崩れ、リアルなうまみが味わえる食品に進化させた。

最新の装置は省エネ・省スペース化が進み、15~20秒の短時間の高温処理により細断後のバラケ感を高めている。温度や加湿なども細かく調整でき、さまざまな顧客の要望に応じてカニカマづくりができるようになった。

カニカマ製造装置の全景(ヤナギヤ提供)
カニカマ製造装置の全景(ヤナギヤ提供)

カニカマブームに乗り世界に飛躍

日本で生まれたカニカマは色味が良く、サラダの具材によく合う。日本から輸出が始まると、ヘルシーなシーフードとして世界的なブームになった。その波に乗り、ヤナギヤのカニカマ製造装置も海外に進出していった。

「当社はカニカマの後ろについていっただけです。最初のころは日本のかまぼこ屋さんが輸出して海外でどんどん売れました。そのかまぼこ屋さんと一緒に当社も海外を回りました。現地のお客さんと商談をする中で『自社でもカニカマを作りたい』という要望を言われ、一緒に製造装置を作るようになりました」

輸出先は韓国や米国から始まり、スペインやフランス、ロシア、タイなどに広がった。1998年にはパリに事務所を創設し、ヨーロッパでの営業・メンテナンスの拠点も築いた。そして、カニカマ製造装置を足がかりに、他の装置の開発も広がっていく。

例えば、スペインの「グーラ」と呼ばれる魚のすり身で作った食べ物。価格が高騰するウナギの稚魚を使った料理の代替品として需要が高まっていた。そのグーラの製造装置をヤナギヤが作り、スペインの食卓を陰で支えた。

信頼を保つメンテナンス体制

ヤナギヤが信頼を得られる理由は、製品の開発力だけではない。修理やメンテナンスなどきめの細かいアフターフォローも大きい。顧客から装置の修理依頼があれば、国内外問わず数日以内に駆けつける。新型コロナウイルスの感染拡大で移動が制限され、隔離期間が設けられていても、海外の顧客先に出向くことは止めなかった。

「うちの機械は嫁に出した娘のように思っています。娘の具合が悪くなったら心配するのは当たり前でしょう。うちの機械なので日本でもスペインでも、たとえどこにあっても修理に行きます。エリアは関係ありません」

海外の工場でメンテナンスをする社員(ヤナギヤ提供)
海外の工場でメンテナンスをする社員(ヤナギヤ提供)

そんな姿勢が海外でヤナギヤの評価を高めている。「コロナ禍で他のメーカーは来てくれなかったが、ヤナギヤだけは来てくれた」。口コミが次の顧客を呼び込む好循環を生んでいる。

社内ではエリアの担当を決めず、修理の担当さえも置いていない。営業マンも企画設計者も、社内の誰もが一定レベル以上の機械の知識を持っている。たまたまフランスに営業マンがいて、近くの顧客から修理依頼があれば、そのまま工場に駆けつける。その時に行ける人が行くというのが原則だ。修理ができないのは「社長と総務担当くらいです」と柳屋さんは冗談交じりに話す。

「未来は分からない」という経営方針

笑いを交え、ヤナギヤの経営について語る社長の柳屋芳雄さん ©HIDAKA Yasunori
笑いを交え、ヤナギヤの経営について語る社長の柳屋芳雄さん ©HIDAKA Yasunori

「金平糖経営」を実践するヤナギヤ。あちこちに“突起”を伸ばしているが、特定の分野に目標を定めて注力することはしないという。多くの企業が作成するような、中期経営計画も持たない。

「1年先くらいは何となく予測できますが、その先のことは分かりません。この業界からしか仕事が来ないとか、ここの業界の仕事はしないということはありません。どのお客さんが来年メインになるか分かりません。そんな柔軟性を持った経営の方が良いと思っています」

未来を予測せず、目の前にいる顧客の要望に応えてものづくりをやるだけ。そのために取り組んでいるのが展示会への出展だ。いろいろなメーカーが集まる場に装置を展示して、幅広い業界の企業から要望を聞く。雑談に近い話し合いの中から、「それならうちで作れますよ」と次のビジネスの芽が生まれる。

製品の開発もメンテナンスも、とことん顧客に寄り添うスタイルがヤナギヤ流。売上規模を追うこともなく、大きな投資もしない。自然体とも言える経営のあり方が、ヤナギヤを長寿企業として存続させている秘訣と言える。

【企業データ】

株式会社ヤナギヤ

住所 : 〒759-0134 山口県宇部市善和189-18

代表者 : 柳屋芳雄代表取締役

事業内容 : 食品や日用品、医薬品などの製造装置の開発・販売

資本金 : 1億円

従業員数:170人

Website:https://ube-yanagiya.co.jp/

取材・文:栗原健太、POWER NEWS編集部
バナー写真撮影:日髙康智

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