【書評】史上最高のメジャーリーガー大谷翔平は何を語ったか:石田雄太著『大谷翔平ロングインタビュー 野球翔年II MLB編2018‐2024』
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「三振になってもいいから強く振るほうがいい」
本書には、大谷ならではの語録が満載だが、ここではそのエッセンスを紹介しておきたい。打者としての大谷翔平の魅力は、なんといっても豪快なバッティングに尽きる。彼は全打席ホームランを狙っている。
「僕のポジション(3番DH)に求められているのは、フォアボールをしっかり取った上で長打を打つことです。変に内野ゴロとかシングルヒットで終わるなら、三振になってもいいから強く振るほうがいい」
日本ではとかく三振の数の多さを欠点として指摘する向きもあるが、そんなことは気にしていない。大谷の魅力はときに場外に飛び出すほどの特大ホームランだが、彼は飛距離には人一倍こだわっているようで、
「それはもっとも大事なことだと思っています。子どもはそこだけを目指して打ってもいいくらいでしょう。遠くへ飛ばすのは僕も楽しいし、見ているほうも、どこまで飛んだのかなって眺めるのは楽しいじゃないですか」
大谷は野球に関して「楽しい」という言葉をよく使う。それが彼の原点である。
「ケガをしていなかったら170kmくらい出ていたかもしれない」
しかし、ここに至るまで必ずしも順風満帆だったわけではない。2018年、エンゼルスに入団当初のシーズンは、10試合の先発で4勝2敗。打者では104試合で22本のホームランを放ち、新人王に輝いたものの、投手としての成績は不本意だったようで、「ピッチャーとしてはほぼ足りない」と反省している。
大谷は、ストレート、スライダー、フォーク、カーブの「4つの球種をしっかり、90から100%に近づけていけば、ある程度、結果は残せる」という手応えを得たものの、右ヒジに違和感を覚えた。
オフに投手生命が絶たれるかもしれないというリスクを負いながらも、周囲の懸念をよそに手術を受ける。9月2日の最後の登板では、99マイル(159キロ)のストレートを投げていた。手術する必要があったのか。その答えがいかにも大谷らしい。
「(手術しなくても)それなりに成績を挙げられたかもしれません。ただ、それが楽しいのかどうなのかを考えたとき、あまり楽しそうじゃないな」
「もしかしてケガをしていなかったら170kmくらい出ていたかもしれないと思ったくらいです」
投げるのが「一番の娯楽」
大谷にとって、ベストの状態で投げることが最高の「楽しみ」であり喜びだったのだ。2019年のシーズンは投げられなくなったことで、「一番の娯楽がなくなった感じもします」「打席に毎日、立つのも楽しいは楽しいんですけど(略)やっぱりマウンドというのは特別なものなんだなということを改めて感じます」と語るが、黙々とリハビリに取り組んでいく。
体幹やインナーマッスルを鍛えるトレーニングに励む日々。意外にも焦りはなかったようで「(故障によって)技術練習がなくなった分、フィジカルの練習が増えている。だから、そんなにフラストレーションはありません」と振り返る。
ここでは紹介しきれないが、本書の最大の読みどころは、リハビリに努める一方で、ひたすらMLBで通用するための投球術、打撃術をつきつめ、それについての自身の考えを詳らかにしているところである。彼はリハビリ中であっても「(野球が上手くなる)イメージは持てる」と語っている。
「フォアボールもツーベースになると思わせれば……」
2021年は、大谷にとって正念場のシーズンだった。彼は、二刀流として「今年はラストチャンスかな」という危機感をもっていたという。「チームとして、僕が2つをやっていくという方針に対して、見切りというか、そういう感じはありましたね」と打ち明ける。
そしてその年、見事に結果を残した。投手として9勝2敗、打者としてホームラン46本でシーズンMVPに輝いている。大谷は「その数字は自分にとってのこれからの基準になると思っています」と語り、さらに高みを目指す。
しかも、大谷は投手でありホームランバッターでありながら、けがを恐れず盗塁にも貪欲に取り組んでいる。それは何故なのか。
大谷からは「盗塁が増えれば、出したら走られるプレッシャーを相手のピッチャーに与えることができます。フォアボールもツーベースになると思わせれば、ピッチャーも勝負しようと思うかもしれません。だから走るということは大事なんです」という答えが返ってくる。それは個人の成績よりも常にチームの勝利に貢献したいと考えているからなのだ。
彼は率直にこう語る。
「一番になることは大事だし、一番になればうれしいんです。僕は絶対に世界一になりたいし、一番の選手になりたい。ただ、そういう気持ちで日々を過ごすからこそ、一番を目指して取り組む練習だからこそ、大事だし、おもしろいんです」
「フィジカルに技術がマッチしてくるのが30歳から……」
大谷は、MLBの選手として「30歳がピークかな。フィジカルに技術がマッチしてくるのが30歳から35歳くらい」と語っているが、昨年、10勝5敗、ホームラン44本という好成績を挙げ、2度目のMVPを獲得しながらも、また右ヒジの手術に踏み切った。今回も彼はこう考えた。
「150kmまでなら普通に痛みなく投げられた」
「でもそんなの、単純に楽しくない。僕は30歳になっていないし、まだ自分のマックスを目指してみたかった」
「自分で納得できないボールを投げ続けていくことが本当に自分のため、チームのため、ファンのためになるのか……そうではないはずだ」
そして30歳となる今シーズン、大谷はドジャースに移籍し、キャリアハイの成績を残した。WBCでの大谷の活躍ぶりはいまでも語り草だが、出場にいたるまでの事情や本人の思いは本書を読んで楽しんでいただきたい。オフでの過ごし方や「味は二の次」という食生活、結婚、愛犬の「デコピン」についての語り口はほほ笑ましいものだ。
本書には大谷の人間味が溢れている。
「伸びしろでいうと僕の中ではピッチャーのほうがはるかに残っている」
「バッターのほうは(略)太くて強い枝がしっかりできあがっている」と自己分析する大谷。二刀流に復帰する来季の活躍からも目が離せない。