【書評】今年の本屋大賞受賞作の続編も大ヒット中!:宮島未奈著『成瀬は信じた道をいく』

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いまや日本で最も販売部数につながる注目の賞といえるだろう。全国の書店員による「いちばん!売りたい本」を選ぶ2024年の「本屋大賞」が4月に発表された。受賞作は女子中高生の爽快な青春を描いた『成瀬は天下を取りにいく』(23年3月刊行)だが、発売当初から売れ続け、今年1月には待望の続編が出た。大学進学を目指す主人公の成瀬あかりは、さらにパワーアップして我が道を突き進む――。

滋賀県のローカル番組「ぐるりんワイド」

最初に、受賞作のあらましを紹介しておこう。中学2年の夏休み直前、主人公の成瀬あかりは唐突に、「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」と同じマンションに住む幼なじみの島崎みゆきに宣言する。彼女たちが住む滋賀県大津市にある唯一のデパート、西武大津店が8月31日をもって閉店する。

成瀬はちょっと変わった女の子だ。小学5年生のとき、「お金持ちが飼っている犬くらい大きな」シャボン玉を作って飛ばす「天才シャボン玉少女」として、地元で夕方放送されるローカル番組「ぐるりんワイド」に出演したことがある。卒業文集に書いた将来の夢は「200歳まで生きる」というものだった。けん玉だって名人級だ。

8月になったら「ぐるりんワイド」で、毎日、西武大津店から閉店カウントダウンの生中継が行われる。成瀬は西武ライオンズのユニフォームを着て、毎日、テレビに映ることを目指すというのだ。それが幼いころから西武にお世話になった彼女なりの感謝の気持ちの表し方であるらしく、いつしか親友の島崎もつきあわざるを得なくなっている。

本屋大賞を受賞した『成瀬は天下を取りにいく』
本屋大賞を受賞した『成瀬は天下を取りにいく』

その次には「島崎、わたしはお笑いの頂点を目指そうと思う」と言い出して、2人でコンビを組んで漫才コンテスト「M1」の予選に出場する。自宅の最寄りにあるのが膳所(ぜぜ)駅だから、コンビ名は「膳所から来ました」ということで「ゼゼカラ」である。こうした突飛(とっぴ)な思いつきの顛末(てんまつ)が本作の読みどころ。

成瀬は男の子みたいな言葉使いで話し、その言動はいささか風変りだが、「期末テストで500点満点を取る」と予告して490点を取るほど成績優秀。彼女は地元の名門進学校・県立膳所高校に進むが、周囲の好奇の視線もまったく気にせずマイペースで明るく元気に生きている。

そんな成瀬の不思議な磁力に、遠目で眺めていた周囲の大人や子供がいつしか引き寄せられて、一緒になって小さな街のちょっとした出来事に巻き込まれていく。その描写はユーモアたっぷりで、読者はどんどん著者が創造した「成瀬ワールド」に引き込まれていくのである。なにより女子生徒の身の丈に合った「天下取り」だから、ほほ笑ましくもあり面白い。

江州音頭がメインイベントの「ときめき夏祭り」

『成瀬は天下を取りに行く』はデビュー作にしていきなりの本屋大賞の受賞である。1983年生まれの著者は、京都大学文学部卒で現在は大津市在住。本作がベストセラーになった理由は何だろう。

主人公の強烈な魅力あふれる人物造形もさることながら、舞台がローカル色豊かな物語であることも読者の共感を呼んだのではないか。閉店される西武大津店、琵琶湖の観光船「ミシガン」、地元資本のスーパー「平和堂」、江州音頭がメインイベントの「ときめき夏祭り」などなど、これらは実在するが、地方ならではの温もりにあふれている。

成瀬の周りには、両親や友人、隣人、子供たちまで善意と人情味のある人々が取り巻いており、過疎の問題はあっても地元住民の生活は生き生きとしているのである。

受賞作の最後の挿話では、親友の島崎は父親の転勤で東京へ行くことになり、成瀬は実家から通える京都大学を目指すところで終わる。というわけで、成瀬のその後が気になるところ。迷コンビだった島崎との友情は途切れてしまうのか?そんな読者の期待に応えて編み出されたのが続編の『成瀬は信じた道をいく』なのだ。そのユーモアのテイストは、見事に引き継がれている。

「びわ湖大津観光大使」に選ばれて

続編では、成瀬は受験勉強のかたわら地元スーパーでレジ打ちのアルバイトをするのだが、クレーマーの主婦を味方につけて万引犯を摘発したりする。そうかと思えば今度は「びわ湖大津観光大使」に難なく選ばれ、就任式で応募の動機を尋ねる記者に破天荒な答えを返す。

中学生の頃から幼なじみとゼゼカラというコンビを組んでときめき地区の発展に努めてきた。その活動範囲を大津市全域に広げるのが一年間の目標だ。

ここではもうひとりの観光大使に選ばれた、お嬢様育ちの「篠原かれん」という成瀬とは対極にある個性の相方を得て、観光大使の日本1を決めるグランプリの近畿ブロック予選に出場して地元愛をいかんなくアピールする。

そんな成瀬が、暮れも押し詰まって、実家に「探さないでください」という書置きをして家出してしまう。それはどうしてなのか。島崎をはじめ、ここまでの登場人物総動員で成瀬の捜索が始まるのだが、その結末は、鮮やかでほっこりとした温かい余韻を残す。

誰しも思い起こせば、クラスに1人は成瀬のような同級生がいたことだろう。正編、続編とも今の学校生活に閉塞感のある子供たちには、ホッと息抜きできる楽しい小説であり、大人にとってもどこか懐かしさを感じる物語なのである。そして今度は、成瀬の京都大学編が始まることになる──。

『成瀬は信じた道をいく』

『成瀬は信じた道をいく』

新潮社
発行日:2024年1月25日
四六版:203ページ
価格:1760円(税込み)
ISBN:978-4-10-354952-9

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