
【書評】ハリウッドで映画化された『マリアビートル』に続く話題作:伊坂幸太郎著『777 トリプルセブン』
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今度は超高級ホテルの密室で…
「今回は大丈夫だから。あまりに簡単…」と仕事の依頼を受けた真莉亜は、「天道虫」こと七尾に言う。彼女はいつもそんな軽い調子でお願いするが、事はそう首尾よく進まず、彼は必ず窮地に追い込まれる運命にある。
前作『マリアビートル』で請け負った仕事は、東京駅で東北新幹線に乗り込み、指定されたスーツケースを持って次の上野駅で降りるというものだった。ところが運が悪い七尾は、車内で数々の同業者と遭遇し、格闘の末、盛岡まで行く羽目に。危うく死体の山に加わるところだったのだ。
今回の任務は、都内の超高級ホテルに宿泊する人物に、娘からの誕生日プレゼントを渡すというもの。確かに簡単な仕事のはずだったが、部屋を訪ねた七尾は、誤ってその人物を死なせてしまう。そもそも訪ねた部屋番号が間違いで、しかも、その男は同業者。七尾は慌ててエレベーターで移動して本来の受取人に品物を渡し、急ぎホテルから脱出しようとするが、1階に到着する前に止まった階で、過去に因縁のある別の同業者と出くわしてしまうのだ。
前作は新幹線という密室で物語が進行していくが、今作でも超高級ホテルという限られた空間が舞台となる。そこで次々と劇的な事件が巻き起こるのだが、手だれの伊坂幸太郎は、手際よく個性の強い登場人物たちを操り、緊迫感のある場面を創出していく。全編、当意即妙でユーモア溢れる会話の数々は、作者薬籠(やくろう)中のものである。
「紙野結花」という頼りなげなヒロイン
そして七尾と並ぶ主要な登場人物でヒロインとなるのが、同じホテルに宿泊している「紙野結花」という頼りなげな女性である。しかし彼女には、例えばホテルの約款とか、なんでも瞬時に記憶して忘れないという特殊能力がある。そのおかげで学業優秀だった彼女もまた、不運で孤独な人生を歩まざるを得ず、いまは「乾」という一見すると好男子だが、実は非合法な裏社会で仲介業を営む人物のもとで事務仕事をしている。
乾は複雑な業務内容をすべて紙野に記憶させ、犯罪の証拠を残さない。乾には、麻酔をかけた生体の解剖が趣味という噂があった。紙野は、秘密を知り過ぎた自分も消されるという不安から、「ココ」と呼ばれるハッキングが特技の「中年おばちゃん」の「逃がし屋」に依頼して、ひとまずこのホテルの部屋に潜んでいたのであった。
紙野の居所を突き止めた乾は、男女若者6人組の殺し屋を雇い、拉致するよう依頼する。彼女が記憶している秘密のパスワードが必要だったのだ。ここに、清掃員に化けてホテル内で業界の仕事を請け負っている「モウフ」と「マクラ」という2人組の女性が絡む。さらには、元国会議員でいまは政府の情報機関の局長が、彼の過去を追いかける新聞記者とホテル内の高級フレンチレストランで腹の探り合いをしているという案配。ここまでが、物語のお膳立てである。
「777」は「ジャックポット」
タイトルの「777」は、スロットマシンで「ジャックポット」という7が3つそろう大当たりを意味している。いよいよ追い詰められた紙野は、七尾に「人生で一度くらい、ジャックポットを出したいです」と言い、七尾は「俺なんて、スロットマシンを回そうとしたらレバーが壊れる、そういう人生だよ」と嘆くのだった。
前作同様、本作でもそれぞれの登場人物ごとに章立てした場面が急展開で進んでいき、一気呵成(かせい)に読める。一見、バラバラに進行していくような物語が、最後には一つの結末に向かって見事に収斂(しゅうれん)していくのだ。紙野は6人組の魔手から逃れることができるのか。不本意ながらもその逃亡劇に巻き込まれた七尾は、数々の窮地をどうやって脱するのか。それが最大の読みどころであるが、ラストで明かされる巨悪の正体とは──。
お薦めとしては、先に『マリアビートル』を読んでおいた方が楽しめるが、読者の期待を絶対に裏切らない。前作に続き、本作も英訳されて海外で出版されるだろう。しかも映像化するにはもってこいの作品に仕上がっており、コンパクトに書き下ろされたこの続編でも、ブラ・ピ主演の映画化を狙っているのか?そんな企みが作者にはあるような気がする。