
【新刊紹介】「猿になる」ことは、夢中になること:河本望(著)、宇田川新聞(絵)『どうぶつ英語フレーズ大集合!』
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確か中学生の時のこと。
外国人の先生に教わる英語の授業の副読本で、”It rains cats and dogs”という表現が出てきた。
えっ、猫と犬が降ってくる?
いったいどういうことなのか、さっぱりわからない…。
挿絵は土砂降りのなか、傘をさして歩く男の子だったか、女の子だったか。
先生のつたない日本語と中学生のたどたどしい英語のやりとりの結果、どうやらIt rains cats and dogsは、絵のような土砂降りを意味しているとわかったときは心底びっくりしたし、あれから30年余りが経ったいまも、しっかり記憶に刻まれたままだ。
本書はそんな、動物を使ったユニークな英語表現を、動物のアルファベット順に50個紹介している。
毎日中学生新聞の連載を書籍化したものだが、大人が読んでも十分に楽しめる一冊だ。
たとえば
go ape(さるになる)・・・夢中になる、興奮する。ひどく怒る
とか、
in the doghouse(犬小屋の中に)・・・相手のきげんをそこねたり、しかられてしゅんとしている状態、pigheaded(ぶた頭の)・・・強情な、がんこな、つむじまがりの、石頭のといった、日本ではあまり知られていないであろうものもあれば、scapegoat(逃げたヤギ)=他人の罪を負わされる者、lame duck(足の不自由なあひる)=(任期満了前の)影響力を失った大統領や政治家 など、すでに日常用語として使われている表現もある。
添えられた語源や解説、例文もユーモアがあってわかりやすい。
go apeのページには
ゴリラが『ウッホ、ウッホ』と大きなさけび声をあげながら、とりみだして大さわぎしているようなイメージの言葉です
とある。
ゴリラが取り乱して大騒ぎしているところなんて、動物園どころかテレビでも見たことがないのに、なぜだか情景が想像できてしまうのだから不思議だ。
著者は8歳からアメリカで暮らし、シカゴ大学を卒業した後、新聞社や研究所で和文英訳や英文を執筆。おそらく自身が海外生活を送る中で、幼い頃から親しみ、普通に使ってきた表現が多いのだろう。今度英語を話す機会があったら、ちょっと使ってみたくなるような言葉がたくさん見つかる。
さらにひとつひとつのフレーズに、情景を描いた版画が添えられている。これがまた、どれもこれもうまく言葉の特徴を捉えていて、クスリと笑わせてくれる。
「叱られてしゅんとしている」を意味する“in the doghouse”で描かれているのは、狭そうな犬小屋の中に寝そべる犬と、その横に膝を抱えて座るサラリーマン。どちらも、“しゅん”とした八の字眉毛だ。
大学受験の英単語も、これくらい簡単に覚えられたらいいのに……と悔しくなるほどすっと頭に意味が入ってくる。
日本にも「ウナギの寝床」とか「飼い犬に手を嚙まれる」、「虎の尾を踏む」など、動物の名前を用いた表現は数多くあるが、英語の方が比較的単語が少ないからか、シンプルで覚えやすい気がする。
puppy love(子犬の恋)が初恋とか、happy as a lark(ひばりのように幸せ)がとても幸せとか、なんだか明日から使えそうだ。
それとも、そう感じるのは、本書の明快な解説と素敵な版画の相乗効果のおかげだろうか。
発行:偕成社
発行日:2021年5月27日
111ページ
価格:1320円(税込み)
ISBN978-4-03-003460-0