【新刊紹介】今もマッカーサーに支配される日本経済:田中秀臣著『脱GHQ史観の経済学』
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経済思想には、政府支出の削減や増税などで政府の財政を均衡させようとする「緊縮主義」(緊縮財政)と、これとは反対に政府が積極的に財政支出する「反緊縮主義」(積極財政)がある。
GHQは日本の非軍事化を達成するため、財閥解体、農地改革などの経済民主化を行った。占領初期のGHQは、日本経済のパイ(生産や消費)を拡大するというよりも、現状のパイの大きさをいかに切り分ける(再分配)を重点に置いていた。冷戦で「占領政策を転換してからは、パイの大きさそのものを縮小することを目指した」。つまり、GHQは積極的な財政政策には否定的で、緊縮主義を採っていた。
これに立ち向かったのが時の大蔵大臣、石橋湛山(後に首相)である。敗戦後の長期的なインフラ整備を、国債の発行によって行うべきだと積極財政を打ち出す。高率なインフレの一方で、高度成長期並みの経済成長率を達成するが、石橋はGHQによって公職追放された。
「GHQの緊縮主義に、当時の日本の緊縮主義者たちが相乗りし、日本の経済や社会、そして文化に至るまで大きな影響を与え」ていく。こうして、緊縮主義はGHQの置き土産として、今日の日本に根強く残ることになった。
コロナ危機の経済対策
今、世界はコロナ危機と戦っている。米、中、露などはこぞって国家的威信をかけ、巨額の国家予算を投じて自国ワクチンの開発を援助した。米バイデン政権のイエレン財務長官は、日本を含むG7の各国に積極的な経済対策を要請。世界は、人々の生活を支えるため、どんどん経済を刺激していこうという方向に進んでいる。
「だが、日本の現状は世界的潮流とは異なり、コロナ危機のまっただ中であっても、『コロナ復興税』とか『財政規律(財政収支の均衡)』を重視する意見が絶えない」と著者は緊縮主義を嘆く。
コロナ危機のもとで、なぜ日本の経済政策がうまくいかないか、なぜ緊縮主義を選ぼうとするのか。その問題の根源は「経済の自虐史観とでもいうべき政策態度に基づく」と本書は指摘する。
PHP新書
発行日:2021年4月29日
208ページ
価格:990円(税込み)
ISBN:978-4-569-84843-3