【新刊紹介】現代日本における宗教の現在地を明らかにする:岡本亮輔著『宗教と日本人』
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抽象度の高い書名だが、本書はタイトル通り、宗教と日本人の不思議な関係を巧みに整理していく挑戦的な一冊である。年始には初詣に出かける一方、キリスト教の教会で結婚式を挙げ、そして寺で葬儀を行っても特段の疑問を持たない日本人――。それを宗教社会学者の著者は、単に無宗教だと済ませるのではなく、宗教理解の刷新を試みる。
第1章で宗教を信仰、所属、実践という三つの要素に切り分けたうえで、従来の宗教理解は信仰に偏っていたのではないか、という指摘はスリリングだ。信仰を中心に据えた宗教という理解では、たとえば葬式という実践に重きを置いた現代の仏教などの扱いが難しくなってしまう。だが、要素を分解することで、こういった様々な現象は一気に理解しやすくなる。
分析のために各章で取り上げられるトピックは実に幅広い。新宗教の退潮や、神社とパワースポットの関わり、スピリチュアル文化の盛り上がりなど、私たちにも馴染み深いテーマが深掘りされていく。
その中で、メディアや学問、文化財などをもとに信仰や実践が社会的に出来上がっていくケースで、現代の一部の人々が縄文やケルトの信仰や死生観に惹かれる背景が解説されるのも興味深い。著者は日本人と宗教の関わりを「信仰なき宗教」とみなす。そして、そうした信仰なき社会であるがゆえに、古代人など他者の信仰が仮構されていく側面も垣間見えるからだ。
終章で著者は、サミュエル・ハンチントンの『文明の衝突』やユヴァル・ノア・ハラリの『ホモ・デウス』などの議論を参照し、基本的に大きな宗教論は終わりつつあるという認識を示す。それは、ヨガや座禅、御朱印集めなど無数の宗教実践が、道具として消費されていることの表裏一体と言えるだろう。
こうして周到な分析の結果、「所属要素が極めて希薄で、個人が信仰・実践の主体となる、徹底的に私化された宗教」の姿が浮かび上がってくる。それこそが、まさに現代日本における宗教の現在地に他ならない。
(ニッポンドットコム編集部)
中央公論新社
発行日:2021年4月20日
新書版:240ページ
価格:902円(税込み)
ISBN:978-4-12-102639-2