「命のビザ」杉原千畝のイメージを塗り替えた書籍が、内閣府事業で英訳本に:The Duty and Humanity of an Intelligence Officer
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「世界の皆さんに杉原の素顔を知ってほしい」
このたび英訳された本の原題は、「杉原千畝 情報に賭けた外交官」(新潮文庫、2015年刊)。著者の白石仁章(まさあき)氏(57)は、外務省外交史料館に30年以上勤務し、杉原研究を長年続けてきた。同書は、杉原が任地から送った公電や、報告文書などの史料を渉猟して、「命のビザ」発給問題にとどまらず、「インテリジェンス・オフィサー」としての姿など、彼の生涯を通した全体像に迫った作品である。
この本が、内閣府国際広報事業の一環として、日本の優れた書物を民間有識者が選定し英訳出版する事業「JAPAN LIBRARY」の図書に選ばれて、出版文化産業振興財団から英訳本が出版された。題名は「SUGIHARA CHIUNE」で、サブタイトルは原著とは違い、「The Duty and Humanity of an Intelligence Officer」(インテリジェンス・オフィサーの責務と人間性)となっている。
白石氏は「杉原千畝が偉大なるヒューマニストにとどまらず、優れたインテリジェンス・オフィサーであったからこそ、『命のビザ』の発給もできた。あの本で杉原に関するいくつかの新説を織り交ぜ、これまでの杉原像とは違う側面を紹介した。私の研究発表はこれまで主に国内でとどまっていたが、今回の英訳本で、世界の皆さんに杉原の素顔を知っていただけたらと、期待している」と話している。
この本の中で白石さんは、(1)大量発給された『命のビザ』が日本で無効とならないように、杉原は数々の工夫をしている(2)杉原がリトアニア・カウナスで『命のビザ』を発給したのは、ナチス・ドイツの迫害を受けたユダヤ人だというのが定説だが、実は反ユダヤ思想が強いソ連の迫害から逃れようとするユダヤ人が多かった(3)杉原はカウナスの次の任地、チェコのプラハでも、ドイツの占領下にもかかわらず、ユダヤ人を救済するビザを発給し続けた――ことなどを記している。
現地を踏破し、情報戦に活躍する杉原
また、杉原は41年、プラハの次に東プロイセンの中心都市ケーニヒスベルグ(現ロシア領カリーニングラード)に赴任して、これまで接触してきた亡命ポーランド政権の情報将校らとソ連国境地帯を踏査。森の中でドイツの戦車などが隠され、大軍が集結しており、不可侵条約を結んでいたはずの独ソ両国の開戦が間もないことを、いち早く日本に打電した。
大戦直前、そして戦時中の激しい情報戦の中で活躍する杉原の姿がこの本で数多く紹介されており、英訳本が今後の世界での「杉原千畝研究」に大きな影響を与えることになる。
(※白石氏の見解は個人的なもので、同氏が属する機関を代表する見解ではありません)
発行:(一般財団法人)出版文化産業振興財団
発行日:2021年3月27日
211ページ
価格:2640円(税込み)
ISBN:978-4-86658-174-3
バナー写真:英訳本の書影