
【新刊紹介】地方の国立大学病院の奮闘:島田眞路・荒神裕之著『コロナ禍で暴かれた日本医療の盲点』
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ノーベル生理学・医学賞の受賞者、大村智さんの母校でもある山梨大学。同大の病院で「新型コロナ」との闘いが、今年3月に始まった。クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の感染患者や、県内初の感染者の受け入れ。救急搬送された20歳代の患者がPCR検査で陽性に。
さらに、心肺停止の状態で救急搬送された乳児がPCR検査で陽性と判明。院内感染が心配される事態となり、医師18人、看護師20人を含む計47人もの医療者が14日間、第一線から離脱した。甚大な影響があったが、もし早期に乳児のPCR検査を行わなければ、院内感染がさらに深刻な問題となるところだった。
県内唯一の高度先端医療を行う特定機能病院であるため、県内での爆発的な感染拡大の局面で重篤、重症の患者を受け入れている。「PCR検査は迫りつつあったリスクを水際で食い止めた救世主であった。」
しかし、日本でのPCR検査の実施数は、医療資源に制約のあるパキスタンと同じ水準だと、著者は嘆いている。検査を地方衛生研究所、保健所だけでなく、民間検査会社と大学病院でも出来るように主張してきたが、大学病院での検査数の伸びは非常に鈍い。
その背景には二つの隠れた問題がある。「縦割り行政」と「大学側の費用負担」の問題だ。大学の主務官庁は文科省なので、「厚労省主管の医療対策の中で、文科省主管の大学病院は蚊帳(かや)の外だった」。山梨大学病院は感染症指定医療機関ではないが、一般病床の47床を「コロナ」専用病棟に転換し、検査機器の購入などで費用負担が増え、PCR検査の拡充ができにくい現実もあるという。
コロナ禍は日本の医療が抱えてきたさまざまな課題をあぶり出した。その中で山梨大病院は、コロナとの闘いでは県と連携し、一丸となって取り組むことが非常に重要であることを学んだ。先人たちが築き上げた「知の拠点」を地域の財産として、各地方の国立大学が底力を発揮すべき時がきている、と本書は述べている。
平凡社新書
発行日:2020年10月15日
254ページ
価格:920円(税別)
ISBN:978-4-582-85957-7