【新刊紹介】生き物がうまい食肉となる現場を歩く:平松洋子著『肉とすっぽん』

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羊、猪、鹿、鴨、牛、馬、すっぽん、鯨。人間は「なぜ肉を食べるのだろうか」。食文化の執筆活動を続ける著者がその答えを求めて、生き物がうまい食肉となる現場を歩き、その解体作業も見つめた。

肉食が人間の進化を促したという。植物の消化には時間とエネルギーが必要とされるが、肉食なら消化管が縮小され、脳容量が増して脳の発達をみた。

山梨と埼玉との県境に近い奥秩父の山中で3月、鹿猟が行われていた。半日かけて見つけた約50キロの大物メス鹿。サバイバル登山家が銃で仕留めると、ここからが力仕事になる。

肉のおいしさを保つため、素早くナイフで血抜きを行う。鹿の前脚が宙をかき、後ろ脚は何かを激しく蹴り上げようともがく。次に内臓を取り出す。ここまで、理想的な時間は15分以内。自分とほぼ同じ体長の鹿を背中に担ぎ、一人で山から下りていくのも大変だ。本書には、この時の一連の写真も掲載されている。

猪を大事な畑を荒らす害獣と捉えるのではなく、貴重な資源と考えて人口5千人足らずの過疎の町を活性化させた島根県美郷町。猪被害に悩む農家が自ら狩猟免許を取得して駆除に乗り出した。ケモノ道には箱ワナが仕掛けられ、捕れた猪の肉は町ぐるみでブランド品に育てられた。

山くじら弁当、猪肉シューマイ、コロッケを販売する婦人グループも。築50年の元保育所の給食調理室では、缶詰が作られている。月産2千個、年間売り上げ1千万円が目標だ。猪のなめし革で作ったクラフト製品も売られている。

すっぽんは食通だけでなく、美容効果を求める女性にも人気があるそうだ。静岡県の浜名湖に近い舞阪には、明治33年(1900年)に造成された日本初のすっぽん養殖場がある。東京の日比谷公園ほどの広大な敷地に無数のすっぽんが飼育され、養殖池の環境を守るため、従業員が池に入って水面に繁茂する水草を取り除く作業を続けていた。こうして水質がきれいに保たれ、健康なすっぽんが育てられている。

日本各地の食肉の現場を訪ねた著者が感じたのは、次の二つだ。
肉にも「旬がある」。うまい肉は「つくられる」。

発行:文藝春秋
発行日:2020年7月15日
266ページ
価格:1500円(税別)
ISBN:978-4-16-391223-3

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