【新刊紹介】現代中国の未知の素顔:安田峰俊著『もっとさいはての中国』

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未知なる中国を探し求めた突撃取材が面白い。前作『さいはての中国』に続くシリーズ第2弾。アフリカの広大な国立公園を突き抜ける中華鉄道、カナダの華人秘密結社など7編が収録されている。

本書のタイトルの「さいはて」は、地理的な辺境地帯だけではなく、誰も気にとめず注意を払わない現代中国の未知の素顔を意味するという。

ライオンなど野生動物の保護で知られるケニアのナイロビ国立公園を走り抜ける鉄道が、中国の融資で2017年に開通した。キリンの首がひっかからないよう、高架の高さは最大40メートル。車窓の眺めがすばらしい。下に野生の動物たちを見ながらサバンナを突っ切り、地平線が広がる。各車両の前後の壁にはケニアと中国の国旗がプリントされている。

援助対象国の内政に干渉しない中国は、専制的で、腐敗も少なくないアフリカ諸国と相性がいいらしい。問題は山積みながら、地元の人たちに歓迎される中華鉄道は、近隣国と接続して東アフリカの大鉄道網の一端を担う計画もある。「アフリカの国家と、生息地を奪われる動物たちの将来を決めるのも中国かもしれない」と著者は指摘する。

カナダのバンクーバーは北米で華人系住民が最も多い地域で、市内の華人比率は25%を超えると見られる。2018年には中国IT大手の「ファーウェイ」副会長が逮捕されたこともあった。著者はここの伝統的な華人秘密結社に直撃取材を試みる。中国共産党に近く、「反日」的な政治運動にも関係していると見られているからだ。

普段の活動について尋ねてみると、「爺さんたちが集まって、しゃべったり、麻雀を打ったりしている」とのこと。「反日」運動といった物々しい噂に反して、「高齢化による後継者不足と活動の低調化に頭を悩ませている」ことがわかってきた。

文章がこなれていて、実に読みやすい作品だった。著者は37歳のルポライターで、今年、別の作品で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞している。

小学館新書
発行日:2019年10月8日
285ページ
価格:840円(税抜き)
ISBN:9784098253555

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