
【新刊紹介】現代中国最大のヒット作:劉慈欣著『三体』
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文化大革命当時(1967年)の激しい糾弾集会で、物理学教授が若い紅衛兵らに殺されるシーンで始まる。主人公の一人がその教授の娘で、後に天体物理学者になる葉文潔。彼女は中国共産党中央委員会に直属する秘密基地で働くようになる。
この物語の主要な舞台となっている秘密基地には、地球外知的生命体の探査というミッションが隠されていた。やがて「三体」と言われる異星の世界の話になっていく。
もう一人の主人公は研究者・汪で、世界的な科学者が次々に自殺していることを知り、調べを続ける。鍵を握っていたのが、死者がやっていた巨大なVR(仮想現実)ゲーム。感覚が刺激される全身スーツやヘルメットを装着して行うもので、プレーヤーとなった汪は頭の中で歴史的偉人らと遭遇しながら、人類の破滅や再生を体感していく。
ゲームの名は「三体」。地球人類の歴史から抽出した要素を下敷きに、実はあの異星「三体」が自分たちの文化を広めるためのシナリオで作られたものだった。「三体」の影響がすでに地球に及んでいたのである。
葉文潔はある願いを込めて「三体」と交信する。地球の位置を正確に知った「三体」が自分たち以外の知的生命体の存在を認知したら、どうなるか――。しかし、第1部ではまだ何も決着しない。続く第2部日本版は来年発行の予定。著者は数年前までエンジニアとして発電所で働きながら、SF作品を執筆していたという。
この本が世界的に注目されるようになったのは、オバマ前米国大統領が2017年、現職の最後の頃、愛読書と挙げてからだ。「広大な宇宙の運命を読んでいると、私が毎日直面している議会問題など小さなことだと思える」と語ったそうだ。
日本の読者は、中国が今やアメリカと宇宙でも覇権を争う「宇宙大国」であることを理解して読み進めた方がよい。実際に超高度の宇宙技術を持つようになった中国が国家プロジェクトとして何かをやっている、あるいは作中のもの以上のことを進めていると想像すると、いっそう興味が広がる、と筆者は思っている。
発行:早川書房
発行日:2019年7月15日
四六判447ページ
ISBN: 9784152098702