【新刊紹介】日本人への遺言:堺屋太一著『三度目の日本』

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斉藤 勝久 【Profile】

毎週土曜の「新刊紹介」。旧盆が近づいてきましたが、今回は今年2月に亡くなった堺屋太一の絶筆で、日本人への遺言書となった提言です。  

近未来小説「団塊の世代」で知られ、多くの著作で予測を的中させてきた著者が、死の直前に書き残した日本人への最後の提言。それが本書である。

今、日本人は三度目の「敗戦」状態にある。――これが書き出しだ。

「敗戦」とは価値観が大きく変わることで、一度目は黒船がやってきて開国を強いられた幕末。二度目が太平洋戦争に敗れた1945年。そして今、三度目を迎えようとしている。

戦後、豊かな日本を造り上げてきた。「天国を作った」とまで言われるが、日本人には「夢と楽しみ」がなく、本当に幸せとは言えない。東京五輪の後の2020年代は、団塊の世代の全員が後期高齢者となり、少子高齢化や地方の過疎化などの問題も深刻化して、日本の危機がくる。

敗戦のたびに力強く立ち直ってきたが、「三度目の日本」をどんな国にすべきか。著者は独自の史観で、なぜ戦後の「二度目の日本」が行き詰ったかを分析。官僚主導の政策で、夢もなく冒険する気も湧かない「低欲望社会」になってしまったと説く。 

これからは「楽しい日本」にしようと提言している。ロボットやAI(人工知能)により、仕事の時間が短縮され、余暇時間の長い時代が来るので、日本人が何かに上達する楽しみを持てる社会にしようと主張する。

発行:祥伝社
発行日:2019年5月10日
新書版195ページ
ISBN:9784396115715

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    ジャーナリスト。1951年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。読売新聞社の社会部で司法を担当したほか、86年から89年まで宮内庁担当として「昭和の最後の日」や平成への代替わりを取材。医療部にも在籍。2016年夏からフリーに。ニッポンドットコムで18年5月から「スパイ・ゾルゲ」の連載6回。同年9月から皇室の「2回のお代替わりを見つめて」を長期連載。主に近現代史の取材・執筆を続けている。近著に『占領期日本三つの闇 検閲・公職追放・疑獄』(幻冬舎新書)。

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