【新刊紹介】『総理の女』『フィロミナの詩(うた)がきこえる』
Books 政治・外交 社会 歴史- English
- 日本語
- 简体字
- 繁體字
- Français
- Español
- العربية
- Русский
福田和也著:『総理の女』新潮社
刺激的な書名だが、本の帯を見て納得した。「教科書には絶対載らない宰相たちの素顔」。時の権力者の妻や愛人に焦点をあてて、明治から昭和の戦争期までの総理10人の実像に迫っている。
最初に登場するのは、初代首相の伊藤博文。幕末の慶応元年(1865年)、長州の馬関(下関)で反対派の侍たちに追われていたが、神社に逃げ込み、難を逃れる。伊藤が隠れたのは境内の片隅のごみための中。その上にむしろを敷き、座っていたのが16歳になる茶店の娘、梅子だ。
しかし、梅子は家の事情で身売りされる。伊藤は梅子を救い出し、正妻と離縁して、夫婦となる。女性関係にだらしなかったといわれる伊藤だが、天子様(天皇)と同じくらい梅子夫人を尊敬していた。
大隈重信、原敬、近衛文麿などに続き、最後は東條英機。その夫人カツ子は、福岡の女学校時代に東條の母の実家である寺で暮らした。上京して女子大に進学した際、東條の父が保証人になった縁で、学生のまま結婚する。東條が一度失敗した陸軍大学の受験を二人三脚で臨み、夫を合格させた。A級戦犯で処刑され、今なお厳しい批判にさらされる東條だが、家庭生活は「総理」にしては珍しい妻一筋だったという。
著者はあとがきで、歴代総理の定着したイメージとは異なる「驚くほど意外な素顔が浮かびあがってきた」と記す。これも日本近現代史の真実である。
発行日:2019年4月20日
新書版 237ページ
ISBN:9784106108112
中澤健、中澤和代 共著:『フィロミナの詩(うた)がきこえる』ぶどう社
厚生省(当時)の障害福祉専門官だった著者の中澤健は50歳で退職し、2年後の1993年、マレーシアに行く。現地で不足していた障害者施設をペナン島で次々と立ち上げた。
それから10年後の2003年、途中で合流した妻和代(共著者)と共に、ボルネオ島に渡った。少数民族が15世帯で共同生活している全長100メートルの長い「ロングハウス」で暮らし始める。
別のロングハウスを訪れた際、中澤健は柵の中にいた鋭い目の少女を見た。13歳の、書名になっている心身障害児、フィロミナだった。現地にはまだ障害の認識がない。「この子は生涯、この檻(おり)から出られないのか…」と悩んだ中澤は、フィロミナが通えるデイセンターを造ると決意する。
日本からのボランティアも参加した建設作業が、現地の新聞で大きく報道された。地元からも資材や寄付金が集まり、20数人が在籍する施設「ムヒバ」(マレー語で調和)が完成。あのフィロミナも祖母に抱かれ、送迎車で通えるようになった。
中澤健がボルネオにこだわる理由があった。父の足跡をたどるためだった。中澤が生まれた翌年の1942年、すでに戦争が始まっており、父は軍部からの要請で工場運営のため、単身でボルネオに渡り、終戦直後に「戦死」した。2010年、林の中で父と思われる日本人の墓を探し当て、記念碑を建立する。
夫婦の体験を書いたこの本のサブタイトルは「マレーシアで25年 平和と福祉を考える」。読み終えると、その深い意味が心にしみてくる。
発行日:2019年4月18日
223ページ
ISBN:9784892402401