【書評】是是非非の中国論:進藤榮一・周瑋生・一帯一路日本研究センター編『一帯一路からユーラシア新世紀の道』
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一帯一路は「アジア力の世紀」を象徴
21世紀の国際公共財となるのか、それとも中国の膨張主義の野望なのか——。中国の習近平国家主席が2013年に提起した広域経済圏構想「一帯一路」をめぐる論争は極端に振れやすい。
本書の編者、筑波大学の進藤榮一名誉教授は17年11月に設立を発表した「一帯一路日本研究センター」(最高顧問、福田康夫元首相)の代表である。進藤氏ら同センターのメンバーは18年9~10月、中国各地を現地視察、多くの研究機関などと意見交換し、その成果も加味して本書をまとめた。
19世紀は英国、20世紀は米国、21世紀はアジアの時代といわれる。進藤氏は本書序章で、今世紀の情報革命の下、グローバル化の第三の波が「パクス・アシアーナ」というアジア力の世紀をつくっていると指摘、アジア力の世紀とは「台頭する中国を軸にユーラシア大に広がる『ユーラシア新世紀』の登場と言い換えてよい。その登場を『一帯一路』構想が象徴している」との認識を示す。
第三国でのさまざまな日中経済協力を提言
一帯一路構想は日本経済、日本企業にとっても極めて重要である。その意味で安倍晋三首相が18年10月下旬の訪中で習近平国家主席らと「第三国での日中民間企業によるインフラ協力」で合意した意義は大きい。
進藤氏は序章で、日本経済の再活性化に向け「いまとるべき戦略は、広大なユーラシア地域における第三国への日中インフラ共同投資であり、開発と管理運営に共同参画することだ。それを、20世紀一国繁栄主義から21世紀『連亜連欧』への道といってよい」と提唱する。
第15章で「一帯一路エネルギー環境共同体の構築」を訴える立命館大学政策科学部の周瑋生(しゅう・いせい)教授は「経済と環境の利益を共有できる『合弁企業方式』による第三国での日中環境協力を」と政策提言。亜細亜大学アジア・国際経営戦略研究科の范云涛(はん・うんとう)教授は第16章での政策提言で「日中両国の強みを活かし、沿線国地域で実務者環境対策プロジェクトを講じるべき」と強調する。
ただ、日本政府内にはかねて一帯一路のインフラ整備の受発注が透明で公正かどうか、外国での港湾整備が軍事利用につながらないかなどの懸念がある。河合正弘東京大学公共政策大学院特任教授が本書第1章で、一帯一路について「勢力圏拡大を意図せず、『債務の罠』を避けるならば真の国際公共財になりうる」としたうえで、「経済性、開放性、透明性、債務の維持可能性に努めることで全沿線国に有益となる」と政策提言しているのは説得力がある。
日本は米国より先にAIIBに加盟すべきだ
年間1兆7000億ドル超とされるアジアの旺盛なインフラ需要は、アジア開発銀行(ADB)とアジアインフラ投資銀行(AIIB)だけではとても賄い切れない。先進7カ国(G7)でAIIBに加盟していないのは日本と米国だが、18年6月のインド・ムンバイでのAIIB年次総会では、登壇者やオブザーバーとして参加する米国人が目立った。半面、主要国の中で日本だけがAIIB顧問の鳩山友紀夫元首相以外、オブザーバーを含めて参加者を派遣しなかった。
その鳩山氏は本書のコラムで、「日本が米国より先にAIIBに参加することが、一帯一路構想への積極的な協力の証し」になると説く。確かに日本の官民が一帯一路に前向きな姿勢にかじを切る一方で、AIIBと距離をおくのは矛盾している。本書でも言及されているように日米主導のADBと中国が率いるAIIBは既に協調融資を何件も実施している。そもそも日銀の黒田東彦総裁とAIIBの金立群総裁はADB正副総裁として一緒に仕事をしたことがある“老朋友(古い友人)”である。
第三の地域統合へTPP11と一帯一路
「第二次世界大戦後の欧州地域統合の第一の波、冷戦終結後、アジア金融危機後のアジア地域統合の第二の波、そしていま世界金融危機後の『一帯一路構想』の第三の波が、ユーラシア新世紀の世界を作り続けています。多極化世界の登場です」。進藤氏は本書まえがきで、一帯一路を「第三の地域統合」とも位置付けている。
米中貿易戦争が曲折を経る中で、世界は多国間のメガFTA(自由貿易協定)づくりの大競争時代を迎えている。一帯一路と、APEC(アジア太平洋経済協力会議)加盟21カ国・地域の地域経済統合となるFTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)構想は地域的に一部重なり合う。
TPP(環太平洋連携協定)は当初、交渉に参加していた米国を含め、FTAAPの枠内にすっぽり入る。日中、韓国、インドなど16カ国で交渉中のRCEP(東アジア地域包括的経済連携)構想と既に発効したTPP11が仮に将来、結合すれば日中韓が同じ経済圏に入る。APEC加盟国である米国が将来、FTAAPへ加われば、世界人口の約4割、貿易量の約5割、GDP(国内総生産)の約6割を占める巨大経済圏の完成という大団円を迎えるかもしれない。
富士通総研の金堅敏(じん・じゃんみん)主席研究員は本書第13章で、「市場開放が進む中国はTPP11並みの高水準RCEP締結が可能」「『一帯一路』構想とTPP11は補完関係にある」とし、「TPP11をモデルにRCEP交渉を進め、その条件整備としての一帯一路で日中協力を」と政策提言している。一帯一路とTPP11の両立は「第三の地域統合」へとつながる。
メガFTAはいわば“経済同盟”である。インターネットやAI(人工知能)に象徴されるデジタル社会が到来しているいま、保護主義や貿易戦争を阻止するためにも、日本は対米追従外交ではなく、一帯一路構想に対して是是非非で積極的に関与していくべきだというのが本書を貫く主旨ではないか。