秋分
文化 暮らし 環境・自然・生物 歴史 食- English
- 日本語
- 简体字
- 繁體字
- Français
- Español
- العربية
- Русский
昼と夜の長さが同じになるのは、春分と秋分の年に2回。太陽が真東から登って真西に沈む日だ。「秋分」は現代の暦で9月23日ごろに当たる。秋分を境に夜が長くなり、秋が深まる。「暑さ寒さも彼岸まで」という慣用句は、春だけでなく秋にも当てはまる。季節が変わって過ごしやすくなってくる。
二十四節気や七十二候などの季節の暦は、国立天文台が、毎年太陽の位置を計算して決める。春分の日と秋分の日は国民の祝日で、自然をたたえ、生物を慈しむ日と定められている。春分の日に対し、秋分の日は、祖先を敬い、亡くなった人をしのぶことに重きが置かれている。
ヒガンバナ
先祖の霊を供養する秋の彼岸のころに咲くことから、この名がついた。曼殊沙華(まんじゅしゃげ)とも呼ばれ、中国原産の多年草。曼殊沙華はサンスクリット語で「天界に咲く花」を意味する。球根を中心に毒があることから、ネズミやモグラなどの野生動物から農作物を守るために田んぼのあぜ道や土手に植えられたと言われている。彼岸が近づくと突然生えたかのように茎だけが伸びて直径約10センチメートルの花が6つ咲き、その後、葉が出る。
月見・十五夜
「十五夜」は、旧暦8月15日の満月になる夜を指し「中秋の名月」と呼ぶ。新暦では9月に当たる。中国の「中秋節」が起源とされ、唐の時代(618~907年)から伝わる家族や親戚が集まって月を楽しむ風習に由来する。日本には平安時代(794~1185年)に伝わったと言われるが、当時は一部の貴族の楽しみにとどまっていた。庶民にも広がったのは江戸時代初期とされる。「月々に月見る月は多けれど 月見る月はこの月の月」と歌われ、心待ちにされた。
十五夜には月見台と呼ばれる場所を作り、団子やススキ、サトイモ、栗、柿など季節の農産物を供え、収穫に感謝する。ススキは神が宿る植物とされ魔よけになったり、稲穂にも似ていたりしたので、一緒に飾るようになった。
キンモクセイ
キンモクセイは、クチナシ、ジンチョウゲと共に三大香木の一つに数えられている。花が咲くと周囲に甘い香りを放ち、季節の変化を感じさせる。中国茶の桂花(けいか)茶は、キンモクセイの花を乾燥させたもの、桂花陳酒(けいかちんしゅ)は、花を白ワインに漬け込んで香りを移しながら熟成させたものだ。
「三夕(さんせき)の歌」
鎌倉時代初期に編纂された新古今和歌集に所収されている「三夕の歌」は、「秋の夕暮れ」を歌う三首の和歌。藤原定家、西行、寂蓮の歌を指し、今も語り継がれている。
藤原定家「見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮」(見渡してみると、美しい花も見事な紅葉も見当たらない。海辺の粗末な漁師小屋だけが目に映る、わびしい秋の夕暮れよ)
マツタケ
香りが良いことで『万葉集』にも登場するほど古くから愛されてきたマツタケ。アカマツの根に寄生するので、人工栽培が難しく、高級食材として扱われる。2020年には国際自然保護連合(IUCN)がマツタケを絶滅危惧種として指定するなど、ますます高根の花となっている。そのまま焼いたり、ご飯に炊きこんだり、土瓶蒸し、吸い物などで豊かな香りが楽しめる。
サトイモ
サトイモの歴史は稲作より古く、縄文時代に伝わったとされる。親芋の周りに子芋、孫芋が育つので豊作や子孫繁栄の象徴とされてきた。山形市では秋の恒例行事「日本一の芋煮会フェスティバル」が、毎年9月に開かれる。直径6.5メートル、重さ4トンの鍋でサトイモ、牛肉、こんにゃくをしょうゆ味で煮込んだ3万食分の芋煮を調理し、来場者に振る舞う。
豆腐の日(10月2日)
日本豆腐協会が、とう(10)、ふ(2)の語呂合わせで制定した。豆腐は植物性のタンパク質に加え、脂質に含まれるリノール酸はコレステロールを減らす働きがあるので、生活習慣病予防にぴったり。豆腐の種類や料理、加工品が多様になり、豆乳プリンなどのスイーツも人気だ。
ギンナン
ギンナンは、もっちりとした触感とほろ苦い風味が売り。特有のにおいのために好き嫌いが分かれるが、殻をむいて、いったり、ゆでたり、ご飯に混ぜたり、茶わん蒸しなどに入れたりする。おいしいからといって食べ過ぎると消化不良を起こすので、注意が必要だ。
落花生
落花生は探検家のコロンブスによって世界中に広まったと言われる。日本には、江戸時代に中国を経て伝わったので南京豆と呼ぶこともある。木になるナッツだと誤解されることが多いが、地上で咲いた花が地中に入ってさやになる、れっきとした豆だ。乾燥させていったものが落花生・ピーナツとして一般的だが、近頃は生の落花生を塩ゆでしたものにも人気が集まっている。
サンマ
秋に脂が乗っておいしくなり、しかも安く手に入ったので、昔から庶民の間でよく食べられていた。栄養価も高く、食べると元気になったことから「サンマが出るとあんまが引っ込む」とのことわざも。塩焼きで食べることが多いが、近年は冷凍や冷蔵技術が発達したことから、刺し身も出回るようになった。
監修:井上象英(INOUE Shōei)、暦作家・暦法研究家・神道教師・東北福祉大学特任講師。『神宮館高島暦』の主筆を長年務め、現在は、講演や執筆活動を行う。
バナー写真=ヒガンバナが咲く千葉県鴨川市の大山千枚田(PIXTA)