啓蟄
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「啓蟄(けいちつ)」は、現代の暦では3月6日ごろに当たる。土の中で冬ごもりをしていた虫や動物たちが、陽気に誘われて外に出てくる頃のこと。「啓」には開く、「蟄」は閉じこもるという意味がある。桃の花が咲き、青虫が羽化してチョウになり、一雨ごとに春の気配を感じる。「啓(ひら)く」とあるように、目標を立て、何かを始めるのによい頃だ。
桃の花
桃の花は、梅の花が終わる3月下旬から4月上旬に咲くことが多い。原産地は中国で、縁起のよい花とされている。日本でもすでに弥生時代の遺跡から桃の核が見つかっている。平安時代には、ひな祭りに桃の花が飾られるようになり、江戸時代(1603-1868)に入ると、観賞用の「花桃」として改良されるようになった。1本の木に赤、桃色、白、まだらの花をつける咲き分けの「源平花桃」、枝垂(しだ)れ桃など種類も多く、目を楽しませる。
日本最古の歴史書『古事記』と、伊邪那岐命(いざなぎのみこと)が、死者の集まる黄泉(よみ)の国から逃げる際に、3つの桃の実を投げて邪鬼を追い払った由緒から「邪気払いの果実」とも言われている。ひな祭りには邪気を払う桃の花を飾り、女の子の健やかな成長を祈る。
春の季語:山笑う
俳句や茶の湯で春の季語となっている。中国の詩人郭煕(かくき)が春の山を「山笑う」と表現した。野山に桃や山桜が咲き、木が青々と茂り出す様子を自然が笑う姿に例えている。
スミレ
日本には100種類以上のスミレがあると言われ、昔から多くの歌に詠まれてきた。中でもタチツボスミレは北海道から沖縄まで見られる代表的なスミレだ。
山路来て 何やらゆかし すみれ草(松尾芭蕉)
(春の山路を辿(たど)って来て、ふと、道端にひっそりと咲くすみれを見つけた。ああ、こんなところにすみれがと、その可憐(かれん)さにただ理屈もなく無性に心ひかれることよ、出典:『芭蕉と伊賀』)
木の芽どき
草木が芽吹き始めることからこの時期は「木(き)の芽どき」と呼ばれる。気温の変化が大きく、体調を崩しやすくなるほか、スギやヒノキの花粉が飛散するので、花粉症のピークと重なる。花粉症予防に効果があると言われるリコピンを含むトマト、アレルギーを抑え解毒・ストレス発散・発汗作用のあるシソもお勧め。ティトリー、ユーカリなどの抗菌作用があるアロマをマスクに垂らすのも効果的だ。(※1)
一方、食材の「木の芽」は、山椒(さんしょう)の新芽をさす。すりつぶして早どりのタケノコなどとあえる。実は、和食を代表する香辛料で、粉にしたものはウナギのかば焼きには欠かせない。体が小さくても才能や気性が優れていることを「山椒は小粒でもピリリと辛い」という。
奈良・春日祭(3月13日)
世界遺産にも登録されている春日大社(奈良市)は、全国およそ3000社の春日神社の総本社でもある。春日祭は、平安時代849年に始まり、1200年以上続くと伝えられている。春日大社は、天皇家が参拝される天皇家をまつる神社で、春日祭には天皇陛下の特使が代理として神社に派遣され、国の安泰や国民の繁栄を祈る。
ホワイトデー(3月14日)
バレンタインデーにチョコレートなどの贈り物をもらった男性が、1カ月後の3月14日にお返しをするのが日本独特のホワイトデー。日本の菓子業界が、男性から女性にキャンディーを贈ろう、とキャンペーンを始めたのがきっかけという説もある。
春の野菜
この時期は、春キャベツや春エンドウなど、「春」の文字を冠につけたみずみずしい野菜がスーパーに並ぶ。春先の新タマネギは、甘みがあり、血液の流れをよくすると言われている。スープやオニオンスライスサラダにしてもおいしい。旬を逃さず楽しみたい。
鰆(さわら)
魚へんに春と書くその名の通り「鰆」は春の魚。日本では昔から縁起が良い魚として、お祝いの席で食べてきた。刺し身、焼き物、煮物、吸い物に使う。血液をサラサラにするといわれるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)を含み、健康づくりにうってつけの食材だ。
山菜
ウド、ゼンマイ、ワラビなど山菜が店先に並ぶ。山菜の苦味(にがみ)は、春ならではの味わい。天ぷら、おひたしなどにするとおいしい。漢方では心臓によく、血の巡りをよくすると言われている。
監修:井上象英(INOUE Shōei)、暦作家・暦法研究家・神道教師・東北福祉大学特任講師。『神宮館高島暦』の主筆を長年務め、現在は、講演や執筆活動を行う。
バナー写真=畑からでてきたカエル(© PIXTA)
(※1) ^ 『二十四節気に合わせて心と体を美しく整える』村上百代