古典俳諧への招待 : 今週の一句

ほととぎす啼(なく)や五尺の菖草(あやめぐさ) ― 芭蕉

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俳句は、複数の作者が集まって作る連歌・俳諧から派生したものだ。参加者へのあいさつの気持ちを込めて、季節の話題を詠み込んだ「発句(ほっく)」が独立して、17文字の定型詩となった。世界一短い詩・俳句の魅力に迫るべく、1年間にわたってそのオリジンである古典俳諧から、日本の季節感、日本人の原風景を読み解いていく。第23回の季題は「ほととぎす」。

ほととぎす啼(なく)や五尺の菖草(あやめぐさ) 芭蕉
(1692年刊『葛の松原』所収)

この句には2つの元ネタがあります。1つは、『古今和歌集』の作者不明の恋の歌「ほととぎすなくや五月(さつき)のあやめ草あやめもしらぬ恋もするかな」。ホトトギスの啼(な)く五月、アヤメ草の花も咲いた。訳が分からないことを「あやめもしらぬ」と言うけれど、アヤメ草の花を見て、自分が「あやめもしらぬ」まま恋に落ちてしまったことを思い知った、という内容の歌です。前半は序詞(じょことば)と言って、イメージを提示しながら「あやめ」を引き出す、飾りのような役割を果たしています。作者が言いたかったのは後半、「理屈じゃないよ、恋は」です。

もう一つは、連歌や俳諧の発句の詠み方についての古くからの教えで、「五尺(約1.5メートル)のアヤメの葉に水を掛けたようにすらすらと仕立てるのが望ましい」というものです。アヤメの葉には撥水(はっすい)性があるので、水を掛けたらいかにも爽やかにさっと流れます。

芭蕉は、『古今和歌集』の歌の前半をほとんどそのまま利用しました。ただ「五月」を、一文字違いの「五尺」に置き換えました。そのわずかな操作により、「五尺のアヤメ」の例えを使ってホトトギスの声を褒めたたえる発句(ほっく=俳諧の第一句)を仕立てたのです。

「あっ。いま、ホトトギスが一声啼いた。あたかも五尺まで伸びたアヤメの葉に水を掛けたようにすらすらっと、じょうずな発句を詠んだみたいに啼いた。おみごと!」

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