禅の言葉に耳を傾ける

禅の言葉7 以心伝心

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禅語とは、短い一句の中に禅の心や悟りの境地を込めた言葉。難解な禅の教えを理解するための手助けになる。ブラジル人漫画家が、禅語の意味を紙芝居のように仕立てた。第7回は、「以心伝心」。

【以心伝心(いしんでんしん)】

言葉では説明できない深遠な禅の教えを、師から弟子の心へ伝えること。真理は言語ではなく、心によって伝わることを意味する。そこから派生して、言葉を介さず互いに気持ちが通じ合うことを意味するようになった。言葉で相手に伝わることは、ほんの一部にすぎない。大切なのは相互に理解しようと努める姿勢だ。

登場人物

パン職人:このシリーズの主人公・典子の父
弟子

典子の父のパン工房
典子の父のパン工房

親方「まだ出しちゃダメだ、ちゃんと膨らんでないはずだぞ」弟子「親方、このパンは14分52秒焼けば完璧なはずですよ。この前計ったんです」
親方「まだ出しちゃダメだ、ちゃんと膨らんでないはずだぞ」
弟子「親方、このパンは14分52秒焼けば完璧なはずですよ。この前計ったんです」

弟子「あれ? おかしいなあ」親方「ほら、言ったろう」
弟子「あれ? おかしいなあ」
親方「ほら、言ったろう」

親方「いいか、数字や言葉だけに頼って判断しようとするんじゃない。温度や湿度も、手でこねる具合も、生地の発酵具合も、火加減だって毎回毎回違うんだから」
親方「いいか、数字や言葉だけに頼って判断しようとするんじゃない。温度や湿度も、手でこねる具合も、生地の発酵具合も、火加減だって毎回毎回違うんだから」

親方「生地や火の微妙な加減を体で覚えて、判断しなさい!」弟子(そんな事言われてもなあ……)
親方「生地や火の微妙な加減を体で覚えて、判断しなさい!」
弟子(そんな事言われてもなあ……)

弟子は親方の横で毎日毎日パンを作るが…。
弟子は親方の横で毎日毎日パンを作るが…。

弟子「加減だなんて、そんな曖昧な説明じゃ分からないよ」
弟子「加減だなんて、そんな曖昧な説明じゃ分からないよ」

弟子「……ん?」
弟子「……ん?」

弟子(親方、すごい集中力だ……。焼き具合を見張ってるんだ)
弟子(親方、すごい集中力だ……。焼き具合を見張ってるんだ)

弟子(ええと、さっきの生地の触感がああで、火の加減がこのくらいだから……)
弟子(ええと、さっきの生地の触感がああで、火の加減がこのくらいだから……)

弟子「よし、今だ!」
弟子「よし、今だ!」

弟子「……親方」
弟子「……親方」

親方「すごいじゃないか、完璧だぞ!」  弟子「僕、親方の言っていた『加減』が見えた気がします」
親方「すごいじゃないか、完璧だぞ!」
弟子「僕、親方の言っていた『加減』が見えた気がします」

弟子「親方は背中で僕に伝えてくれたんですね!」  親方「そ、そうだな」(いまさら言えないなあ、居眠りしてたなんて……。ま、いいか)
弟子「親方は背中で僕に伝えてくれたんですね!」
親方「そ、そうだな」(いまさら言えないなあ、居眠りしてたなんて……。ま、いいか)

おわり

漫画:モクタン・アンジェロ
協力:大空山磨塼寺(たいくうざんませんじ) 藤田一照住職

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