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全世界配信で新たに問われる「エヴァンゲリオン」の真価

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氷川 竜介 【Profile】

初放映から四半世紀を経ても新たなファンを獲得し続けている「新世紀エヴァンゲリオン」。ネットフリックスでの全世界配信や2020年公開予定の『シン・エヴァンゲリオン』で、再び注目を集めているシリーズの魅力と、その世界観を考察する。

重層的に構築された「エヴァの世界観」

これから「エヴァ」の映像を初めて見る人は、その圧倒的な情報量と、視覚や感情に訴えかける「圧力」に驚かされるはずだ。それは単なる絵のディテールの多さを意味しない。「エヴァ」の映像は情報を「詰め込んだ部分」と「あえて欠落させた部分」のコントラストが鮮明だ。そしてその欠けた部分が観客の想像力を喚起する。

同時に、「誰の視点でどう語られているか」という主体の視点が複数平行して物語が進行する重層構造となっている。パイロットである少年少女の視点、彼らと直接関わる指揮官の視点、その上に立つ司令官の視点、さらにEVAを運用する「特務機関NERV」の上位に、「ゼーレ」という秘密結社が関わっているなど、登場人物の立場によって得られる「情報」にギャップが設けられている。網の目のように展開される「エヴァの世界観」に絡め取られた観客は、想像することへの主体的な欲求を媒介にして作品へ没入していく。プリズムや万華鏡のような幻惑感を介して生まれる「エヴァ世界への参加の感覚」こそが、初登場から約25年を経ても新たなファンを獲得し続ける最大のポイントではないだろうか。

全ては「観客へのサービス」を優先し、さまざまな仕掛けを巧みに仕組んだ結果だ。キャラクターにしてもエヴァンゲリオンにしても、あるいは特務機関NERVのマークにしても、ブランディングの満足感が得られる心理的効果すら計算した高度なセンスでデザインされている。近年では、キャラクターの絵がなくても、配色とデザインセンスの組み合わせで「これはエヴァだ」と認識させる域までブランド効果は達している。新幹線や自動車など公共性の高いコラボレーションが実現できたのも、「決して消費されない」(=決して消費者に飽きられ捨てられたりしない)という「エヴァ」だけが備えた特性によるものなのだ。

今回の全世界配信は、「エヴァ」が「社会現象」となった当時の環境を一度ゼロにリセットし、もう一度作品本来の力で「エヴァの実力」を問い掛ける絶好のチャンスとなるだろう。それは「日本製アニメの底力」を試すことにもなるはずだ。また、2007年から全4部作で始まった「新劇場版シリーズ」も、前述した20年公開予定の『シン・エヴァンゲリオン劇場版』で完結が予定されている。壮大な物語の締めくくりを直前に控えて、今回の配信はこれまでの歩みを一気に振り返るよい機会となる。時代性や見る人の立場、年齢で異なるものが見える「エヴァンゲリオン」シリーズは必ず新しい発見をもたらす。その驚きと楽しさに満ちたエヴァ体験は、観客の人生を活性化させるはずである。その点でも、大いに期待している。

(2019年2月 記)

バナー写真=「新世紀エヴァンゲリオン」(C)カラー/Project Eva.

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アニメ・特撮研究家。明治大学大学院特任教授。1958年生まれ。IT 系企業のエンジニアだった経験を生かし、アニメ・特撮など映像文化に関して技術面を含めた総合的見地から論評している。「特定非営利活動法人アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)」(庵野秀明理事長)の理事を務める。

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