料理の名脇役:日本の香酸かんきつユズ、スダチ、カボス
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料理を際立たせる名脇役
香酸かんきつは、冬に向かって濃い緑色から黄色、オレンジ色へと果実が熟していく。吸い物に浮かべたユズの果皮は、椀(わん)の蓋(ふた)を開けた瞬間に香りを立ち上らせる。秋の風物詩マツタケには、爽やかな香りのスダチをひと搾り。酸味の利いたカボスはフグ料理に欠かせない。オリーブオイルに香酸かんきつを搾り、塩、コショウを振るだけで、極上のサラダドレッシングになる。酸味は料理の味をさらに引き立てて、食欲をそそる。
日本に生育するユズ、スダチ、カボスなどは、そのまま果肉を食べるには酸味が強過ぎるが、果皮の豊かな香りと果汁の酸味が食欲を引き立ててくれる。このように実を食べるよりも、果汁や果皮を調味料や加工品などとして使うかんきつ類を昔は「酢ミカン」、今は「香酸かんきつ」と呼ぶ。
海外では、レモンやライムが香酸かんきつとして有名だ。
9月から11月頃までは、青ユズ、スダチ、カボス、シークワーサー、ヘベスなどの青い香酸かんきつの出番だ。『香酸柑橘 四国の酢みかん-1(原田印刷出版)』によると、日本には、現在ユズ、スダチ、カボス、ダイダイ、ヘベス、ジャバラ、直七、長門ユズ吉、レモンなど40種類以上があるといわれている。
ほんの数滴、または、一片の果皮だけで、料理の味わいを劇的に変える料理舞台の名脇役。昔から酢としても使われ、新鮮な魚が入らない内陸部では、変質しやすい動物性たんぱくの食中毒を予防、保存性を高めたり、食味を改善したりする役目も果たしていたと関西大学の吉田宗弘先生は言う。また前出の『香酸かんきつ 四国の酢みかん-1』に「『酢ミカン』は、果汁中にクエン酸やリンゴ酸などを含み、アミノ酸と共にさわやかな酸味を持ち、ビタミンCも豊富。果皮に含まれる精油にはリモネン、シトラールの外、多くの香気成分があり、それぞれ『酢みかん』特有の香気をもつ」とある。
香酸かんきつをもっと身近に
たいめしで有名なかっぽう料理店「銀座 あさみ」の店主、浅見健二さんは、香酸かんきつの使い方を「スダチは一年中確保して、刺し身、焼き魚、マツタケ料理などに使います。ユズは焼き物を漬けておく柚庵地(ゆうあんぢ=酒、みりん、しょうゆにユズの輪切りを入れた下地)に使ったり、皮を吸い物や茶わん蒸しなどに用います。カボスはしょうゆに入れてフグの刺し身に使いますね。くせのないダイダイはしょうゆと合わせて常用します」と話す。しょうゆと相性がいい日本の香酸かんきつは、ポン酢の材料に適しているという。
それぞれの地域に生育する香酸かんきつは、日本の発酵調味料しょうゆやだしと相性が良く、「合わせポン酢」として使われてきた。ポン酢の由来は、今は使われていないオランダ語で、かんきつの果汁や砂糖、スパイスを混ぜたカクテルの一種を示すものだった。日本でのかんきつの搾り汁を指す「ポンス」の文献の初出は1884年。今ではポン酢は、水炊き、しゃぶしゃぶ、刺し身、豆腐や焼き魚、蒸し物や酢の物、ドレッシングなどになくてはならない調味料だ。
京都では香りにくせのないダイダイと合わせたダイダイポン酢が懐石などに使われる。大阪では、スダチポン酢が優勢のようだ。
ユズ、スダチ、カボス、(温州)ミカンは、親戚?
農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)が、日本にある67品種のかんきつについて、親がどの品種なのか親子関係をゲノムレベルで確認したのは、実はわずか2年前だ。清水徳朗上級研究員によると、かんきつの中心になっている品種は、紀州ミカン。現在最も生産量が多い温州ミカンは、この紀州ミカンとクネンボの交雑で生まれた。
温州ミカンの親、クネンボとユズの交雑でできたのがカボス。相手は分からないが、ユズと何かが掛け合わさってできたのがスダチだ。要するに、カボスとスダチは、ユズの子どもで、温州ミカンの親戚なのだ。それぞれ香りも肉質も大きさも違うから面白い。
ユズがダントツの生産量
青果卸の最大手・東京青果で香酸かんきつを扱う本庄洋さんによると、香酸かんきつの木には鋭いトゲがあり、果皮に傷を付けずに貯蔵するのに手間がかかるため、青果用として果実が丸ごと市場に出るのは3割以下。収穫量の8割近くは搾汁してデザートや飲料に加工される。
香酸かんきつの中でもユズの収穫量は、ダントツだ。スダチ、カボスの4倍以上と大きく差をつける。高知のユズ、徳島のスダチ、大分のカボス、沖縄のシークワーサーなどは特産品化に成功し、果汁や果皮、果実から種までが飲料、酒類、調味料、加工食品の他、化粧品、香料として販売されている。生産者が高齢化する中、地域の活性化に一役買っているのだ。
どう違う?ユズ、スダチ、カボス
見た目は似ているが、それぞれの大きさ、香り、味ははっきり異なる。下記にその特徴を挙げてみた。
• ユズ(ホンユズ)Citrus junos
香酸かんきつの王様ユズは、日本料理に欠かせない。寒耐性が強く、比較的無農薬栽培がしやすい。一般的には11月頃から出回る黄ユズが有名だが、8月中旬から10月頃にかけて市場に出回る早熟の青ユズは果皮が重用される。カボスとスダチの中間サイズ。皮の表面がごつごつしているのが特徴だ。高知、徳島、愛媛の3県で国内生産量の約8割を占める。民家の庭にも植えられ、果実は熟すと濃い緑から黄色になる。
ユズは、約1300年前の「続日本紀(しょくにほんぎ)」(771)にすでに記述がある。詳しい来歴は今でも分からないが、貴族の酒宴には、かんきつと塩が酒と共に出されていた記録も残っている。ライムともレモンとも香りが異なり、海外では「エキゾチック・フルーツ」とも呼ばれる。
青ユズが熟した黄ユズは、酸味が強いので薬味として使われる。乾燥させた皮は七味唐辛子の材料にもなる。日本では12月の冬至に健康を祈り、ユズ湯に漬かる習慣がある。最近では海外でも、シャーベットやマカロンなどのデザートやお茶の香り付け、食用以外の入浴剤などにも使われる。皮も香りがいいので香水などに人気がある。青ユズは、皮をむいて、皮と果肉を別々に冷凍しておけば、3カ月ほど持つ。
• スダチCitrus sudachi
「香りのスダチ」と言われる。「キノス(木乃醋)」などの呼称があり、スダチは酢橘(すたちばな)に由来する(「橘」はかんきつの意)。全国の生産量の9割以上が徳島県で生産される。大きさはピンポン玉くらい。三つの中では最も小さい。片ほうの親は、ユズだと分かっている。初めて書物に登場したのが1709年で、貝原益軒の著『大和本草』にリマンという名称で説明されている。旬は8月中旬から10月で、同時期に旬を迎えるマツタケやサンマの塩焼きなど、香りの強い食材に合うことでも知られている。爽やかな香りと軟らかな酸味で、焼酎のソーダ割りに搾るなど、酒や飲み物にも使われる。そば、そうめん、うどんなどに香りと彩りを添える。
• カボスCitrus sphaerocarpa
「酸味のカボス」と言われ、クネンボとユズが掛け合わさってできた。ユズ、スダチよりも大きく、テニスボールぐらいの大きさ。大分県の特産品で、皮は薄い緑色でつるりとしている。果肉は少しオレンジ色がかっている。9月、10月が旬。江戸時代に大分県の医師が中国の僧から譲り受けた苗木を臼杵市に持ち帰り、約300年前から栽培が始まったとする言い伝えがある。大分特産のフグや、白身魚など味がさっぱりした食材の風味を損なうことなく、料理の味を引き立てる。果汁が多いので搾って酢の物や鍋物のポン酢や、飲料にも適している。ユズやスダチより酸味がしっかりしていて、フグ料理に欠かせない。
まだまだ使い道は未知数
香りで海外の料理人を魅了するユズ玉(生のユズ)の輸出が解禁になってからまだ10年もたたない。日本の香酸かんきつは、未知の可能性を秘めている。懐石料理や刺し身などにはまろやかな酸味の日本の香酸かんきつがよく合う。ぜひ、日本の香酸かんきつの魅力を見直してもらいたい。
【参考】香酸柑橘サミットオンライン(Sour Citrus Summit Online)
ミカン好きが高じて、東大在学中にかんきつの産地間や業種間連携をめざして可能性を広めるために(株)みかんを立ち上げた清原優太さん(27)は、10月23日(金)に『香酸柑橘サミットオンライン(Sour Citrus Summit Online)』を無料で開催する。食べ比べや使い方など、香酸かんきつの魅力を発信する企画だ。
- 10月23日(金)午後6時~7時30分 香酸柑橘サミットオンライン(Sour Citrus Summit Online)
バナー写真:左からスダチ、ユズ、カボス。撮影=小寺 ケイ