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くまモン:世界を舞台に活躍するモン

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「職業は公務員。性別はオスじゃなくて男の子。性格はやんちゃで好奇心いっぱい」。くまモンの知名度は国内外で群を抜いており、最も経済効果を上げている「ゆるキャラ」だ。関連商品の売り上げは10年間でなんと9891億円。熊本県のキャラクターにすぎないくまモンが、なぜ世界中で愛されるまでになったのか?

海外VIPからも熱い視線

この顔を見れば、ほとんどの人が「あっ、くまモン!」と、思わずニンマリとしてしまう。あらゆる人を和ませてしまうこのパワーって一体何だろう。熊本県のゆるキャラにして、その人気は全国区どころか、海外でも絶大なものがある。

ゆるキャラとは「ゆるいマスコットキャラクター」を略したもので、地域や企業のPRを目的として生まれた。10年ほど前、ゆるキャラが日本各地で雨後のタケノコのように現れたが、今日まで世界を舞台に活躍しているのは、くまモンぐらいだろう。

熊本県の魅力を伝えるゆるキャラ「くまモン」©2010 kumamoto pref.kumamon
熊本県の魅力を伝えるゆるキャラ「くまモン」©2010 kumamoto pref.kumamon

キャロライン・ケネディ元駐日米国大使がフェアウェルパーティーのあいさつで紹介し、ローラン・ピック駐日フランス大使が新年賀詞交換会ガレット・デ・ロアに招待し、オーストラリアや中国や韓国の大使が笑顔で一緒に写真に収まるのが、一地方の自治体キャラクターにすぎないくまモンだ。

これまでに訪れた国や地域は20カ国・地域を超えている。アジア各地はもとより、パリのジャパンエキスポは常連だし、ホノルルフェスティバルにも参加した。ブラジルの日系人の間でも大人気となっている。そうそう、デンマーク王国を訪問した際には、皇太子にお会いしたことも忘れてはならない。

ブラジル・サンパウロの「ジャパン・ハウス」で開かれたイベントで、南米デビューを果たしたくまモン=2018年11月4日(時事)
ブラジル・サンパウロの「ジャパン・ハウス」で開かれたイベントで、南米デビューを果たしたくまモン=2018年11月4日(時事)

くまモンは言葉を話さない。身ぶり手ぶりのボディーランゲージで喜怒哀楽を表す。ノンバーバルなところが、夢と魔法の国のキャラクターと似ていなくもない。しかし、神出鬼没でどこにでも出没することや、何より目指す地点が異なる。

なぜ、一地方のゆるキャラにすぎないくまモンが世界中で愛されるまでになったのか? その成長過程を共に歩んできた元地方公務員の視点から考えてみたい。

予想外の展開から生まれた「ゆるキャラ」

2011年3月、熊本県も新幹線で本州の大都市と結ばれることになった。首都東京から隣の福岡県まで新幹線が結ばれてから36年もの間、首を長くして待ち望んでいた熊本県民の願いがやっとかなったのだ。これを機に、県産品の販路拡大や観光客の集客を目指そうと県民の期待は大きく膨らんだ。

熊本からダイレクトに結ばれるのは、日本第2の都市・大阪だ。ならば、まず大阪で熊本県の認知度を高めなければならない。だが、どうやって? さまざまな議論を経た上で出てきたアイデアが、くまモンだった。

熊本県では、新幹線の開業に合わせ県外から熊本を訪れる多くの観光客を、県民総出でおもてなしするための「くまもとサプライズ運動」を展開していた。私たち熊本県民が地元の良さを再発見し、自ら誇りに感じることで、県外の方々からも注目され「いいね」と言ってもらうことを目指すものだ。その結果、熊本県民が郷土に誇りを持ってくれたら県としてもうれしい。その旗振り役として誕生したのがくまモンだった。

と言っても、誰もこんなお茶目な旗振り役が登場するなんて思ってなかった。プロデューサーの小山薫堂さんから「くまもとサプライズ運動」のロゴマークの制作を依頼されたデザイナーの水野学さんは、ムーブメントを起こすためには“人寄せパンダ”が必要だと考えた。そして頼まれてもいないのに、熊本ということで“人寄せクマ”のキャラクターをデザインしてくれた。この水野さんの「期待(注文)を超えた仕事」がなければ、くまモンの誕生はなかっただろう。くまモンは素晴らしい生みの親に恵まれたのだ。

東京五輪の聖火ランナーを務める放送作家の小山薫堂さん。くまモンの生みの親だ。左後方をくまモンが走る=2021年5月5日、熊本県宇土市(時事)
東京五輪の聖火ランナーを務める放送作家の小山薫堂さん。くまモンの生みの親だ。左後方をくまモンが走る=2021年5月5日、熊本県宇土市(時事)

国内ではロイヤルティー・フリー

自治体のキャラクターは、地元で活動するのが原則である。しかし熊本県ではそのキャラクターを「長期出張」と称して、大阪市内をはじめ関西各地でサプライズな出没をさせて、当時広がりつつあったツイッターでの話題化を試みた。名刺も用意し、出会った人たちに配った。熊本県の知名度よりも、まずはくまモンの認知度を高め、その後、熊本県をアピールしようという大胆な発想だった。

くまモンの最終的なミッションは、自分を有名にすることではない。その先にある。熊本県の豊かな農産物を、観光地を、そこで暮らす人々を、つまり熊本県を丸ごと有名にし、そこに暮らす人々を幸せにする──これこそがくまモンに課せられた“公務員”としての重要な使命なのだ。

だから、くまモンはロイヤルティーを取らない。許諾制にしているが、イラストの使用料は取っていない。もとは県内の中小企業が参入しやすくするための制度だったのだが、使用料を取らないとあって大手企業までもがくまモンを使い始めた。おかげであっという間に、全国でくまモンの関連商品が次から次へと生まれていった。海外でも小山さんの紹介でバカラにシュタイフ(テディベア)、ライカや BMW MINIなどグローバルブランドとのコラボが実現し、テレビや新聞、雑誌やネットで大きく取り上げられた。もちろん、それに伴って熊本県の認知度がぐんと上がったのは言うまでもない。

パディントンベア(右)と一緒に、BMWの特別仕様車「くまモンMINI」を披露するくまモン=2013年7月11日、英国オックスフォード(時事)
パディントンベア(右)と一緒に、BMWの特別仕様車「くまモンMINI」を披露するくまモン=2013年7月11日、英国オックスフォード(時事)

ちなみに、くまモン関連商品の売り上げは、誕生してからの10年間で9891億円を超える。もしロイヤルティーを取っていたら…と考えるのは野暮(やぼ)な話だ。

ただ、食品については、熊本県産の農林水産物を原材料としていることが、くまモン使用の条件だ。これは熊本県が日本でも有数の農業県であるから。デパートやスーパーの食品売り場でくまモンのイラストが入った商品があれば、それは熊本県産品か、それを原料(一定の割合を使用していれば許諾)としていることの証しになる。

テレビやイベントなどへの出演料も頂いていない。遠方の場合に交通費は負担してもらうが、ノーギャラである。その代わり、熊本県の紹介をしてもらうのが条件になっている。だから、一キャラクターとしてのテレビ出演はお断りしている。もったいないとは思うが、熊本県を知ってもらうためのキャラクターだから仕方がない。

日本テレビ系列の熊本県民テレビ(熊本市)の情報番組に出演するくまモン=2021年2月25日(時事)
日本テレビ系列の熊本県民テレビ(熊本市)の情報番組に出演するくまモン=2021年2月25日(時事)

熊本県主催の「くまモン誕生祭2019」で、熊本市民会館のステージで踊るくまモン=2019年3月10日(熊本県提供)
熊本県主催の「くまモン誕生祭2019」で、熊本市民会館のステージで踊るくまモン=2019年3月10日(熊本県提供)

しかしこれが海外になると、話は別だ。数年前から海外でくまモン関連商品を売る際には、ロイヤルティーを取ることにした。日本文化の1つとしてゆるキャラが海外でも認知され、その代表格としてくまモンの人気も高まり、それにつれて海賊商品が跋扈(ばっこ)したのがその理由だ。中国や香港、台湾などアジア諸国を中心に多くの「ニセくまモン」が出回り、それを監視するための費用もかかるようになった。ロイヤルティーを取ると海外での許諾事務の経費も必要となってくるが、やむを得ないだろう。

世界中の子どもたちために一肌脱ぐモン

現在、この地球には十分な教育を受けられず、食事も満足に取ることができない子どもが数多くいる。

途上国ばかりでなく先進国と言われる国においても、人身売買(そのための誘拐)や児童労働が行われていると聞く。こうした子どもたちを救うために、くまモンが一肌脱げないだろうか。くまモンはやんちゃな男の子だ。同じ子どもたちのために、活躍の場が持てないだろうか。

熊本地震の被災地・西原村のにしはら保育園を訪問し、園児たちにもみくちゃにされるくまモン=2016年5月5日(熊本県提供)
熊本地震の被災地・西原村のにしはら保育園を訪問し、園児たちにもみくちゃにされるくまモン=2016年5月5日(熊本県提供)

私には夢がある。国内外でくまモン商品を販売して利益を上げる企業や団体が、その一部を「くまモン基金」として積み立て、地元の民間非営利団体と連携し、子どもの人権を守り、生活改善や教育の充実のための活動費に充てるという取り組みの実現だ。国連が定めた「持続可能な開発目標(SDGs)」でも、子どもの教育や貧困撲滅は大きな課題となっている。世界中の子どものためにくまモンが活躍してくれたら、私たち熊本県民は何よりも誇らしく思うだろう。そしてそれこそが「くまもとサプライズ運動」のゴールに違いないと私は考えている。

バナー写真=日本外国特派員協会で会見するくまモン=2014年2月14日(時事)

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