美しくて“かわいい”結びの技 1400年の歴史を誇る「水引」の可能性を探って
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暮らしのなかに息づく水引とその歴史
水引の歴史は古い。起源は諸説あるものの、飛鳥時代(593〜710年)にまでさかのぼり、遣隋使が持ち帰った贈り物に掛けられた、紅白に着色された麻紐が始まりといわれている。平安時代には和紙を撚(よ)って糊(のり)で固めた現在の水引の形へと進化。およそ1400年も受け継がれている、冠婚葬祭には欠かせない日本の伝統文化である。
「神事でも使われ、貴族などの位の高い人々の間で広まり伝承されてきた水引が、庶民に広まったのは江戸時代。明治時代になってお金を贈る文化が生まれ、祝儀袋が使われるようになったことで、当時は、女性のたしなみとして学校でも水引の結び方が教えられていたようです。さらに、近年では白、赤、黒などだけでなく、さまざまな種類の水引紐も登場。私が水引を始めた頃よりもずっと、より身近な存在としての新しい広がりも感じています」
2006年に水引に出会って1年後には作家活動をスタートしたという森田さん。拠点を京都に移し「和工房 包結(ほうゆう)」を構え、作品作りや教室などを通して水引の魅力を発信してきた。
平面から立体まで変幻自在の水引
従来の水引のイメージにとらわれない森田さんの作品は、どれもがチャーミング。日本の節句にまつわるモチーフから草花やスイーツまで、それらが水引であるということを忘れてしまいそうになるほど、愛らしいたたずまいである。
そんな森田さんの作品の “かわいい”がきっかけとなり、水引に興味を抱いて、自分でも作ってみようと挑戦するひとも少なくない。森田さん自身も、最初はその美しさに惹(ひ)かれ、当時はまだ都内に1軒しかなかった水引教室の門を叩(たた)いたひとりである。
「私も習い初めて驚いたのですが、どんなに複雑に見えるものでも、基本の結び方の応用でできています。どんなものでも作ることができるので、日常生活のなかにモチーフはたくさん。わたしは食事中でも目の前にあるものが次の作品づくりの候補に見えてくるんですよ。次はこれを作ってみようかな?と。作りたいものの候補は尽きません」
水引は誰もが楽しむことのできる手芸なのだという森田さんに、手紙やポチ袋に添えるなど日常に取り入れやすい「梅結び」の作り方を見せていただくことに。
動画「梅結び」の作り方
基本となる「あわび(あわじ)結び」を作り、中央の穴へ両端を通すと現れるのが「梅結び」。きれいに仕上げるコツは、1本1本筋をそろえながら重なったりねじれたりしないように進めること。
材料となる水引の紐は100円ショップでも手に入るくらい、実は身近なものだ。一般的なサイズは90センチだが、30センチにカットされたものも流通しており、単色だけでなく、ラメ入りのものなど種類は豊富。400〜500色くらいあり、組み合わせ次第で無限の表情が生まれる。
森田さんによると平面でも立体でも、基本となる「あわび(あわじ)結び」をベースに、どんな形も作ることができるというが、手のひらサイズの寿司から、5メートルの作品まで、元は同じ1本の水引の紐から生まれるというのには改めて驚かされる。さらに、森田さんの作品には設計図がないという。完成をイメージしながら、手の動くままに紡いでいくのが醍醐味でもある。
多くの作品を生み出し、教室では手芸としての水引の楽しみを届ける森田さんだが、水引には装飾としての魅力だけではない奥深さがあるという。「例えばあわび(あわじ)結びが神様に対する供物に使われる貴重な食材としての貝のアワビに由来していたり、祝儀袋に掛けられる水引が手の指の本数である5本取りにすることで、手と手を結ぶことを表しているなど、ひとつひとつに理由があるんです。私は神秘的なものにも惹かれるので、そういう面も水引の魅力のひとつなんです」
ケルト文様と水引の不思議な関係
書道などの「線」から生まれるものに魅了され、水引に出会う前から森田さんが関心を寄せていたのが世界各地で伝承されてきた文様だった。そんななか、水引を学び始めたときに「あわび(あわじ)結び」がケルトの伝統的な結び目とそっくりなデザインだということを知る。
「さらに、水引で世界の文様を作りたいと思い調べていくうちに、ケルト文様だけでなく、アラベスク文様やトルコ文様、アール・ヌーヴォー文様のなかには、日本の伝統文様と似ているものがあることを知りました。1本の線から生まれた文様が、はるか昔にシルクロードを通って日本にも伝わってきたのだろうかと思いをはせると、水引がより面白く感じられ、奥深い世界だなと改めて思うんです」
伝統を受け継ぎ、遠く離れた異国と共通する文様を有する神秘的な存在としての水引。「いつか水引をきっかけに文化交流ができたらうれしい。個人的には、いつか水引で服を作るのが夢」と語る森田さんが作りたいものはまだまだたくさん。1400年の時を超えて、水引の可能性は広がっていく。
インタビュー・動画撮影:川本 聖哉
取材・文:田口 みきこ
和工房 包結
水引教室は京都、大阪、兵庫、名古屋、東京、オンラインで年間を通して行っている。詳しくはホームーページを。https://mizuhiki-houyou.jp/
森田さんの作品の数々はインスタグラムでチェック!
https://www.instagram.com/wakobo_hoyou/