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缶コーヒー「BOSS」のCM「宇宙人ジョーンズ」シリーズ15年目に突入:福里真一さんに聞く

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缶コーヒーのCM「宇宙人ジョーンズ」シリーズが今年で15年目を迎えた。宇宙人を演じるトミー・リー・ジョーンズは、映画『メン・イン・ブラック』(1997)でも知られる米国の実力派ベテラン俳優だが、今や日本では「宇宙人」として有名だ。長寿CMとして人々を引きつける秘訣(ひけつ)をCMプランナー・福里真一さんに聞いた。

福里 真一 FUKUSATO Shin’ichi

1968年7月、神奈川県鎌倉市生まれ。一橋大学社会学部卒業。92年電通入社。2001年より広告を企画・制作するワンスカイ所属。今までに手掛けたテレビCM は1500本を超える。主な仕事にジョージア「明日があるさ」シリーズ、トヨタ自動車「こども店長」シリーズ、ENEOS「エネゴリくん」シリーズなど。東京コピーライターズクラブ(TCC)が優れた広告制作者に贈るTCCグランプリ、TCC賞(22回)、TCC最高新人賞、ACCグランプリ(3回)、ギャラクシーCM大賞などを受賞。

宇宙人ジョーンズ、70種類以上の職業で地球を調査中

どこかの惑星からやって来た宇宙人ジョーンズは、地球を調査し、最後にグビッと缶コーヒーを飲み「この惑星の住人は…」とつぶやく。「このろくでもない、すばらしき世界」のキャッチコピーでおなじみの缶コーヒーのCMが、今年で15年目を迎えた。

宇宙人ジョーンズは、米国のベテラン俳優トミー・リー・ジョーンズが演じている。アカデミー助演男優賞(『逃亡者』1993)を受賞し、『メン・イン・ブラック』シリーズでは、エージェントKを演じたジョーンズが、70種類以上の職業を地球(=日本)で遂行する宇宙人に扮(ふん)する。時に離島の医者やマンションの管理人、時に相撲の行司、庭師や侍と役柄は多彩だ。しかも話すのは日本語だけ。英語は一言も口にしない。

このCMを手掛けているのは、広告代理店・電通出身で現在、広告を企画・制作するワンスカイに所属するCMプランナー・福里真一さん(52)だ。今まで1500本以上のテレビCMを手掛けてきた。

「電信柱の陰から見てるタイプ」

一橋大学を卒業した福里さんは、電通に就職。エリートコースを歩んできた。しかし「基本的に何をやっても駄目な人間という感覚がすごくあるのです」という。「今でも正直そうなんですが、どうせ自分なんて、という気分が常につきまとってますね。仕事を始めてからも、最初の10年ぐらいは全然うまくいかなかった。案の定、駄目だなと思っていました」電通の採用面接で、志望動機を聞かれて、「自分は友達もいないので周りの人が何を考えているのか分からなくて、それを調査研究するような仕事を御社でやりたい」と答えた。

福里さんは著書『電信柱の陰から見てるタイプの企画術』の中で自身の幼少期を振り返り、「幼稚園時代から藤棚の柱のまわりをぐるぐる回りながら、ワーワー騒いでブランコに乗っている同級生たちをうらやましげにぼんやりと眺めていた。しかし、嫌でもなければ寂しくもなく、むしろ心地いい時間だった」と書いている。

TCCグランプリ賞、TCC賞(20回)、ACCグランプリ賞(3回)など数々の受賞をした。
TCCグランプリ、TCC賞(22回)、ACCグランプリ(3回)など数々の受賞をした。

そんな福里さんに缶コーヒー「BOSS」のCM依頼がきたのは2006年。スポンサーから、ブランドのコンセプト『働く人の相棒』――汗を流して前線で働いている人が、途中で自分を元気づけたり、リラックスしたりして、ちょっと強い甘味が欲しい時にゴクッと飲む――を大切にしてほしいと求められた。当時は暗い事件が続いていたため、CMを見た人が前向きな気分になれて、5年間は続けられる企画をリクエストされた。

福里さんは考えた。

「今、テレビから流れるもので一番暗い気持ちになるのは何だろう」と。それは「ニュース番組だ」と思った。「例えば、今の政治は駄目だ、地球環境はひどくなっている、戦争が始まった、と世界中から暗いニュースを集めてひとまとめに流しています。それも1日1回でなく、朝から晩まで流れている。ずーっと見ていると、暗い気持ちになります」

その逆をやれば、見ている人が明るくなるのではないかと考えた。

客観的な目線で報じられるように地球調査に来た宇宙人が惑星に報告する企画を思いついた。「最初はろくでもない惑星だとやや皮肉っぽい目線で地球を見ながらも、なかなか面白い惑星だ、人間やるときはやるねと共感していく。宇宙人が、地球人に感情移入をしていけば、みんなの気持ちも少し前向きになるのでは」と考えた。地球のさまざまな側面を調査するために毎回いろいろな職業を転々とすれば、シリーズを長く続けられる。

日本のCMで宇宙人感を出すのに、外国の人の方がパッと見て、宇宙人だということが分かりやすいのではと考えた。トミー・リー・ジョーンズは、ハーバード大学でアル・ゴア元米副大統領とルームメイトだったインテリのベテラン俳優だが、当時、日本では誰もが知る存在というわけではなかった。独特の無表情さを宇宙人らしいと買われて、あっという間に採用が決まり、お茶の間の顔となっていった。

企画フレームが決まり、具体的なCMの内容を考え始めると、企画がスイスイ思いついたという。福里さんは「宇宙人ジョーンズは、地球人(=日本人)の輪の中に入れないまま、やや離れたところから、皮肉めいた、でも決して悪意ではない目線で面白がったり、うらやましがったりして見ている。考えてみると、何だか自分と同じ」と笑う。電柱の陰から見ている引っ込み思案の性格が、ここにきて生きた。宇宙人ジョーンズは、実は福里さん自身なのだ。

「タクシー篇」で、運転手に扮する宇宙人ジョーンズ
「タクシー篇」で、運転手に扮する宇宙人ジョーンズ

『工場篇(へん)』では、仕事の後に「お疲れさま」とうれしそうに声を掛け合う地球人たちを見て「この惑星の住人は、疲れることがうれしいらしい」とつぶやく。また宅配便篇では、宅配業者に扮し「この惑星では常にスピードが求められている。何をそんなに急ぐ必要があるのだろうか」と駆けて車に戻るも、違反切符を切られて「しかも、駐車禁止は厳しい」とうなだれる。日常のささいな1コマをすくい上げている。

シリーズは、徐々に人気俳優やアイドルグループなどのタレントを巻き込み、宇宙や離島、東京・渋谷の交差点など、地球の隅々から、ほっこりとした優しさや、クスッと笑える皮肉を届ける。

ケンカや争いは嫌いで、自らを草食系と称する福里さん。
ケンカや争いごとは嫌いで、自らを草食系と称する福里さん。

ちょっと本当のことを入れる

シリーズ18作目は、トンネル掘削現場を描いた『地上の星篇』。

「この惑星の住人は川を見れば橋を架け、

山を見ればトンネルを掘る。

一体どこへ向かおうとしているのだろうか」。

ジョーンズが押した爆破スイッチでトンネルが開通し、工事現場のみんなで万歳三唱する。

そして「ただ、この惑星の達成感は癖になる」と締めくくる。

『地上の星篇』:トンネルの掘削で爆破に成功し、涙を流して万歳三唱をする宇宙人ジョーンズ
『地上の星篇』:トンネルの掘削で爆破に成功し、涙を流して万歳三唱をする宇宙人ジョーンズ

「この作品はまさに常々自分が思っていることでした。どうして人類ってこんなに頑張っているんだろう。どこかでもう止まってもいいはずなのに」と福里さん。給料のためだけに仕事をやっているわけではない。それなりに夢中になったり、達成感を感じたりする。これが結局、働くことの根本なのかと、心に一番思っていることをそのまま描いた。 

「広告は、ちょっと本当のことをユーモア交じりで入れると、すごく目立ったり共感したりしてもらえるのです」

2017年放映の『新しい風・誰もいない篇』の設定は、IT系アプリ制作会社だ。

堺雅人:「(オフィスで)あれ、今日誰もいないの?」

杉咲花:「社長とマネジャーはコワーキングスペース、村山さんと久美ちゃんは有休消化中、田中さんはリモートでミーティング、ということでみんな来ていません」

堺:「(成田凌にリモート画面で)何で会社に来ないんだ?!」

成田:「(自宅の庭から)何で行かなきゃいけないんですか?」

ジョーンズ:「この惑星では大げさなオフィスは必要なくなりそうだ」

3年前に早くも働き方変革の大きなうねりを予見している。「会社に行かなくても仕事が済むのだったら、会社に行く必要はあるのか?」が、ちょっと本当のこと。堺雅人演じる上司も「確かにそうだ」と内心納得していることが大切なポイントだ。

「おそらく海外ではこのタイプのCMは成立しないでしょう」と福里さんは思っている。「海外のCMは、問題はこの商品で解決されます、という理屈が通って成立することが多いのです。このシリーズは、宇宙人から見た地球人の描写があり、最後に缶コーヒーをグビッと飲むだけ。人々への共感や感情を提示することが、この缶コーヒーのブランドを築いていく成り立ち方をしているのです」

今年5月には、長尺90秒『宇宙人からのアドバイス篇』を過去14年間のCMから抜粋し、期間限定で放映した。「とにかく全力で手を洗おう」から始まり、「命を助けるために、社会を動かすために、必死で働いている人には、惜しみのない称賛を」とつぶやく。今までの積み重ねがあったからこそできた傑作だ。「ろくでもない、すばらしき世界」の地球で、宇宙人がつぶやくちょっと本当のことに、地球人は日々励まされ続けている。

『宇宙人からのアドバイス篇』

 (動画 © Jiji Press)

バナー写真:「とにかく全力で手を洗おう」とつぶやく宇宙人ジョーンズ、『宇宙人からのアドバイス篇』から。

取材協力=ワンスカイ、写真撮影=ニッポンドットコム編集部

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