うちわと扇子
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日本では1年を通して使われるうちわと扇子だが、最も出番が多いのは夏。風を起こす道具として重宝するのはもちろん、盆踊りや花火大会、夏祭りで浴衣や着物を着るときには粋な小物になる。折りたためる扇子は外国人観光客の人気も高く、日本土産の定番。携帯扇風機を片手に通勤する姿もお馴染みの光景になった。
うちわ
うちわは、中国では紀元前3世紀以前の周代より使われ、漢代(紀元前206~紀元後220年)ごろには威厳を表す道具の一つとして使われていた。日本には中国から伝わり、古墳・飛鳥時代(300~710年ごろ)の遺跡からも出土している。身分の高い人が品位を保つためにうちわで顔を隠したり、邪気や虫を追い払ったりしていたという。奈良の正倉院や京都の広隆寺の遺物からも、奈良・平安時代に宮廷や貴族の間で使われていたことがうかがえる。
平安時代末期から鎌倉時代初期、12世紀ごろに描かれた絵巻物『病草紙(やまいのそうし)』には、ヤシ科の常緑高木・ビロウで作ったうちわ形の蒲葵扇(びろうおうぎ)を持つ下級武士が描かれている。当時は多くが円形だったため、丸いものを意味する「団」の文字が使われ「団扇(うちわ)」という呼び名が定着した。応仁・文明(1467~87年)以後の乱世になると、武将が皮革や鉄で作った軍配うちわで戦の指揮を執るようになった。
江戸時代(1603~1868年)以降になると、竹骨に紙張りをした絵うちわが普及した。絵には歌舞伎役者や錦絵が用いられた。この時代のには、夕涼みにうちわを持った女性の姿が描かれている。紙の代わりに絹を張った絹うちわもある。紙に柿渋を塗って補強した「渋うちわ」は、火起こし用として庶民の生活に溶け込んだ。現代でも、焼き鳥やウナギなどを焼くときや、すし飯を冷ます際に使っている。
日本三大うちわと呼ばれるのは、「京うちわ」「丸亀うちわ」「房州うちわ」。「京うちわ」は、細骨を放射状に並べたうちわ面と、別に作った取っ手を後から組み合わせる「差し柄」が特徴だ。香川県丸亀市の「丸亀うちわ」は、愛媛県の竹、高知県の紙、徳島県ののりなど、四国産の材料が使われる。男竹(おとこだけ)と呼ばれる1本の太い竹が、骨と平たく削った柄になっていることから「男竹平柄(ひらえ)」という。千葉県南房総地域特産の「房州うちわ」も1本の竹で出来ているが、女竹(おんなだけ)と呼ばれる細い竹の丸みを柄に生かしている。
最近のうちわは、布やプラスチックなどさまざまな材料が使われ、用途や形状も変化している。コンサートやスポーツ観戦で応援するときに使ったり、企業の販促用に配布したりする。
扇子
扇子は平安初期の9世紀ごろにうちわを折りたたんで携帯できるように、日本で考案された。当初は、主に宮中の男性が作法などを書き留めるメモ代わりに使っていた。次第に華やかな色や絵が加えられて、宮中の女性たちにも広がり、装飾品として好まれるようになった。扇面に図や和歌を書き込んで鑑賞したり、神仏へ献上したりした。扇は『枕草子』(10世紀終わり)や、『源氏物語』にも登場する。神事や儀式、茶道や舞踊の道具としても使われている。その後、現代の扇子に近い竹で作った骨組みの片面に紙を張った「蝙蝠扇(かわほりおうぎ)」が生まれた。扇子は、折りたためるので持ち運びに便利で、バッグや服のポケットにも入る。
扇子の主産地の一つ、京都で作られているのが「京扇子」。竹と紙または絹を用い、金銀箔(はく)や蒔絵(まきえ)などの絵付けを施し、高級美術品として古くから珍重されてきた。女性向けが中心で、舞扇(まいおうぎ)、飾り扇、茶道、婚礼などに使われるものまで種類が豊富なことが特徴。制作工程の数は87と言われ、多くの職人の分業によって伝統が守られている。
落語界では、扇子は手ぬぐいとともに大切な商売道具だ。小話の合間に、扇子は箸やはさみ、ペンなどさまざまな役目を果たす。狂言・能・日本舞踊といった伝統的な芸能にも使われている。
携帯扇風機
アジア圏で2017年ごろに火が付いたと言われる携帯扇風機は、SNSなどを通じて日本にも瞬く間に広がった。段階別の風量調節ができ、軽量で手ごろな価格なのも人気の理由。首にかけるもの、携帯と卓上式の2ウェイタイプや、ミストを出したり、羽根がなかったり、多彩な商品が店頭をにぎわせている。
うちわや扇子、携帯扇風機など、用途に合わせて使い、夏を乗り切りたい。