意外に知らない「ニッポン入門」

食欲の秋、キノコの秋

秋の味覚を代表するキノコ。栽培方法が普及したおかげで、年間を通して店先に並ぶ種類が増えた。おなじみのキノコを紹介する。

縄文時代から受け継がれる食文化

倒木や切り株などに発生したことから日本では「木の子」と言われるようになった。歴史は古く、約4000年前の縄文時代の遺跡から、さまざまなキノコの形をした土器が発見されている。

植物や生物の死骸を分解して土を戻す役割を果たす菌類のキノコは、森の維持や食物連鎖になくてはならない存在だ。湿度の高い日本には4000~5000種類が存在しているといわれるが、そのうち食用は約100種類。(林野庁HPより)

腸内環境を整える食物繊維、ビタミンB群、ビタミンD2、ミネラルなどが豊富で、免疫力アップや生活習慣病の予防効果もある。干すと長持ちする上にうま味や香りが倍増。ベジタリアンやヴィーガン料理にも人気だ。おいしくて滋養があり、価格も安定しているので財布に優しい食材だ。

いつでも食卓に

昔は秋にしか手に入らなかったキノコは、栽培技術の普及によって身近な食材になった。原木によるシイタケの人工栽培が始まったのは、300年前の江戸時代といわれている。広葉樹の原木に傷を付け、そこに胞子を落として育てていた。その後、おがくずなどに必要な栄養分を混ぜた人工培地を作って生育させる菌床栽培が開発された。今では、シイタケ、ナメコ、エノキタケ、ブナシメジなど、20種類ほどが栽培されている。

ただし、マツタケは、まだ人工栽培が確立されていない。松林が世界中で減ったことで生育量が減り、国際自然保護連合(IUCN)は2020年7月に、マツタケを絶滅危惧種の「危急」に指定。3番目に危険度が高いと位置付けた。

マツタケの土瓶蒸し。土瓶にマツタケ、ギンナン、エビを入れ、だしで蒸してスダチの果汁をかける
マツタケの土瓶蒸し。土瓶にマツタケ、ギンナン、エビを入れ、だしで蒸してスダチの果汁をかける

スーパーの常連キノコ

シイタケ

日本のキノコの代表格で知名度、人気共にナンバーワン。「シイ」の枯れ幹に多く生えていたからシイタケと呼ばれるようになったといわれている。かさは大きめで茶褐色、軸の部分は白い。肉厚で独特の風味があり、汁物から炒め物まで日常的に使われる。生シイタケと干しシイタケがあり、干すことでうまみや香り成分、カルシウムの吸収を促進させるビタミンDが増す。長期保存もできる。

お薦め: 鍋物、天ぷら、すき焼き、汁物、炒め物

生(左)、干しシイタケ
生(左)、干しシイタケ

マツタケ

「キノコの王様」とも呼ばれるマツタケは、アジア、欧州、北米などの松林に多く生えているが、生育量は減少している。日本ではアカマツ林に多い。焼いてよし、蒸してよし、揚げてよし。1本数千円と、庶民には高根の花だ。2021年の初ぜりでは1キロ当たり1185万円の値が付いた。

お薦め:土瓶蒸し、吸い物、ホイル焼き、炊き込みご飯、天ぷら、関西ではすき焼きも

マツタケ

マイタケ

かさが重なり合い、チョウがひらひらと舞う姿に似ているとか、珍しいキノコなので見つけた人が舞い上がって喜ぶところから、名前が付いたともいわれている。中国、欧州、北米の温帯地域にも生息するが、ほとんどが菌床栽培。やわらかく、風味が豊かで、包丁を使わずに手で裂くと、香りが出て、味がしみ込みやすくなる。火を通すことでうま味がさらに引き出される。

お薦め:天ぷら、パスタ、炒め物、汁物

マイタケ

エリンギ

日本には自生せず、1993年から栽培が始まった。肉厚で歯応えがあり、食感はアワビに似ている。日本では暗室栽培で伸ばした白い柄と小さめのかさが好まれるが、イタリアではかさが開いたものが好まれるという。焼いたり煮たりすることで風味が豊かになる。

お薦め:鉄板焼き、ホイル焼き、ソテー

エリンギ

エノキタケ

店頭に並ぶ人工栽培のエノキタケは光に当てないので白くて細長く、かさも小さい。日本料理だけでなく、中華、韓国料理にもよく用いられる。シャキシャキと歯応えがよくみずみずしいので、みそ汁やサラダにも合う。天然のエノキタケは茶色がかったオレンジ色で、軸が短くかさがしっかりしている。

お薦め:鍋物、すき焼き、あえ物、汁物

人工栽培(左)、自生するエノキダケ
人工栽培(左)、自生するエノキタケ

ナメコ

主にブナの倒木に生える。ぬめりとぷりぷりした食感が特徴的。かさは小さめでオレンジ色。日本料理には欠かせない。みそ汁などの汁物に最適の食材。軸を短く切った袋入りのナメコは、ぬめりが多いのでさっと水洗いか湯通しして使う。

お薦め:ナメコ汁、あえ物

生(左)、ナメコ汁
生(左)、ナメコ汁

キクラゲ

「木耳」と書く。春から秋にかけて、広葉樹の倒木や枯れ枝に発生する。日本で流通しているものは、ほとんどアラゲキクラゲ(荒毛木耳)。輸入が9割以上を占める。主に乾燥品が出回っているが、最近は国産の生キクラゲも見かける。生はさらに弾力性と歯応えがある。中華料理や韓国料理にも使われる。

お薦め:スープ、天ぷら、炒め物

生キクラゲ(左)、乾燥キクラゲ
生キクラゲ(左)、乾燥キクラゲ

シメジ

湿気の多い所に生えることから「湿地」と呼ばれるようになったといわれる。かさは薄い茶色で軸が白っぽい。歯応えが良く、くせがないため、アレンジが利く優れもの。ブナシメジ、ホンシメジなど種類が多い。慣用句の「香りマツタケ、味シメジ」は、「物事にはそれぞれ長所がある」という例えだ。

お薦め:炒め物、汁物、鍋物、パスタ、天ぷら

人工栽培(左)、ハタケシメジ
人工栽培(左)、ハタケシメジ

写真=© Pixta

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