意外に知らない「ニッポン入門」

豆腐

豆腐は今や日本に限らず、世界で注目を集めている。一方、その種類や製造方法の違いは意外に知られていない。低カロリーなのに高たんぱく、さらに値段も手頃とあって、食卓に欠かせない。家でも作れる。人気は上がる一方だ。神奈川県逗子市にある創業91年になる豆腐専門店「とちぎや」に豆腐の作り方を聞いた。

豆腐職人の朝は早い。神奈川県逗子市にある「とちぎや」の三代目、亀田勝(まさる)さんは毎朝午前4時ごろに起き、工場に入る。前日から選別して水につけておいた国産の大豆にさらに水を加え、機械ですりつぶして、大豆汁を作る。それを加熱し、布でこして豆乳とおからに分け、豆乳に凝固剤(にがり)を入れる。水加減や熱し方、固め方を変えると、さまざまな豆腐製品が出来上がる。国内だけでも大豆は400種類を超える。大豆から作る豆腐は、ずっしりと硬いものから、飲み込めるような軟らかなものなど、地域によって好みも分かれ、バリエーションに富む。

「とちぎや」の朝。
「とちぎや」の朝。(撮影=ベンジャミン・パークス)

豆腐の歴史:僧侶たちの精進料理から進化

豆腐の由来は諸説あるが、奈良時代(710-794)から平安時代(794-1185)にかけて遣唐使として中国に渡った僧や学者が、日本に持ち帰ったという説が有力だ。

漢字の「豆腐」は、豆が腐ると書く。しかし、中国語で、「腐」は、ぷよぷよと軟らかいものを広く指す言葉で「豆腐」は「軟らかい豆」という意味だ。

鎌倉時代(1185-1333)に入ると、仏教の教えの不殺生を守るため、肉や魚を使わない精進料理のタンパク質を補うために豆腐が使われるようになった。

江戸時代(1603-1868)の初期には、まだ市井の人々にはぜいたく品だった。ようやく庶民に広がるようになったのは、江戸中期ごろだといわれている。1782年には、100種類の豆腐料理を紹介したレシピ本『豆腐百珍』が出版され、大ベストセラーになった。生で食べるほか、煮る、蒸す、ゆでる、焼く、揚げる、炒めると多彩な調理法を満載し、続編も含み、シリーズで紹介されていた豆腐料理は約240種類にも及ぶ。(日本豆腐協会より)

まだ肉食が一般的ではなかった明治時代(1868~1912)以前の日本では、豆腐は良質な植物性タンパク源として庶民に愛されてきた。オーストリア・ウィーンで1873年に開かれた万国博覧会で、オーストリアの農学者ハーベルランドは、日本と中国が出品した大豆の成分を分析して「大豆は畑の肉である」と表現したという説もある。

大豆は究極の健康食品

大豆は、バランスが良いタンパク質を100グラム中に35.3グラムも含む。豆腐100グラム当たりのタンパク質は、11.2グラム(※1)、大体卵1個分だ。

豆腐には、脳の活性化や記憶力や集中力を高め、物忘れなど脳の老化予防などにも効果的なレシチンや、活性酸素を抑制するサポニン、乳がんや動脈硬化を防ぐ効果があるとされるイソフラボンなど健康を増進させるさまざまな成分が含まれている。

豆腐の作り方:木綿と絹ごしどう違う?

材料は、大豆、水、にがりの3つ。創業以来、ほぼ変わらない製法で作り続けている「とちぎや」の亀田社長に作り方を見せてもらった。

(動画撮影=ベンジャミン・パークス)

  1. 豆選び・浸水:大豆を選別し、洗って水につける。
  2. すりつぶす:一晩水につけた大豆にさらに水を加え調節ながらすりつぶし、ペースト状にする。
  3. 加熱:大豆汁を加熱する。殺菌の役割もある。
  4. 搾る:加熱後、布でこして豆乳とおから(※2)に分ける。
  5. かき混ぜる・寄せる:出来上がった豆乳に凝固剤(※3)を加え、均一にかき混ぜながら固める。職人の腕の見せどころ。
  6. 木綿豆腐:豆乳ににがりを入れ、かき混ぜながら固まりかけたものをいったん崩し、木綿布を敷いた穴の開いた型箱に均一に入れて、ふたをして重しをかけて脱水する。適当な硬さになったら、箱から取り出して水槽に入れて中まで冷ます。
  7. 絹ごし豆腐:木綿より濃度の高い豆乳を穴の開いていない型箱やおけに入れ、凝固剤を加えてかきまぜてゆっくり固める。水切りや圧縮はしない。水分をたっぷり含んだ柔らかな豆腐になる。

豆腐の種類いろいろ

木綿豆腐

© Pixta
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【特徴】硬めでしっかりした食感。きめがやや粗いが濃厚な味わい。焼く、煮る、炒める料理に適している。

【作り方】前出、豆腐の作り方「木綿豆腐」参照

絹ごし豆腐

© Pixta
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【特徴】きめが細かく滑らかで軟らかいが、絹布は使わない。サラダ、冷ややっこなどに向く。

【作り方】前出、豆腐の作り方「絹ごし豆腐」参照

充塡(じゅうてん)豆腐

© ニッポンドットコム編集部
© ニッポンドットコム編集部

【特徴】絹ごし豆腐のように軟らかく日持ちがする。

【作り方】直接容器に冷たい豆乳と凝固剤を入れ密封し、加熱して凝固させる。空気に触れないので日持ちする。

おぼろ豆腐(寄せ豆腐)

出来立てのおぼろ豆腐(協力=豆富司みしまや、撮影=工藤詩織さん)
出来立てのおぼろ豆腐(協力=豆富司みしまや、撮影=工藤 詩織)

【特徴】水にさらさないので、大豆の香りやうま味が残っている。そのまま食べたり、スープに入れたりする。

【作り方】木綿豆腐を作る要領で凝固した後、温かいうちに容器に入れる。

がんもどき

© Pixta
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【特徴】焼いたり、煮たり、おでんの具に適している。

【作り方】木綿豆腐を崩して水を切り、つなぎにヤマイモを入れて練り、ニンジン、ゴボウ、シイタケや季節の野菜を加えて、丸めて揚げる。

厚揚げ

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【特徴】グリルで焼いても、煮てもよく、多くの料理に使われる。

【作り方】木綿豆腐を水切りしてから、高温で揚げる。「絹揚げ」は、絹ごし豆腐を揚げたもの。

油揚げ

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【特徴】みそ汁の具、煮物、いなりずしなどに使われる。

【作り方】濃度を薄めた豆乳から作った木綿豆腐を薄く切って、脱水をしてから、揚げる。

焼き豆腐

© Pixta
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【特徴】崩れにくく、味がしみやすい。すき焼きや煮物に向く。

【作り方】硬めに作った木綿豆腐を水切りしてから、ガスバーナーなどで両面に焼き目を付ける。

食べ方あれこれ

夏は好みの薬味にしょうゆを垂らした冷ややっこ、冬にはだしを引いた湯で温める湯豆腐のほか、焼いても煮てもいい。冷蔵庫から出して、室温の17~19度に戻して、塩こしょうやオリーブオイル、ゴマ油をかけて食べたり、キムチやアンチョビなど味の濃いトッピングを載せたり変化自在だ。

また、豆腐を作る過程で豆乳を搾った後に残るおからは、食物繊維がたっぷり含まれている。豆腐やおからを加えて作ったドーナツを新たなメニューとして販売している豆腐店もある。

豆腐やおからを加えてつくるドーナツ(協力・とちぎや、撮影=ベンジャミン・パークス)
豆腐やおからを加えてつくるドーナツ(協力・とちぎや、撮影=ベンジャミン・パークス)

豆腐作りは自然が相手

季節によって異なる水の温度、大豆の鮮度など「自然の条件に合わせて最適な作り方をしなければならないのが何より難しい」と亀田さんは言う。現在、地元の生産者が守り続けてきた「津久井在来大豆」を原料にしているが、地域にもう一つ「たのくろ豆」と呼ばれる在来種を見つけた。甘味が強いのが特徴で「たのくろ豆」を材料にすべく、今は生産者と栽培方法を研究中だ。亀田さんは、創業100周年までに栽培方法を確立し、地元の大豆にこだわった豆腐作りを目指している。

「とちぎや」三代目の亀田勝さん(左)と四代目の亀田大(まさる)さん
「とちぎや」三代目の亀田勝さん(左)と四代目の亀田大(ひろし)さん (撮影=ベンジャミン・パークス)

番外編

大豆からでも、無調整豆乳からでも、にがりを用意すれば、大豆の香りが豊かな豆腐が作れる。

おうち時間で手作り豆腐

用意するもの

  • 大豆100グラム
  • 湯400ミリリットル【無調整豆乳(300ミリリットル)から作る場合は 5 から】
  • にがり(原液)3グラム(メーカーによってにがりの濃度が異なることがある)
  • 水9グラム

手順

  1. 大豆をボウルに入れ、たっぷりの水につけて一晩おく。
  2. 次の日、分量の湯を沸かし、60度ぐらいに冷まして、大豆と湯を1対1の割合にしてミキサーに入れ、かき混ぜる。
  3. ②に、残りの湯を入れる。
  4. ③を少し冷ましてからさらし布で搾り、豆乳とおからに分ける。
  5. 【豆乳から作る方法はここから】豆乳もしくは、無調整豆乳を鍋に入れ、かき混ぜて沸騰したら弱火にして、さらに5分煮て、80度ぐらいまで冷ます。
  6. 【ここが大切!】木べらで豆乳を同じ方向に10回混ぜ、液体の流れをつくる。水と合わせたにがり(原液3グラム+水9グラム)を入れて、素早く同じ方向に5回混ぜたら、へらで豆乳の流れを止める。
  7. 火を止め、ふたをして15分待ったら出来上がり。
    『まいにち豆腐レシピ』工藤詩織著から抜粋)

バナー写真=油揚げ用の木綿豆腐を薄く切る。撮影=ベンジャミン・パークス

(※1) ^ (日本食品標準成分表2020年版)

(※2) ^ 食物繊維のたっぷり入ったおから(大豆の搾りかす)は、料理やドーナツなどお菓子の材料や飼料として利用される。

(※3) ^ 凝固剤には、海水から塩の成分を取った後に残る「海水にがり」と、海水から塩の成分を分離して作った「塩化マグネシウム」、すまし粉(硫酸カルシウム)などがある。

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