福島第1原発の処理水をめぐる経緯 : IAEA「国際基準に合致」、漁業者や近隣諸国反発
社会 政治・外交 気象・災害
福島第1原子力発電所の敷地内にたまり続ける「処理水」の海洋放出に注目が集まる。政府は「夏頃」の方針を堅持し、7月4日にはIAEAから「国内基準と合致」との報告書も受け取った。一方で、漁業関係者や近隣諸国からは根強い反発が続いている。処理水問題をめぐるこれまでの経緯をまとめた。
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東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出について、国際原子力機関(IAEA)は「国際的な安全基準に整合的」であると結論付けた包括報告書を岸田文雄首相に提出した。報告書は処理水の放出による人体や環境への影響は「無視できる」との見解も示した。
福島第1原発で発生する放射能汚染水は多核種除去設備(ALPS)で浄化し、放射性物質を取り除く。ただ、性質が水素と似ているトリチウムは取り除くことができず、東電は「処理水」として敷地内のタンクに保管してきたが、敷地内のタンクの容量が限界に達することから、政府は2021年4月、処理水の海洋放出方針を決定した。処理水のトリチウム濃度を国の基準値の40分の1未満まで海水で薄めたうえで、原発から約1キロの沖合に放出する計画。岸田首相は今後、「夏ごろ」としてきた放出開始時期を最終判断する。ただ、国内の漁業関係者に加え、中国、香港などアジア諸国からの反発も根強い。
福島第1原発処理水問題をめぐる経緯
(上段から下段へ時系列をさかのぼる形で出来事を表記している)
2024年2月頃 | 処理水の保管タンクが満杯の見込み |
2023年夏頃? | 放出開始予定 |
2023年7月7日 | 韓国政府が処理水の海洋放出について、「IAEAなどの国際基準に合致する。韓国の海域には、ほとんど影響を及ぼさない」などとする独自の検証結果発表 |
2023年7月4日 | IAEA包括報告書「安全基準に整合的である」 |
2023年6月28日 | 東電工事完了発表、原子力規制委員会が使用前検査実施 |
2023年6月22日 | 全国漁業協同組合連合会が「国が全責任を持って対処することを強く求める」とする特別決議 |
2023年5月23日 | 韓国専門家らが現地視察 |
2022年8月 | 福島県、大熊町、双葉町の了承を得て、東電が放出設備工事開始 |
2022年7月 | 原子力規制委員会が東電の放出計画を認可 |
2021年9月 | 国際原子力機関(IAEA)が安全性の検証開始 |
2021年8月 | 東電が沖合1キロほどに放出すると表明 |
2021年4月 | 菅政権が海洋放出を決定 |
2020年2月 | 政府の小委員会が「海洋放出」と「水蒸気放出」を現実的な選択肢とする報告書を公表 |
2016年5月 | 経済産業省の専門家会合が「処理水の海洋放出が最も期間が短く、最も費用が安い」とする報告書をとりまとめ |
2015年8月 | 政府と東電が福島県漁業協同組合連合会に「関係者の理解なしにいかなる処分も行わない」と約束 |
2013年3月 | 原発汚染水からほとんどの放射性物質を取り除く多核種除去装置(ALPS)が試運転開始 |
2011年3月11日 | 東日本大震災、東京電力福島第1原発事故発生 |
バナー写真:国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長から福島第1原発の処理水の海洋放出計画についての包括報告書を受け取る岸田文雄首相(2023年7月4日午後、首相官邸)(ロイター)