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年金受給、30年後は現役手取りのせいぜい半分

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少子高齢化で公的年金の状態は悪化する一方だ。経済が良くなったとしても、約30年後には現役時代の収入に比べて、もらえる年金額の比率は約半分まで落ち込む見通しだ。

厚生労働省は5年ぶりに公的年金(国民年金と厚生年金)の将来見通しを見直した。それをまとめた「年金財政検証」によると、現役世代の平均収入に対する年金額の比率(所得代替率)は2019年度で61.7%。しかし、少子高齢化の進行で、保険料を払う「支え手」と年金を受け取る「支えられる側」のバランスは一段と悪化していく見通しなので、今後も年金は目減りし、所得代替率の低下は避けられない。

代替率悪化の程度は今後の経済状態に左右され、財政検証は6通り想定。経済成長と女性・高齢者などの労働参加が最も良好な場合(ケース1)でも、46年度には51.9%まで低下。最も良くない場合(ケース6)には43年度に36~38%程度まで下がる恐れがあるという。

所得代替率の見通し

ケース 給付水準調整終了後の厚生年金の所得代替率 給付水準調整の終了年度
1 51.90% 2046年度
2 51.60% 2046年度
3 50.80% 2047年度
4 46.50% 2044年度
5 44.50% 2043年度
6 36~38% 2043年度

注:1〜3は経済成長と労働参加が進むケース、4と5は経済成長と労働参加が一定程度進むケース、6は経済成長と労働参加が進まないケース
出典:「年金財政検証」

ニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫・主任研究員は、成長力を左右する生産性は「過去30年で最も悪い」とし、足元の経済状態だけで考えれば、現状は最悪のケース6に当たると分析。同氏は「女性や高齢者の労働参加を促し、経済全体のカネ回りを良くするなどの努力をよほどしていかないと、ケース6から上には行けない」と話す。

年金問題をめぐっては、金融庁が6月、「老後は年金では足りず2000万円の貯蓄が必要」との審議会報告書をまとめた。しかし、7月の参院選を前に争点化するのを恐れて、麻生太郎金融相が報告書の受け取りを拒否。前回は6月に公表された年金財政検証も今回は選挙後の8月末にずれ込んだ。

パート労働者の加入増も手

年金財政の悪化を少しでも和らげることはできないか-。財政検証では、受給開始時期を遅らせる方法のほか、「支え手」を増やす案を示した。厚生年金に加入できない一部のパート労働者が入れるようにすることが考えらえる。現状では厚生年金に入れるのは勤め先が「従業員501人以上」の企業の場合に限られているが、その規制を廃止すると加入者は125万人増え、全体の所得代替率をわずかながら押し上げる効果はあるという。

ただ、厚生年金は企業が保険料を半分負担する仕組みなので、「規制廃止には小売業など中小企業の反発が予想される」(中嶋氏)。実現には、人手不足解消に向け中小企業があえて保険料負担を容認するかどうかに掛かっている。

写真:党首討論で、金融庁の審議会報告書を麻生太郎金融相(右から2人目)に渡そうとする国民民主党の玉木雄一郎代表(左)(時事通信)

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