
「関税万能」外交に猛進するトランプ2.0政権
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次のターゲットはEU
トランプ氏はカナダ、メキシコに25%、中国に10%の追加関税を発動する大統領令に署名した。カナダ、メキシコが妥協の姿勢を示したことで両国への発動は1カ月延期されたものの、米国が「最大の敵」とみなす中国と同列のターゲットにされたカナダ、メキシコの衝撃は大きい。
また、トランプ氏は「欧州連合(EU)はわれわれを食いものにしてきた。確実に関税を課す」(2月2日)と、EUを次のターゲットとする方針を公言し、欧州諸国を戦々恐々とさせている。「グリーンランド割譲」という要求も突き付けられているデンマークのフレデリクセン首相は「同盟国同士の争いは支持しないが、高関税を押し付けるなら団結して断固たる措置をとる」(※1)と述べた。EUの現議長国を務めるポーランドのトゥスク首相も「愚かな関税戦争」と呼んだ上で「米欧同盟間でこんな事態が起きるのは初めてだ」と強く反発している。
1期目と異なる関税の目的
「タリフマン(関税男)」を自称するトランプ氏は1期目(2017~21年)の18年にも、中国からの輸入品の6割超に当たる約3700億ドル分に最大25%の制裁関税を発動している。しかし、米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」などの分析によると、2期目の今回は関税の目的や狙いが飛躍的に拡大した。
第一に、1期目の高関税は主として米中貿易不均衡の是正などに絞られていたが、2期目のターゲットには中国以外の同盟・パートナー諸国が含まれ、無差別的になっている。第二に、対象となる物品は1兆4000億ドルと桁外れの高額に膨らみ、その大半を占めるのは同盟・パートナー諸国だという(※2)。
その理由として、トランプ氏は「歴代政権は国際貿易における米国の例外的な強みを外交のテコにしてこなかったが、わが政権は違う」(※3)と言明している。関税を経済・通商、政治、外交、戦略のあらゆる分野で自国の権益を達成するための「万能のツール」とみなしていることが明らかだ。
制裁関税の応酬という貿易戦争がどの国の得にもならないのは経済の常識だ。だが、トランプ外交の問題はそれだけにとどまらない。米国の専門家の間では、「短期的成果は得られるかもしれないが、同盟・友好国いじめと映るような手法は、長期的に米国への信頼を損ない、同盟の連携を揺るがせかねない」と危惧されている(※4)。
「力による平和」を掲げるトランプ氏は2期目の就任演説で、「米国が地球上で最強かつ最も尊敬される地位を回復する」と胸を張り、「われわれの力で全ての戦争を止め、予測不能な世界に新たな団結精神をもたらす」と宣言した。しかし、同盟や友好国を関税で挑発し、従属させるような外交手法では、国際社会の尊敬や同盟の団結を回復するのは難しい。
「力」の代わりになるか
もう一つの問題は、「関税万能」に依存することで、1期目政権の外交的強みとなっていた「予測不能」という持ち味が薄れてしまう恐れがあることだ。
例えば、1期目のトランプ氏は国連総会演説で、いざとなれば「北朝鮮を完全に破壊する」(2017年9月)と激しい言葉で非難した。演説後、北朝鮮は大陸間弾道ミサイル(ICBM)実験を即座に中止し、米朝首脳会談へと結び付いたが、その背景は北朝鮮が「米国が何をするかわからない」と恐れたためとみられている。
「関税一本やり」とも言える2期目の滑り出しや、「戦争に巻き込まれないことが最も重要」(就任演説)といった語り口を見ると、いざという時にトランプ政権が「力」を行使する覚悟があるかが問われる。バイデン前大統領は、米軍や北大西洋条約機構(NATO)による直接介入に消極的なことでロシアや中国に足元を見透かされたが、トランプ政権が同じ羽目に陥らないという保証はない。
トランプ氏はウクライナ戦争の終結協議にロシアが加わらない場合は「経済制裁や関税を課す」と述べているが、既にロシアは西側の経済制裁を受けている。米ロの貿易額は侵略開始以降90%も縮小しており、新たに制裁や関税を加えても「効果はほとんどない」と指摘されている。
また、台湾に関しても、トランプ氏は中国が武力侵攻に踏み切れば「中国からの輸入品に120~150%の関税を課す」と関税で対応する姿勢だ。台湾救援のための軍事介入については明言を避けている。
「関税万能」外交にひた走ることで、同盟・パートナー諸国の尊敬と信頼を勝ち取り、国際秩序を堅持するという米国の国益は確実にむしばまれている。
バナー写真:執務室で大統領令などに署名した後、メディア取材に応じるトランプ米大統領。関税引き上げを巡るメキシコとの交渉の状況についても言及したという=2025年2月3日、ホワイトハウス(AFP=時事)
(※1) ^ “After Tariff Fight With Canada and Mexico, Trump’s Next Target Is Europe,” Patricia Cohen, NYT, Feb. 3, 2025.
(※2) ^ “Trump’s Tariffs Usher In New Trade Wars. The Ultimate Goal Remains Unclear,” Greg Ip, WSJ, Feb.3, 2025.
(※3) ^ ホワイトハウス発表の関税に関するファクトシート。Fact Sheet: President Donald J. Trump Imposes Tariffs on Imports from Canada, Mexico and China, White House, Feb.1, 2025.
(※4) ^ “Trump Favors Blunt Force in Dealing With Foreign Allies and Enemies Alike,” Peter Baker, NYT, Feb.2, 2025.