
全面侵略3年 復興へ「日本らしい支援を」 ウクライナのコルスンスキー大使
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「遠い国」から「近い国」に
全面的な戦争が始まる前、日本人にとってウクライナは「遠い国」だったが、その後、ウクライナに対する理解、考え方が大きく変わったのを実感する。大げさに聞こえるかもしれないが、日本の人々は3年間に起きた悲劇、惨事に深く同情するとともに、ウクライナとその国民に心を開き、「近い国」として感じてくれている。
日本人のウクライナ理解が進んでいることを笑顔で語る=2025年1月17日、在日本ウクライナ大使館
一例だが、出張して乗ったローカル線の車内などで、一般の人から「ウクライナ大使ですか?」と声をかけられ、激励の言葉をいただくことがある。日本政府だけでなく、地方自治体から支援の申し出や問い合わせも大使館に相次いだ。岡山県内の自治体からは、更新の時期を迎えた救急車や消防車の無償提供を受けた。日本の車両だからきちんと整備されており、まだまだ使える。ウクライナの救急活動に大いに役立っている。
これまでに日本が受け入れたウクライナからの避難民は2700人を超えた。一部の人々はすでに帰国しているが、いまなお多くの人々が地方自治体などの支援を受けて生活している。民間からの援助は、携帯翻訳機や携帯電話のSIMカードの無償提供のほか、日本語教育の提供など幅広く、厚い。こうした有形無形のサポートのおかげで就労機会も増えている。
壁に掲げられたウクライナの国章からは、自国への自負が伝わる=2025年1月17日、在日本ウクライナ大使館
両国の関係は支援のやりとりだけではない。さまざまな交流も広がり、2023年に来日したウクライナ国立民族舞踊団のチケットが全公演で完売したことは、日本の人々のウクライナ文化への関心の高まりを示しているといえるだろう。スポーツ関連では、新体操の若手選手が群馬県高崎市で合宿トレーニングしているほか、柔道でも日本での指導を受けている。
復興経験から学ぶ
2024年2月に東京で開かれた「日ウクライナ経済復興推進会議」において、日本は官民一体でウクライナの復旧・復興を支援することを確認した。これまでの日本の支援額は、米国、欧州連合(EU)諸国に次ぐ規模で、大きな助けとなっている。政府からだけではなく、日本赤十字社をはじめとする数百にも上る非政府組織(NGO)からも多大な支援をもらっている。
ウクライナの復興に参考、指針となるのが日本の経験だ。私は2023年、復興に関する本をウクライナで出版するにあたり、日本の事例を多く学んだ。今年は阪神淡路大震災から30年になるが、関東大震災(1923年)、東日本大震災(2011年)などの自然災害、第2次世界大戦での戦災から、日本は見事な復興、復活を幾度も成し遂げてきた。復興事業において、日本の右に並ぶものはない。
セルギー・コルスンスキー大使の著書=2025年1月17日、在日本ウクライナ大使館
執筆にあたって注目したのが、関東大震災で壊滅的被害を受けた首都をよみがえらせた後藤新平だ。彼は帝都復興院総裁として幅広の幹線道路を建設し、広範囲にわたる区画整理などを短期間で断行した。今でもその名残を東京の街並みに見ることができる。ウクライナには、ゆっくりと復興していく時間的余裕はない。そこで参考とすべきは「最適解(best practice)」といえる日本の経験であり、それが「日本らしい」支援にほかならない。
地雷除去で生きる日本のノウハウ
ウクライナ非常事態庁の2024年2月の発表によると、ロシアの侵略によって地雷 が埋められるといった可能性がある面積は約15万6000平方キロメートルだ。国土の4分の1余りに相当する。その除去活動でも日本のノウハウが役に立っている。
長い外交官キャリアから紡ぎ出される言葉には、深い知識と幅広い経験がにじみ出ていた=2025年1月17日、在日本ウクライナ大使館
日本は長年にわたってカンボジアでの地雷除去活動に取り組み、その経験を蓄積してきた。現在ウクライナで使われている除去機材の3分の1が日本からのものだ。ウクライナ非常事態庁の特殊部隊が複数回にわたってカンボジアと日本へ入り、日本による研修を受けている。機材、設備の供与から、その操作に至るまで綿密な指導がなされ、地雷除去活動において日本は世界的にも指導的立場にある。
破壊された街の再建には、まず地雷を除去することが不可欠だ。そうして初めて住人たちが戻れるようになる。この分野における日本の貢献は、ウクライナ国民に非常に大きな希望を与えている。これも「日本らしい」支援の一つだ。
揺るがぬ支援
非常に不思議なことだが、ウクライナに近い欧州各国におけるウクライナへの関心は下がっている。一方、8000キロ離れた日本では、まったくそのような現象はない。また、戦争の長期化に従って欧米各国では「支援疲れ」の声が出ているが、日本では聞いたことがない。
政府、国会議員、民間、さまざまなレベルで両国の対話が継続的に行われており、日本において「支援疲れ」という現象はないと断言できる。旧ソ連が先の大戦末期に日ソ不可侵条約を破棄し、満州に侵攻したことを日本国民がまだ生々しく覚えていて、ウクライナで起きていることを深く理解しているからだと思う。
欧州で起きていることは、東アジア、日本に対して直接的な影響を及ぼす。逆に、東アジアで戦争が起きれば、欧州も影響を受ける。ロシアと北朝鮮が昨年、事実上の軍事同盟である「包括的戦略パートナーシップ条約」を発効させ、北朝鮮がウクライナとの戦争に参加したことで、それはより明白になった。
国際情勢を冷徹に見通す視線は、東アジアの安全保障問題にも向けられている=2025年1月17日、在日本ウクライナ大使館
岸田文雄前首相は「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」と語った。ロシアはウクライナでの侵略に成功すれば、東アジアで同様のことを試みるかもしれない。ロシア海軍は中国海軍と昨年、日本海で大規模な戦略演習を実施したが、このような演習の頻度は高まってきている。これはどのような意味を持っているのだろうか? また、核を保有する北朝鮮はどんな行動に出るだろうか? ウクライナの情勢は、東アジアの安全保障問題と密接に結びついている。「東アジアでのウクライナ」が起こらないよう、ウクライナと日本とは引き続き協力を強化し続けなければならない。
聞き手:オニスチェンコ・ヴァチェスラヴ、住井亨介(nippon.com編集部)
写真:志和浩司
バナー写真:インタビューに答えるセルギー・コルスンスキー大使=2025年1月17日、在日本ウクライナ大使館