米欧関係:トランプ政権復活で深まる混迷

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トランプ第2期米政権発足を控えた欧州で、政治・社会の混迷が深まっている。トランプ流の「自国中心主義」にあやかる風潮の広がりに加えて、ウクライナ戦争を巡る不透明感の高まりも背景にある。

戦々恐々の英国

トランプ氏の対欧州外交に最も神経を尖(とが)らせているのは、英国のスターマー首相だ。スターマー氏は昨年7月の総選挙で勝利し、14年ぶりに労働党政権をスタートさせたのはよかったが、4カ月後の米大統領選でトランプ氏が想定外の大勝を果たしたことで肝を冷やす羽目に陥った。

英労働党は、同じリベラル路線を掲げる米民主党と伝統的に「姉妹関係」と言われる。それが高じて、米大統領選では労働党職員が大西洋を渡り、ボランティアとして民主党ハリス陣営で選挙応援をしていた事実が報じられ、「許し難い政治干渉」と、トランプ氏を激怒させたという。

また、スターマー氏の片腕とされるラミー外相は、かつて野党議員時代に1期目のトランプ氏を「KKK」(白人至上主義団体のクー・クラックス・クラン)、「ネオナチ」などと名指しで非難し、「筋金入りの反トランプ」で鳴らした人物だ。ラミー氏は昨年9月、スターマー首相と訪米し、トランプ氏と夕食会を共にしたものの、関係修復に成功したかどうかは不明だ(※1)

政策面でも、ウクライナ支援拡大を訴える英側と、早期停戦を画策するトランプ氏との溝は深い。欧州連合(EU)との関係改善を模索するスターマー氏に対し、トランプ氏は「EU嫌い」で知られ、両者の路線は「水と油」と言ってもよい。米英両国は「特別な関係」の歴史を誇ってきたが、「今回は英国にとって最悪」と冷ややかに突き放す米メディアもある(※2)

スターマー氏は、「党の重鎮」として名高いマンデルソン貴族院議員を駐米大使に起用すると発表、関係修復に注力する姿勢をアピールした。だが、マンデルソン氏は「対中穏健派」とも指摘され、対中強硬姿勢を前面に押し出しているトランプ政権では、かえって逆効果に終わるリスクも取り沙汰されている。

はびこる「自国中心」

EUの屋台骨を支えるドイツ、フランス両国も揺れている。ドイツでは、ショルツ首相の社会民主党(SPD)の支持率が急落して連立政権が崩壊し、2月下旬に総選挙が行われる。

現状では、保守のキリスト教民主同盟(CDU)が政権に復帰する見通しだが、「親ロ・反ウクライナ」や「移民排斥」といった自国中心路線を掲げる新興極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が急速に追い上げており、議会の第2勢力にのし上がる可能性があるという(※3)

フランスでも、マクロン大統領の求心力低下が指摘され、大統領が指名する首相を昨年1年間で3度もすげ替えさせられる異常事態が起きている。原因は、昨年7月の下院選挙で大統領の与党連合が国民の支持を失い、極右の「国民連合」や極左政党の躍進を招いて少数与党に転落したためだ。ポピュリスト政党で「ロシアに甘い」とされる国民連合がマクロン氏の足元を揺さぶっている。

ロシアの影

東欧・中欧では、長期化するウクライナ戦争が影を落とし、ロシアの暗躍も目立っている。人口1900万人を擁するルーマニアは中・東欧でポーランドに次ぐ大国だが、昨年11月の大統領選で無名の候補が第1回投票でいきなり首位に躍り出た。

この候補は「プーチン氏は愛国者」と語り、中国系動画アプリ「TikTok」を選挙で不正利用した疑いが高まったため、憲法裁判所が「選挙無効」を宣言し、投票のやり直しを命じる異例事態となった(※4)

ルーマニアはウクライナの南に隣接する要衝で、北大西洋条約機構(NATO)、EUとも緊密に連携している。国内の軍事施設をウクライナ軍の訓練に提供するなど重要な役割を果たしているだけに、隣のモルドバと共に、ロシアの裏工作のターゲットになりやすい。やり直し大統領選に向けて世界の関心が集まっているのは、このためだ。

トランプ氏も揺さぶり

トランプ氏自身も欧州の混迷に拍車をかけている。トランプ氏は1月7日、フロリダ州で開いた会見で、「ウクライナ停戦に6カ月はほしい」と述べ、「即時終結」を豪語してきた姿勢を後退させた。また、これまで「国内総生産(GDP)比2%」とされてきたNATO加盟各国の国防費についても、「5%にすべきだ」と、大幅な引き上げ要求を突き付けた。

トランプ氏の発言は国際社会に強烈なショックを与えることによって、バイデン現政権との違いを強く印象付ける狙いがあるとみられるが、同盟・パートナー諸国にとっては新たな動揺や不安を巻き起こすことになりかねない。

日本の石破政権も欧州の困惑を人ごとととらえることなく、「トランプのアメリカ」にしっかりと向き合っていく周到な準備と決断が必要だ。

バナー写真:英仏首脳会談でマクロン大統領(右)を「チェッカーズ」(英首相の公式別荘)に迎えるスターマー首相=2025年1月9日、英アリスバーリー(AFP=時事)

(※1) ^英首相、トランプ氏に祝意表明、国内では関税政策への懸念の声も」、ジェトロ海外ニュース、2024年11月25日。

(※2) ^Trump Win Ends Britain’s ‘Special Relationship’ With America,” By Adrian Wooldridge, Bloomberg, Nov. 7, 2024

(※3) ^ショルツ独首相、信任投票が否決される 来年2月に解散総選挙へ」、2024年12月17日、英BBC放送日本語版。

(※4) ^『泡沫』急浮上、TikTok不正か ロシアの影、政治不信鮮明―ルーマニア大統領選」、2024年12月8日、時事通信。

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