日本の技能実習制度に一定の評価も:OECDの労働移民政策報告書

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「日本は外国人に対して閉鎖的な国」「外国人の技能実習制度は問題だらけ」―。こんな紋切り型の言説に一石を投じる報告書を、経済協力開発機構(OECD)がこのほど発表した。

OECD労働移民政策レビューとは何か?

2024年6月30日に、経済分野の代表的な国際機関であるOECD(本部パリ)が、日本の移民労働者政策に関する報告書「Recruiting Immigrant Workers: Japan 2024」を公表した。8月26日には報告書を日本語訳した書籍「日本の移住労働者:OECD労働移民政策レビュー:日本」(明石書店)が刊行された。

この報告書はOECDが実施した、加盟各国の労働移民政策に関する12番目の報告書である。つい11月に行われた米国の大統領選挙でも大きな争点となったように、現在、移民政策は先進各国における最重要トピックであり、注目度も高い。そうした中、本報告書のシリーズは制度が複雑でわかりにくい各国の労働移民政策について詳細にレビューし、その課題や提言をまとめた数少ない文献として、各国の移民政策担当者によって参照されている存在だ。日本については2021~24年の3年間にわたり作業が行われた。

労働移民政策という用語はlabour migration policyの訳であり、日本では外国人労働者政策と呼ばれることが多い。国際的な文脈では、移民(migrant)とは国際移住(migration)を行う者と定義され、その意味で日本は移民政策をとり、すでに移民を受け入れている移民国家である。本報告書においても同様の定義の下、以下論考を行う。

日本は外国人に対して閉鎖的な国なのか?

本報告書によれば、日本はOECD加盟国の中でもっとも移民人口(≒外国籍人口)が少ない国の一つであるとされる。しかしながら、日本は外国人に対して閉鎖的な国という紋切り型の評価はされていない。

急速に高齢化が進む中、日本は主に生産性の向上と国内人口による労働供給の引き上げを目的としたさまざまな政策を通じて、労働市場の構造的課題の解決に取り組んできた。同時に、労働移民政策は労働市場の変化に対応するために検討された政策オプションの一つであると認識されている。また、特に人口構造の変化からもっとも影響を受ける分野を含む、特定の分野に焦点を当てて進められてきたと位置付けられている。

日本の労働移民政策の特徴として、技能労働者の受け入れについては、日本での有効な雇用契約を前提とする需要主導型(demand-driven)であると同時に、その際、各国で求められているような労働市場テスト(LMT)(※1)や最低賃金よりも高い賃金水準といった付加的な条件、あるいは全体としての受け入れ上限枠等がない、開放的な政策がとられていることが指摘されている。

技能実習制度への「評価」

国際的な視点から見た技能実習制度の特徴は何であろうか。本報告書ではこれを以下の3つの点に要約している。(1)研修と試験が制度の中核となっている、(2)監理団体など複数のアクターが関与している、(3)移住仲介機能に関するコストを、雇用主からの手数料で賄っている。

報告書は、国際的に見て非専門職を対象とした「期限付き労働移住プログラム」においては、研修や試験といった要素は通常含まれないことを指摘している。なぜなら、こういったプログラムにおいては、一定の職を一定期間こなすことのみが期待されており、研修や試験を通じた技能形成やその確認といったことは想定されていないためである。

技能実習制度における研修はもっぱら実地研修(OJT)によって行われており、これは清潔さや規律といったソフトスキルを重んじる日本型雇用の特徴である、と報告書は指摘している。技能検定がより実態に沿ったものとなることを今後の課題としつつも、これは技能形成を建前論として扱う従来の議論とは異なる視点といえる。

2点目として挙げられるのが、監理団体など複数のアクターが関わっているということである。報告書では、OECD加盟国の多くの「期限付き労働移住プログラム」では、入国前の承認プロセスに公的機関が強く関与しているが、移民が到着し、就労開始のための書類を受け取った後は、ほとんどの全てのケースで公的機関が雇用主と被雇用者の間の関係から一歩引いているとしている。

一方、技能実習制度では、雇用主である実習実施先に加え、監理団体、送り出し国の送り出し機関、そして「外国人技能実習機構」(法務省と厚生労働省が所管する認可法人)が関与することで、労働者を多重に保護している。本報告書においては、こうした多重のサポート体制が責任の所在をあいまいにするというリスクも指摘しつつも、人権保護といった観点から今後も維持されるべきとしている。これは監理団体などの仲介機能こそが、諸悪の根源であるとしてきたこれまでの議論とは大きく異なるものといえよう。

3つ目は、技能実習制度では実習と監督にかかわるさまざまなコストを公的支出ではなく、もっぱら雇用主からの手数料で賄っているという点である。こういった費用は雇用主において小さなものではなく、本報告書ではこれを技能実習生の人件費全体の11-25%に相当するし、その結果、技能実習生を雇用する単位労働コストは同程度の属性を持つ日本人非正規雇用者を雇用する場合より4%高いことを明らかにしている。これは技能実習生を「安価」な、「使い捨ての労働力」として捉える従来の議論が間違いであることを端的に示すものである。

手数料、転籍制限、失踪

もちろん、これまで技能実習制度について指摘されてきた問題点についても本報告書は言及している。技能実習生が負担する手数料については、依然として課題であるとしつつ、それは日本の技能実習制度に固有の問題ではないことを指摘している。なぜなら、技能水準の低い労働者の国際移住においては、出身国での膨大な求職希望者と、目的国での限られた求人数との不均衡に起因する情報の非対称性を利用し、仲介者が時に過大な手数料をとるというのは極めて一般的なリスクであるためである。

報告書ではこれまでの大規模な制度改正により、(技能実習制度固有の)重要な問題はほとんど解決されたとしている。

技能実習生の実習期間中の転籍制限については、雇用主の支払った初期投資や日本での雇用の最初の段階で一貫した支援やオリエンテーションを提供する必要性を考慮すると、一定期間の制限は正当化されうるとしている。その一方で、諸外国の例に見られるように、一定期間や一定の条件の下で転籍を認めることは、雇用主の法令順守(コンプライアンス)の向上につながりうることを指摘している。

その一方で、報告書は日本の技能実習制度におけるコンプライアンスのレベルは国際的に見て高いとしている。例えば、本報告書では日本の技能実習生の失踪率は約2%であり、その他の法令違反率を併せても4%未満にとどまる。これは韓国の雇用許可制の法令違反率の18.9%、イスラエルの17.5%、アメリカの季節労働者等の受入れにおける特定国からの受入れの除外基準である失踪率10%と比較しても、非常に低いとしている。

技能実習生の数と失踪者数の推移

その結果、報告書は米国務省の「人身取引報告書」において、技能実習制度における人身取引の可能性を指摘していることに対して、「残念ながら、この評価は古く、主観的なものである(Unfortunately, this assessment is dated and subjective)」とし、その妥当性に疑問を呈している。こういった視点は、同報告書や、それにもとづく国連の勧告にもっぱら依拠した議論を進めて来たこれまでの日本の状況に対して、一石を投じるものといえる。

今後の課題

もちろん、本報告書は技能実習制度には依然として多くの課題があるとしている。その中でも最大の課題は「期限付き労働移住プログラム」から長期滞在への移行をいかに円滑に行うかということである。その際、カギとなるのは、家族帯同、及び統合政策の充実、並びに技能実習制度、及び特定技能制度をスキルズ・モビリティ・パートナーシップ(Skills Mobility Partnership)(※2)としていかに発展させていくかという点であるとしている。

前者については、今後、技能実習から特定技能(特定の産業分野で、相当程度の知識や経験が必要な技能を要する業務に従事する在留資格)1号、そして2号へと移行していくにつれ、家族帯同をする者が大幅に増えていくであろうという見通しに基づくものである。その際、重要になるのは生活を安定させるための手段としての配偶者の労働市場へのアクセスの改善、及びそれに伴う子どもの教育などのさまざまな補完的な統合政策であるとしている。

スキルズ・モビリティ・パートナーシップとは、受け入れ国が出身国の訓練に投資し、その人材育成に貢献するとともに、受け入れ国での雇用にもつなげるという、国際協力と労働力確保の両者を同時に達成することを目指すものであり、近年、世界銀行やOECDといった国際機関によって提唱されている新たな政策類型(※3)である。

本報告書では技能実習制度と特定技能制度が一体的に運用される中で、スキルズ・モビリティ・パートナーシップとしての役割を果たす可能性を指摘している。それにあたって、もっとも大きな課題とされているのが、帰国後の技能のポータビリティ(持ち運び)である。これは日本で取得した技能検定といった資格証明が国際的に認められる資格の相互認証制度となることなどが念頭に置かれている。

グローバルな視点での議論を

以上のように本報告書は主に国内的な視点からの議論に終始してきたこれまでの日本の外国人労働者政策論にはない、新たな視点が数多く含まれている。これはひとえに国際的な観点から常に労働移民政策を分析しているOECDの知見があってのことといえる。本報告書によって今後、より深刻な人手不足を経験する日本の労働移民政策がよりよいものとなることが期待される。

バナー写真:高級すし店などを展開する「銀座おのでら」による独自のすし研修で、黙々とにぎりを作るフィリピン出身の特定技能(外食)資格取得者=2022年11月、東京都世田谷区(時事)

(※1) ^ 現地労働者の職を奪わないよう、現地の公共職業紹介機関等で一定期間、求人情報を出し、そこで現地人からの応募がなかったことを条件に外国人の採用を認めるといった制度。

(※2) ^ OECD (2018) What would make Global Skills Partnerships work in practice? Migration Policy Debates

(※3) ^ World Bank (2023) World Development Report 2023

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