総選挙2024

♪センセイ、納税義務は? 税理士ミュージシャン・八ツ尾順一氏が見る「裏金」

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衆院選では「政治とカネ」の問題や税負担のあり方などが問われている。税理士・公認会計士ミュージシャンの八ツ尾順一氏が自作の曲を紹介しながら、税の観点から見える政治について語ってくれた。

八ツ尾 順一 YATSUO Jun’ichi

1951年生まれ。大阪学院大学法学部教授。京都大学大学院法学研究科修了。税理士・公認会計士。論文「制度会計における税務会計の位置とその影響」で第9回日税研究奨励賞受賞

「♪裏金の使途不明金 それを明らかにすることもなく 納税義務はないというが それで世間は納得しますか~」

これは今年の新曲「修正申告のすゝめ~センセイに捧ぐ」です。自民党派閥の裏金問題が注目を集め、政治資金法が改正されたにもかかわらず、税法上、忘れられた問題が残っていると感じて作詞しました。

使途不明な裏金は課税対象?

裏金事件に絡んだ政治家は派閥からキックバックで受け取ったカネについて、政治資金収支報告書に修正記載すれば、政治資金規正法による違法性を逃れられ、税金もかからないと考えていると思います。実際に多くの政治家が報告書を訂正しています。

でも税の専門家から見ると、本来は政治資金として訂正報告しても、使途が不明のままなら課税されるはずです。国税庁は、国会議員が手にした政治資金のうち、政治活動に使わなかったお金は「雑所得」として課税申告するように文書で通達しています。今の状況は、法に照して、どうしてもおかしい。

冒頭の歌は、財務省に代わって政治家に自ら修正申告をするよう促したものです。「修正申告のすゝめ」の歌詞はこうに続きます。

「♪金庫の中の裏金は 所得税では雑所得~ そんなこと『税の世界』 当たり前~」

立法に携わる国会議員は、法の趣旨を尊重する人に担ってほしいと願うばかりです。

ライブで熱唱する税理士ミュージシャンの八ツ尾順一氏(八ツ尾氏供)
ライブで熱唱する税理士ミュージシャンの八ツ尾順一氏(八ツ尾氏供)

バンドのきっかけは「タックスマン」

「NHKのど自慢」の演奏バンドメンバーと一緒に「八ツ尾順一と税金一座」を結成して11年。私たちがバンドをつくったきっかけは居酒屋談義です。「ビートルズの『タックスマン』みたいな歌を作りたいね」と提案したら、仲間が集まってくれました。

「タックスマン」は1966年の曲で、高額所得者になったメンバーが、95%もの税率を恨んで歌いました。当時、あの歌で税金について考えた英国人も多かったと思います。

バンド結成以来、毎年、2曲の新曲を発表してきました。今年は8月にライブも行い、税の歌を20曲ほど歌い上げました。

難しい税の話を、誰もが自分ごとにして考えるにはどうしたらいいのか。歌をきっかけにして税金に関心を持ってもらうのが結成の狙いでした。私は大阪学院大の教授でもあり、歌の歌詞には学生に税の知識を深めてもらうため重要判例を盛り込んだものも多いです。

税の観点から公約を見る

国民からどのように税を徴収し、どのように分配するかは、政治の一大テーマ。選挙で国会議員や政党を選ぶ時には、税を巡るルールをどう構築しようとしているか、そしてそのルールがしっかり守られているのかについても、吟味すべきです。

今回の衆院選の各党の公約を見ると、特に野党からは減税の主張が目立ちます。でも減税をすれば別の部分で負担が増えるか、将来世代に負担を先送りするかしかない。減税政策を見ても、国民は「どうせ負担もセットでしょ」と、政治家の発言を100%には受け取ってないですよね。

負担を増やして社会的弱者を助ける「大きな政府」をつくろうとしているのか、負担と給付を減らした「小さな政府」を目指しているのか。税を巡る方向性で政治家や政党を分析すれば、違いが浮かび上がってきます。有権者が公約を読み解き、選択する時には、こうした視点は不可欠だと思います。

「♪税金 あなたの羅針盤 そして未来へ導くもの~」

昨年作った「税金~そして人生」という曲です。

今回の衆院選挙でも、この歌のような視点で税に関する公約を見つめ、政党や候補者を選びたいですね。

聞き手:nippon.com編集部・松本創一

バナー写真:今年8月に大阪・吹田のライブハウスで税の歌を演奏するバンド「八ツ尾順一と税金一座」(八ツ尾氏提供)

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