選ばれる国になれるか:育成就労制度導入で変わる外国人労働者の受け入れ

社会 国際・海外 政策・行政

2024年6月の通常国会終盤において、入管法・技能実習法の改正法が可決・成立した。この改正により、技能実習に代わる新制度「育成就労」が創設されることとなった。新制度は27年までに施行される。今回の改正で、日本の外国人労働者の受け入れはどう変わるのか、新制度の特徴を整理してみよう。

技能実習の発展的解消

厚生労働省によると、日本で働く外国人は過去10年で大きく増加し、2023年10月末には200万人を超過した。その中心となっているのが、今回の制度見直しの対象となった技能実習と特定技能だ。

技能実習は、最長5年間、外国人が生産現場等で実習する制度である。その数は約41万人にのぼり、就労可能な在留資格の中で最も多い。特に地方の中小製造業、建設、農業、介護などの分野で多くの技能実習生が受け入れられている。

他方、特定技能は一定の専門性・技能を持ち、即戦力となる人材の在留資格で、人手不足の解決策として19年4月に導入された。コロナ禍で伸び悩んだが、23年は前年比75.2%も増え、約14万人となった。その7割が元技能実習生だ。

1993年に導入された技能実習は、アジアの若者に日本での生活をサポートしながら就労を通じた職業訓練の機会を提供してきた。その仕組みには一定の評価が行われている一方で、制度目的と実態の乖離(かいり)、転職制限などの権利上の問題、海外現地で求人し日本へ送り出す送出機関に対し技能実習生が高額な手数料を支払っている実態があり、人権侵害を引き起こしているとの批判が国内外から絶えないという課題も抱えてきた。これが今回の法改正により、技能実習は発展的解消(事実上の廃止)となり、新たに「育成就労」を創設したほか、特定技能は受入れ機関による支援を外部委託する場合は出⼊国在留管理庁の登録を受けた支援機関に限定するといった適正化が図られることになった。

外国人労働者に関する制度

中長期的に働く外国人を育成

新設される育成就労の主な特徴について、確認してみよう。

第1に、就労を通じた人材の確保と育成を制度の目的としたことである。技能実習は母国の経済発展を担う人材育成が目的で、実習修了後は帰国を原則としているのに対し、育成就労は、日本国内で活躍する人材を確保・育成するための制度となる。原則3年間で、次のステップとなる特定技能1号の水準にまで人材を育成。さらに家族帯同が認められる特定技能2号を得た上で、永住を含め、中長期的にわたり働ける人材の確保を可能とする仕組みが描かれている。

第2に、対象の職種、分野についてである。現行の技能実習では、一部に、特定技能に移行できない職種・作業があるが、育成就労は、特定技能と受け入れ対象分野を原則一致させると示されている。両制度の連続性を強化することにより、中長期にわたるキャリアアップの道筋が明確となる。

転籍しやすく  労働者としての権利向上

第3に、労働者としての権利向上である。やむを得ない事情がある場合に勤務先を変える範囲を拡大・明確化するとともに、手続きが柔軟化される。自国の労働者よりも弱い立場にある外国人労働者は人権侵害に直面するリスクが高いといわれている。職場で暴力を受けるなど、やむを得ない事情が発生したときに、別の企業に転籍させることは人権保護を図るうえで最も重要なことであろう。

これに加え、育成就労では、1~2年の就労後、一定水準以上の技能試験と日本語の試験に合格するほか、転籍先の適正性に係る一定の要件を満たせば、同一の業務区分内において、「本人意向」の転籍が可能となる。技能実習にはなかった措置だ。転籍については、外国人技能実習機構を改組した外国人育成就労機構が、あっせん機能を担うことが示され、同機構の主導の下に、後述の監理支援機関、ハローワーク等とも連携して、転籍支援を行う仕組みとなる。

外国人を雇用する事業所にとって懸案となる転籍に伴う補償については、転籍先の企業が転籍前の企業に対して適切な補償を行うことが検討されている。なお、当分の間は、民間の職業紹介事業者の関与は認められない。悪質なブローカーを排除するため、不法就労助長罪の法定刑が従来の懲役3年以下または罰金300万円以下から、懲役5年以下または罰金500万円以下に引き上げられた。

就労計画に認定制

第4に、技能実習計画に代わる人材育成プログラムである「育成就労計画」の認定制の導入である。認定には、業務内容、技能、日本語能力などの目標や内容が基準に適合していることが必要となる。また、転籍には、新たな育成就労計画の認定が必要となり、転籍先事業所の適正性などの一定の要件を満たした場合にのみ認められる。

第5に、監理団体に代わる「監理支援機関」の設置である。監理団体は、外国人を技能実習生として受け入れる企業と技能実習生に対し、支援や監査を行う非営利法人だが、独立性・中立性の不備や、職員体制の不十分さなどの問題点が指摘されてきた。新たな監理支援機関になるためには、外部監査人の設置、受け入れ企業数に応じた職員の配置など、育成就労の新たな許可要件に基づき、許可を得ることが必要となる。機能を十分に果たせない機関は適切に排除することが明示されており、今後の省令によって定められる厳格化された許可要件に基づき審査が行われると考えられる。

第6に、送出国・送出機関についてである。原則として日本との2国間取決(MOC、協力覚書)作成国からのみ受け入れを行い、悪質な送出機関の排除に向けた取り組みを行うほか、送出機関の手数料の透明化を図り、育成就労⽣が不当に高額な手数料を支払うことがないように、手数料の金額の基準を合理的なものにする措置を盛り込むこととしている。

技能実習と育成就労の主な相違点

技能実習

目的 人材育成による国際貢献
期間 上限5年で帰国が原則
受け入れ職種 特定技能の分野と一致しない職種・作業も
監督・サポート団体 「監理団体」。職員体制が不十分、受け入れ企業と関係が密接な場合も
来日時の手数料 手数料が不当に高額な場合も
日本語 原則なし(介護は能力試験N4レベルの基本的な力)

育成就労

目的 人材の確保と育成
期間 原則3年。即戦力の特定技能に移行して中長期に働くことを目指す
受け入れ職種 特定技能と原則同じ。スムーズに移行できる
監督・サポート団体 「監理支援機関」。企業数に応じた職員の配置、外部監査人を必須化し、独立性・中立性を担保
来日時の手数料 手数料の額が適正であることを受け入れ要件に
日本語 能力試験N5またはA1レベルの基礎的な力または同等の講習

外国人労働者の確保に向けて―育成・定着支援がカギ

政府は、法改正に関し、国際的な人材獲得競争の中で、日本が「選ばれる国」となることを目指すとしている。それでは、今回の法改正により、日本がより魅力的な国となり、中長期的にわたり優秀な人材を確保するために、外国人を受け入れる関係者あるいは地域社会には、どのような対応が求められるのだろうか。私たちの研究チームが2022年10月から23年3月に技能実習・特定技能の外国人に実施した、アンケートの結果から得られた知見から検討してみよう。

第1に、特定技能外国人の生活の利便性と給与の満足感を調査した結果である。育成就労では、同じ職場で1~2年就労し、日本語のレベルなど一定の要件を満たせば、自分の意向で転籍が可能となる。「権利の保障」と「人材の確保」をいかにバランスさせるかは、今回の制度見直しに当たっての争点となった事項ではあるが、受け入れた外国人を中長期にわたりどう定着させられるかは、特に企業にとって頭の痛い課題といえよう。

特定技能外国人は都市部以外で満足度高く

この懸念を裏付けるのが、現在も転籍可能な特定技能の外国人に対する出入国在留管理庁調べのデータだ。技能実習から特定技能1号に移行した外国人のうち39%が1カ月以内に都道府県をまたいで移動し、関東や関西、愛知県は転入超過となる一方、北海道・東北・中国・九州地方では全道県で転出超過となるなど、大都市に集中する傾向があることが指摘されている。

一方、私たちの研究チームによる特定技能外国人を対象にしたアンケートでは、「生活の利便性」「給与の満足感」について、「とても満足している」との回答は「都市部」よりも「都市部以外」の方が高いという結果が得られた。自分で勤務地が選べる特定技能外国人の利便性と給与の満足感が都市部で高くならないのは、なぜなのか。転籍した先の都市部での生活費の高さや地方での監理団体や実習実施者(受け入れ企業)あるいは地域の自治体による充実した生活サポートや人的な交流を評価していると考えられる。

外国人労働者の満足度(とても満足している)

また、仕事と生活の満足感は、在留期間とは関係がなく、日本語能力が高い人ほど高まる。これらを考えると地域で暮らす外国人への生活サポートや日本語教育の実施が、外国人労働者の確保と定着に効果的であると考えられる(※1)

外国人労働者の定着に向けては、外国人と日本人が共に活躍できる職場づくり、地域社会づくりを進めることが必要であり、多文化社会づくりを通じて、職場や地域の魅力を高め、余暇や休日の充実、生活の質を向上させることが大切となるといえよう。

キャリア形成や公正な評価が左右

第2に、人材育成についてである。私たちの調査では、97%の技能実習・特定技能の外国人が、明確な目的をもって来日していると答えた。具体的な来日の目的(3つまで選択)は、回答数が多い順に、「技能・技術を学ぶ」「母国の家族のためにお金を稼ぐ」「日本語を学ぶ」であった。つまり、家族への送金と同じかそれ以上に、日本での就労を通じて主体的に技能や日本語を学びたいと考えていることが明らかになっている。

また、上司の指導と仕事への満足感との関係についても、興味深い関係が観察された。指導を効果的と感じている場合は、仕事の満足感も高い傾向がある。ほかにも、「正当な評価を得ている」「他の従業員と比較して評価が公正だ」と感じている場合、仕事の満足感は高い。ここまでの結果から、指揮命令に一方的に従うことを求めたりするような職場や成長機会の実感に乏しい仕事では、仕事の満足感は高まらないことが示唆されている。経営者や管理職は、外国人労働者の技能や意欲を高められるように、仕事の割り振りを考える必要がある。そして日々接する中で、技能やキャリアの展望についても話し合い、知っておくことの重要さが指摘されている(※2)

育成就労・特定技能の下で、中長期にわたり、より優秀な外国人労働者を雇用し、その定着を促すためには、キャリア形成を支援し、仕事の満足感を高めていくことが求められている。それが生活の満足感にもつながり、魅力的な選ばれる国・地域・職場づくりにつながる。それを実践する民間の取り組みと国・自治体による政策的な支援が求められているといえよう。

バナー写真:外国人の働く環境は改善されるのか。「選ばれる国」を目指して外国人労働者の受け入れ制度改正が行われた(PIXTA)

(※1) ^ 万城目正雄(2024)「アンケート調査結果からみる外国人材の生活や仕事の満足感」国際人材協力機構『かけはし』Vol.157、pp.8-9

(※2) ^ 橋本由紀(2024)「アンケート調査結果からみる高い満足感につながる仕事と人間関係」国際人材協力機構『かけはし』Vol.158、pp.8-9

外国人労働者 少子高齢化 技能実習 人口減少 育成就労