「防衛装備移転三原則」見直し:装備品輸出を重要な安保外交ツールに転換

政治・外交 安保・防衛

防衛装備品の輸出、他国への供与などを規定する防衛装備移転三原則が改正され、国産の地対空ミサイル「パトリオット」が米国に輸出される方針だ。背景にはアジアの安全保障環境の大きな変化に加え、ウクライナ戦争という切迫した問題がある。

「パトリオット」を米国に

2023年12月22日に岸田政権は、従来の武器輸出三原則等と例外規定を整理統合する形で14年に規定された防衛装備移転三原則を改正(以下新三原則)した。改正後の運用指針の主な変更点は

  • 外国の技術を導入し、国内で製造する「ライセンス生産」の装備品について、完成品も含めてライセンス元の国に輸出可能とし、そこから第3国に輸出することも可能にする。
  • 「救難」「輸送」「警戒」「監視」「掃海」という、いわゆる「5類型」にあてはまっていれば、殺傷能力のある武器を搭載していても輸出を可能に。
  • これまでウクライナに限られていた防弾チョッキなどの装備品について、国際法違反などの侵略を受けている国には輸出を可能にする。
  • 他国と共同開発した装備品については、維持整備の部品については第三国への輸出も可能にする。

などとなっている。

最も大きな変更は、これまで米国に対して部品のみ認めていたライセンス生産の装備品が、完成品も輸出できるとしたことだ。これにより、政府はさっそく地対空ミサイルシステム「パトリオット」を米国に輸出する方針を決めた。米国は、ウクライナへの支援によって自国の迎撃ミサイルが不足しているなどとして、日本に要請していた。

改正内容の主要な部分は、2023年4月より自民党と公明党の与党国家安全保障戦略等に関する検討ワーキングチーム(以下与党WT)で議論され、12月13日に発表された「防衛装備移転に係る提言」に基づくものである。新三原則では、与党WTの提言のうち結論を先送りした部分もあり、その意味で現時点の改正は、大きな政策変更のプロセスの一部と理解すべきである(先送りした内容の一つは、共同生産品の第三国移転である)。

「規制」から「活用」へ転換

今回改正にあたり、与党WT提言の前文では、防衛装備品の海外への移転を、「望ましい安全保障環境の創出」と「国際法に違反する侵略や武力の行使又は武力による威嚇を受けている国への支援等」のための重要な政策手段と規定している。そしてこの表現は、改正三原則でも用いられている。

また、改正三原則と2014年の三原則を比較すると、防衛装備の海外移転の目的として「国際的な平和と安全の維持の一層積極的な推進」、「同盟国である米国及びそれ以外の諸国との安全保障・防衛分野における協力の強化に資する」、「我が国の防衛生産・技術基盤の維持・強化、ひいては我が国の防衛力の向上」の3点は同じだが、新三原則では新たに「地域における抑止力の向上」が加えられている。通常兵器関連の防衛装備移転がどのように抑止力の向上に貢献するかは必ずしも明確ではなく、その効果が発揮されるとすれば何段階かのプロセスを想定しなければならないが、政策目標の一つである「望ましい安全保障環境の創出」と併せて解釈するとすれば、日本は防衛装備移転を安全保障目的に活用するという方針を打ち出したと理解するのが自然である。

激変する安全保障環境に対応

2014年に防衛装備移転三原則が規定される以前から、日本は「平和国家としての基本理念及びこれまでの平和国家としての歩み」を堅持する方針を掲げており、今後新三原則で安全保障目的での防衛装備移転を政策的に活用する方針を打ち出したとしても、その抑制的な姿勢は基本的に維持されるだろう。実際に、防衛装備移転の緩和方針に転じたものと評価された14年の三原則規定以降も、政府と企業双方が防衛装備移転に対して積極的な姿勢に転じることはなく、実績としては日米間での部品の移転や共同開発と生産、そして一部の東南アジア諸国への非殺傷兵器の移転が実施されたのみとなった。

この事実は、日本の防衛装備移転政策が大胆に変化することを期待した多くの論者を当時失望させた。しかし、この10年ほどで環境は大きく変化し、ウクライナ戦争におけるウクライナ支援(移転を可能にするために、運用指針が改定された)、22年の国家防衛戦略の策定、そして国際的な防衛装備開発のトレンドの変化などにより、14年の三原則のままでは多くの面で日本の安全保障政策の推進に困難をきたすと認識されるようになっていった。

まず、ウクライナ支援をめぐる問題では、国際的な武器弾薬の支援体制の意義が改めて認識されることになった。戦時における武器弾薬の補給体制を確実にするためには、まず平時の貯蔵を増大させる方策がある。ただし、貯蔵量を増加させても、戦時に十分に供給可能かどうかは不明である。もし戦争等が発生せず、武器弾薬の消費がなければ、貯蔵されたものは最終的に使用されることなく破棄されることになる。次に、製造能力を維持し、有事に増産する方策も考えられる。この方策では、製造能力の維持にコストをかけることになるが、商業化された防衛産業が、採算性の低い製造能力を維持するインセンティブは低い。

したがって、ウクライナ支援の際に見られたように、必要時に武器弾薬を融通する国際的な体制を同盟国と有志国との間で構築し、コストを分散することが効率的と考えられるようになった。この方策では、本国で製造中止になった旧式の武器弾薬のライセンスを取得して製造し続けている国からの供給に依存することも含まれる。さらに、戦時の兵站(へいたん)体制の問題を考えると、武器弾薬が必要となる地域に向けて、その一番近い生産拠点から移転するというのも合理的になる。

新三原則決定後、まずパトリオットミサイルのライセンスバックが実施された背景には、インド太平洋地域の同盟国や友好国との共同作戦能力を強化する米陸軍や海兵隊の戦略の変化がある。この戦略は、相手側のミサイルの射程圏内で作戦を展開することが前提になるので、その展開する部隊に必要な防衛手段は、可能な限り域内で調達した方が作戦効率を高めることができる。そして、日米安保体制や、現在米国が進める太平洋抑止戦略のもとでは、地域の平和と安全を守るために行動する米軍を日本が支えるのは当然のこととなる。

同盟国・同志国との協力・連携を重視

2022年12月の国家防衛戦略の改訂も、三原則の改正を推進した。国家防衛戦略では、防衛生産・技術基盤を「防衛力そのもの」と位置付け、「新たな戦い方に必要な力強く持続可能な防衛産業の構築、さまざまなリスクへの対処、販路の拡大等」に取り組むと規定した。特に防衛装備移転では、後に新三原則で規定されることになる政策目標の推進が必要とされた。国家防衛戦略では同時に防衛技術基盤の強化を掲げ、「(防衛関連)企業が有する装備品特有の技術や社内研究成果、さらには、非防衛産業から取り込んで装備品に活用できる技術を早期装備化に繋げていくための取組を積極的に推進」としている。

これは、防衛装備開発において、広範な技術基盤を活用する方針と理解できる。防衛戦略では、防衛産業・技術基盤の国家性を重視しつつ、同盟国・同志国等との協力・連携及び「スタートアップ企業や国内の研究機関・学術界等の民生先端技術を積極活用」する意義を強調している。

23年12月の新三原則では、これら日本国内の防衛戦略の変化を踏まえ、防衛産業・技術基盤を広範に規定し、それらパートナーとの間の防衛装備及び技術の移転の円滑化を進めている。実はこれは、2024年1月に米国が発表した防衛産業戦略との適合が見られる点でもある。米国の防衛産業政策では、米国の防衛産業の国内供給能力の不足を指摘し、同盟国の産業資産の協力を広範に活用する必要が述べられている。また、兵器製造の際に求められる最先端技術は、米国のみが独占しているものではないことは、90年代より指摘され続けられているものである。

米国以外の国へのライセンスバックを可能にしたこと、同志国等によるインド太平洋地域への関与機会の拡大(艦艇・航空機等のインド太平洋地域への展開や日本周辺における共同訓練・演習機会の増加)を受け、やはり従来は米国のみが対象であった民間事業者が行う修理等の役務提供を米国以外に拡大したことなどがこれにあたる。

残された課題

前述したように、新三原則は「未完の措置」であり、今後は与党WTの提言の中で今回積み残しされた論点が議論されることになる。議論の根本には、防衛装備移転を安全保障政策上のツールとして活用し、特に地域の抑止力強化を目標の一つとして掲げながら、移転に対して抑制的な措置を維持する意義をめぐる問題がある。

確かに日本国内には、日本製の武器が戦争などで殺傷手段として利用されることに対する嫌悪感がある。したがって、日英伊の三カ国による次期戦闘機共同開発協力(GCAP)のような国際的的な枠組みで製造される武器が、第三国移転されて目的外使用されることに拒絶反応を示す国民が存在するのも自然な感情なのだろう。この面から「移転可能な武器を5類型以外のものに拡大すべきかどうか」、「共同開発・生産の第三国移転を、パートナー国の武器移転政策のもとで許容すべきかどうか」が、大きな課題として残ったのである。ただ、GCAPによる共同開発・生産の路線を選択した以上、国際社会の防衛生産の現実を踏まえ、政策を最適化する必要がある。

新三原則では「移転を認め得る場合」の審査項目、審議プロセスをより厳格化した。このような手続き重視することからも、日本は防衛装備移転を安全保障政策として活用する政治判断に基づいて、防衛装備移転に対してより能動的に取り組む政策を採用する制度面での条件が整っていると感じる。この先に、政策目標を実現する上での方向性(政策)を明確にする必要が出てくるだろう。特に、防衛装備移転の制度と目標が明確になった今、政権の、あるいは政党が目指す政策の中で防衛装備移転をどのように活用するかという点に関する政策の表明が求められるようになっていくのではないだろうか。

バナー写真: 訓練で公開された航空自衛隊の地上配備型迎撃ミサイルパトリオットの改良型「PAC3MSE」=2021年10月、神奈川県横須賀市の防衛大学校(時事)

安全保障 軍事 武器移転