台湾国会議長に親中派:次期総統に二重の足かせ

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台湾の国会にあたる立法院の新院長(議長)に「対中融和」を掲げる最大野党・国民党の韓国瑜(かん・こくゆ)氏が選出された。先の立法委員(国会議員)選挙で与党・民進党が第1党の座を失ったことによるものだ。16年ぶりの「ねじれ国会」に加え、対中国観の異なる議長が誕生したことで、5月に就任する民進党の頼清徳(らい・せいとく)次期総統にとっては二重の足かせになりそうだ。

少数与党に転落

台湾で1月13日に行われた総統選では、蔡英文現総統の直系を自認する頼清徳副総統が勝利を飾り、民進党が初めて3期連続して政権を担うことになった。しかし、同日行われた立法委員選では、民進党がこれまでの過半数を維持できず、国民党が第1党に返り咲く波乱が起きた。

台湾で「ねじれ国会」となるのは、2000~08年の陳水扁政権以来のことだ。これを受けて2月1日に行われた立法院長選では、定数113のうち52議席を得た国民党の韓国瑜氏が、民進党(51議席)の游錫堃前院長を破って当選し、副議長も国民党から選ばれた。

民進党は前回(2020年)、前々回(16年)の立法委員選では、単独過半数を確保して総統府と国会の両方を支配し、蔡氏にとって盤石な政権運営を支えてきた。それなのに、今回は改選前の62議席を大きく減らしたばかりか、過半数(57議席)にも届かなかった。少数与党に転落した要因として、3期12年となる長期政権化に対する漠然とした不安に加えて、経済・社会面の課題も取り沙汰されている。

とりわけ蔡政権下でマクロ経済面では成長したにもかかわらず、若い世代の間では「物価や不動産価格は高騰しているのに、賃金が増えない」といった不満が高まっていた。貧富の所得格差や与党の腐敗を巡る若者たちの不満を取り込んだ第3党の民衆党が終盤で勢いを盛り返したことも響いたとされ、「長期政権のおごり」を指摘する報道(※1)もある。

外交・安保に「悪夢の再来」?

新議長となった韓氏は、一貫して「中国との交流促進」を掲げる対中融和派で知られる。高雄市長を務めた時代には、中国の芸術団体を招待して無料公演を開くなどして「中国の台湾統一工作に加担した」と批判されたこともある。

中国に対して毅然とした「現状維持」路線を掲げる親米・親日の頼氏とは対照的な違いがある。中でも、ねじれ国会の再来で最も懸念されるのが、対中政策を柱とする外交・安全保障分野となることは言うまでもない。

実際、民進党が一貫して少数与党だった16年前までの陳水扁政権時代には、米国製の潜水艦購入を盛り込んだ国防予算案が国民党の反対によって69回も国会で否決されている。この結果、中国の海洋進出に対抗するための米国製潜水艦導入計画は10年以上も遅れた。この間に中台の海軍力の格差はさらに拡大し、米国が業を煮やしたために一時は米台関係も険悪な状態に陥ってしまったという。

次期総統の頼氏は、現政権が進めてきた規定路線に従って自衛力を高め、米国から安定した武器購入を進めたいところだが、ねじれ国会の下でこれらに不可欠な予算案の審議が紛糾したり、立ち往生したりすれば、「悪夢の再来」としかいいようがない。

立法院長の職務は、与野党の対立法案や予算案を合意へ向けて仲裁するほか、対外的に議員外交の窓口役も務める。重要法案の取り扱いだけでなく、議員外交においても「対中融和」のカラーを出しすぎれば、政権の姿勢や路線とちぐはぐな対外メッセージを送ることになりかねない。

鍵握る第3党

加えて、今回の立法委員選挙では国民党も民進党も過半数を確保できなかったため、第3党の民衆党が8議席を獲得して国会のキャスチングボートを握ることになった。同党の柯文哲主席は、日米韓などとの「連携・協調」を掲げる民進党と、「対中融和」の国民党の間を志向する中間路線とみられるが、立法院長選ではあえて棄権の道を選び、間接的に国民党の正副議長選出に手を貸している(※2)。自党の存在感を高めることによって、4年後の次期総統選に再チャレンジする野心もうかがわせており、今後の出方は不透明だ。

このため、国会では民衆党を交えた三つどもえの党利党略が交錯することが予想される。ねじれ国会の下で頼氏の政権運営と国会対策は、一層複雑で神経質な配慮を欠かせないものとなりそうだ。

中国が付け入る隙にも

国際社会では近年、中国の習近平政権が武力統一に踏み切る「2027年危機」説が懸念を高めており、台湾を取り巻く安全保障環境は16年前よりもはるかに緊迫している。ただ、対中融和の度合いで違いはあっても、民進党、国民党、民衆党の基本姿勢が「現状維持」で一致していることも事実だ。

大切なことは、「現状維持」政策の重要性を常に再確認しつつ、台湾の民主主義と台湾海峡の平和と安定を堅持していくことにある。この点を各党の指導者は忘れてはなるまい。

頼清徳氏を「台湾独立工作者」とみなす中国は、次期政権を敵対視し、これまで以上に軍事的威嚇や圧力を加えるとともに、各党の思惑の乱れに乗じて台湾政治の内部分裂を狙った工作を進めてくるのは確実だ。頼氏が「弱い総統」と化して外交・安保に必要な政策を実行できなくなったら、その時こそ「台湾危機」となる。民主主義に政争はつきものとはいえ、党利党略が行き過ぎては「現状維持」は危うい。

「台湾有事は日本有事」でもあり、日本や米国は台湾との緊密な対話を通じて、中国に付け入る隙を与えないようにすべきである。

バナー写真:台湾立法院の議長に選出され、国民党議員らとともに喜ぶ韓国瑜氏(中央)=2024年2月1日(AFP=時事)

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