日英伊の次期戦闘機開発、大きく前進するも第三国輸出で次なる課題

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日英伊が共同開発している次期戦闘機の2035年の配備を目指し、3カ国が昨年12月、政府間機関を設立する条約に署名した。自民・公明両党は、1月にも実務者協議を再開させる方向で進んでいたが、国際共同開発する装備品の第三国輸出を巡って公明党の山口那津男代表が「説明がほとんどない」と、政府の姿勢に苦言を呈するなど、調整は難航している。

本格化する開発計画

「第二次世界大戦以来、最も厳しく複雑な安全保障環境に直面する中、抑止力を強化し、日英伊3カ国が優れた技術を持ち寄る歴史的プログラムだ」

2023年12月14日、東京の防衛省。新型次期戦闘機の共同開発を巡り、木原稔防衛相は、英国のシャップス国防相、イタリアのクロゼット国防相と3カ国による開発の司令塔となる政府間機関「GIGO(ジャイゴ)」を設立する国際条約を結んだ後、高らかに宣言した。

日本が同盟国である米国以外の同志国と協力して、主要装備品を開発するのは初めてだ。日英が進めていた次世代戦闘機開発計画を統合し、イタリアを加えた3カ国が初の大規模な防衛協力体制を確立してから1年。開発は2035年までの配備を目指し、25年からの着手に向けて大きく前進、計画はいよいよ本格化する。

NATOのスタンダード機になる可能性も

日英伊政府の国際機関と3カ国の共同企業体(JV)が結成され、いずれも本部を英国に置き、26年度中に発足させる。国際機関の初代トップは日本人が就任し、JVのリーダーはイタリアから任命される。

英国の発表では、最先端技術を統合することにより、世界中で最も洗練され、適応性と相互運用性がある戦闘機の一つになると期待されている。高度なセンサーを備え、無人飛行や極超音速兵器の搭載が可能な次世代の人工知能(AI)技術による超音速ステルス戦闘機となる。既存システムの1万倍のデータを収集できるレーダーを装備し、紛争中の敵に対して有利な戦術が働くという。航空自衛隊はF2戦闘機約90機の後継とし、英国とイタリアは、それぞれ144機と94機の主力戦闘機「ユーロファイター」の代わりとして使用する。

欧州の同志国と初めて取り組む次期戦闘機の共同開発は、日本の防衛にとって極めて重要である。英伊両国は北大西洋条約機構(NATO)の主要構成国で、計画にはサウジアラビア、スウェーデンなども関心を示している。英タイムズ紙によると、日英伊とは別に次期戦闘機を独自に開発協力しているフランス、ドイツ、スペインのうち、ドイツが日英伊の開発に興味を持っている。次期戦闘機は英伊に加え、他のNATO諸国の空軍機にも採用される可能性があり、将来、NATOの中心機にもなり得る。

英国のシャップス国防相(右)、イタリアのクロセット国防相(左)と握手する木原稔防衛相=2023年12月14日、東京都新宿区の防衛省で(時事)
英国のシャップス国防相(右)、イタリアのクロセット国防相(左)と握手する木原稔防衛相=2023年12月14日、東京都新宿区の防衛省で(時事)

日英伊3カ国は、ともに同盟国や同志国との協調作戦に使用する計画で、米軍やNATOとの相互運用性を念頭に製造する。製造や開発、性能向上に日本が関わる戦闘機が、世界最大の軍事同盟であるNATOの主要装備になれば、近年急速に親密化する日本とNATOの安全保障関係は一段と深まり、日本の抑止力、外交力を強化する。日本は開発や輸出を通じ、英伊はじめ欧州同志国と安全保障協力を深め、中露など権威主義国による一方的な現状変更を抑止し、世界の平和と安定に寄与すべきだ。

英国政府の発表によると、イタリアのレオナルド、三菱重工業、英国のBAEシステムズを含む各国の産業界は、3国間協力を強固にするとして条約締結を歓迎した。次期戦闘機開発は、経済効果も期待される。研究開発への投資を誘致し、次世代の熟練エンジニアや技術者の機会を育むことができる。開発には、全世界で約9000人が従事し、部品調達を含めれば、日本の1000社以上が関わる見通しだ。専門人材を育て、技術革新や国内の防衛産業の底上げで、日本の経済力向上にもつなげたい。

40年先まで「離婚」できない日本と英国

「短い恋愛ではなく結婚する。40年のプログラムで後戻りはできない」

2023年3月、訪日した英国のウォレス前国防相は、語気を強めた。同年1月、自衛隊と共同訓練をしやすくする円滑化協定に署名した英国と次期戦闘機の共同開発で、40年先まで続く結束を打ち出したのだ。

外交政策で、インド太平洋への「傾斜」を発表している英国にとって、次期戦闘機共同開発と日本との同盟は、この地域における中国の影響力増大への対抗策である。条約署名を受けて英国のスナク首相は「欧州大西洋地域とインド太平洋地域の安全が不可分であることを示している」と述べた。シャップス国防相も「欧州からインド太平洋に至るリスクと問題は誰の目にも明らか。安全をもたらすため、国家を超えて団結することが非常に重要」と力を込めた。英国は、次期戦闘機共同開発を新・日英同盟の中核と捉えている。

グローバル・サウスにおける米国の影響力の低下に加え、ロシアのウクライナ侵攻と中国の軍事力の急速な強化など安全保障環境が激変する中、次期戦闘機の共同開発で、自由、民主主義、人権、法の支配などの共通の価値観を持つ先進7カ国(G7)加盟国である英伊と日本が安全保障協力を強化する戦略的意義があることを示している。重要なのは日本の同盟国である米国が歓迎していることだ。

米国防総省は日本の防衛省との共同声明で、「英国やイタリアを含む志を同じくする同盟国やパートナーとの日本の安全保障・防衛協力を支持する」と述べるなど、NATO加盟と日米安保協定を通じ、3カ国の防衛を後押しする姿勢を強調した。

公明党の反対は中国への配慮?

一方で課題も浮き彫りとなった。条約には次期戦闘機を第三国へ輸出する可能性が重要だと明記された。英伊は第三国輸出を予定している。開発に数兆円の費用がかかるため、戦闘機を量産し、輸出でコストを低減する狙いから、欧州、中東、東南アジアへの輸出が検討されている。そうなると、輸出先国との安保関係を堅固にするメリットも大きい。

しかし、日本は自ら、第三国輸出の道を閉ざしている。与党協議で公明党が輸出緩和にいったんは合意しながらブレーキをかけたからだ。このままでは日本は開発の主導権を握れず、国益を損なう。3カ国の同意がなければ輸出しにくくなり、輸出が制限されれば、英伊の国益も守られない恐れがある。公明党が2023年12月、態度を硬化させた背景には、直前の11月末、山口那津男代表の訪中が関係しているのではないかとの見方がある。親中派の公明党が中国に配慮して国際開発を凍結させたとなれば、由々しき問題である。

条約署名後の会見でシャップス国防相は「欧州やインド太平洋のリスクは明白だ。国際社会の中での日本の立ち位置を考えると、見直す時期が来ている」と、第三国輸出に足踏みする日本に苦言を呈した。

政府は与党に、国際共同開発した装備品の第三国輸出緩和を2月末までに結論を出すよう求めた。友好国への主要装備の輸出は仲間の国を増やし、望ましい安保環境の創出に寄与する。公明党はグローバルな視点に立って現実的な平和主義に転じ、輸出緩和に同意して国益を守ってほしい。

バナー写真:日英伊が共同開発する次期戦闘機のイメージ図(AFP=時事)

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