今も残る「政治とカネ」のグレーゾーン:「透明化」と「公私峻別」徹底する抜本改革を

政治・外交

派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件で、自民党は大揺れだ。5年間の不記載総額が9億円以上にのぼり、立件に至らなかったとはいえ、90人以上の国会議員が関与していた。この「構造的な腐敗」を正す、改革の方向性を考える。

派閥パーティー収入の一部が闇に

政治資金パーティーを巡る裏金事件は、東京地検特捜部が昨年12月、自民党の安倍派、二階派の事務所を家宅捜索して公になった。地検はことし1月19日には政治資金規正法違反の虚偽記載の罪で両派の会計責任者を在宅起訴する。起訴事実は、2022年までの5年間で、安倍派は合わせて6億7000万円余り、二階派は合わせて2億6460万円のパーティー収入などを派閥の政治資金収支報告書に記載していなかったことだ。総裁派閥の岸田派についても、20年までの3年間で、合わせて3000万円余りのパーティー収入などを派閥の政治資金収支報告書に収入として記載していなかったとして、元会計責任者を略式起訴した。

議員については、5000万円を超えるキックバック(還流)を受けたとされる池田佳隆衆院議員を政治資金規正法違反の虚偽記載の罪で起訴、大野泰正参院議員と谷川弥一衆院議員の2人を略式起訴した一方、派閥の幹部議員については立件を見送った。

政治資金の取り扱いについては、その収入の額と出元、支出の額と使途を記載した収支報告書を作成することが法律で定められている。安倍派、二階派の今回の行動は、パーティー収入の一部を「なかったもの」として処理し、裏金化したと言われても仕方がない。還流分は、政治資金と言えるかどうかさえあいまいで、個人的な交際費・遊興費として使ってしまうことも実際は可能だからだ。

これらの捜査が「派閥」という場で行われていたことで、国民の多くは「政治とカネ」を巡る問題を、改めて深刻な不正として受け止めた。自民党の6つある派閥のうち、4派閥が解散を決めるなど党内は大揺れとなっている。自民党の場合、派閥が「準政党」のようになり、メンバーの“人事とカネの面倒を見る”システムが今回、強い批判を浴びた。

一方、「なぜこのようなことが起きたのか」という問いの答えを議員個人や特定派閥の問題だけに求めるのは不十分である。これは、政治資金、選挙制度全般にかかわる法制度の不備・歪みという問題が根本にあるとみるべきだ。とりわけ、日本の政治家が常に「法的グレーゾーン」の中で政治資金を扱っているという構造的な問題を議論する必要がある。

1994年「政治改革」とその後:積み残された課題

「政治とカネ」を巡っては、日本ではリクルート事件(1988年)、東京佐川急便事件(92年)などを経て「金権政治」への批判が高まり、93年に細川(護熙)内閣が誕生。自民党は結党以降初めて下野し、55年体制が終わった。94年には公職選挙法と政治資金規正法の改正、政党助成法の制定など、一連の政治改革が実現した。

選挙制度では衆議院の中選挙区制を廃止し、小選挙区比例代表並立制を導入した。また政党助成金制度が導入され、同じ党で派閥が違う政治家同士が争う構造から、より政党間の競争を重視する政治システムへの転換が図られた。

これらの改革は「政治とカネ」問題に関して一定程度効果を挙げた。例えば、総務省がまとめた政治資金総額(中央分)は、ピークであった1990年前後の時期には1700億円~1800億円であったが、その後徐々に減少、2022年では1058億円とほぼ半減している。衆院選の選挙違反検挙数も、1994年以降に大幅に減少した。データの解釈は慎重に行うべきだが、全体として日本の民主政治が55年体制下より「金権脱却」「選挙浄化」の方向に向かってきたのは事実だ。

一方で、現在の政治資金規正法、及び公職選挙法の選挙運動・選挙資金規制は仕組みが複雑で、グレーゾーンが多いままの状態にある。まず、収支報告を巡っては政治家個人の資金管理団体のほか、後援会や政党支部を使うことができ、政治家には「3つ以上の財布」があると言われている。さまざまな利益団体との金銭的関係には不透明な部分が残っている。支出についても同様だ。

また、税金から交付される政党助成金は総額で年間300億円以上にのぼる。それを原資とする、政党から党幹部など政治家個人に支出され、時に年数億円の規模となる「政策活動費」などは使途の公開が不要となっている。政党助成金という「公金」を受け取っている中、この運用は厳しく批判されるべきだ。国会議員に歳費外で月100万円が支給される旧文通費(調査研究広報滞在費)も、使途公開が実現しないままだ。このように、グレーな環境で政治家が活動を続ける限り、「政治とカネ」を巡る問題を一掃することは難しいだろう。

資金管理の一本化で「透明性確保」を

現行法の「穴」やグレーゾーンについては、これまでも折にふれて指摘されてきた。しかし、政治家は自らを縛る制度改正には腰が重いのが実情だ。今回のような大きな事件がないと、改革の機運は高まらない。制度改革に向け、何が必要か。ここでは、改革の基本目標と具体的な3つの改革の柱を提起しておきたい。

改革の基本目標として、政治資金の「透明性確保」と「公私峻別(しゅんべつ)の徹底化」を掲げたい。自由で活発な民主政治と政治参加を実現する上で、一定の政治資金が必要な事は明らかである。そして、アカデミックな国際比較の成果からみても、日本の民主政治にかかる費用は、欧州諸国より幾分大きいが米国の水準には及ばない。日本の問題はむしろ政治資金の流れが有権者に十分に明らかとなっていない点、特に公私の峻別が明確でない点にある。有権者の不信の中心もそこにあると考えるべきだ。

具体的な制度改革としては、第1に、政治家に「3つの財布」を与えている現行制度を見直し、「政治会計団体」に一本化すべきだ。これが政治資金透明化の不可欠の前提となる。政党、派閥、政治家(議員と候補者)が扱う資金の収入と支出を公開するという当たり前の仕組みだ。また、公職選挙法に関わる選挙資金と、規正法が関わる政治資金の統合管理を新たに導入すべきだ。双方を区別するのは元来意味がないことに加え、現行の公選法上の選挙資金や選挙運動規制は戦前の弾圧法規の痕跡が残る非現実的で欺瞞(ぎまん)的なものである。非現実的で過度な規制は抜本的に自由化し、現状の脱法的状況を法律的に一掃、選挙運動の透明化を併せて実現すべきだ。

政治会計団体は振込口座を指定し、現金の授受を原則禁止する。収支報告書を電子化し、ネット公開を義務付けることも必要だ。

第2に、報告書で公開すべき範囲を大幅に広げ、政治資金の出し手を透明化する。現在の、政治献金5万円、パーティー券購入20万円という基準は透明度が低すぎる。少なくとも年間1万円以上の献金は全面公開すべきだ。

第3に、政治家が作成・提出する政治資金収支報告書を監査する第3者機関「政治資金委員会」を設立する。現在の総務省や選挙管理委員会は、政治資金や選挙資金の報告書の形式上のチェックしかできないし、民主政治原理の観点からみても総務省はそれ以上の役割をもつべきではない。新設の委員会は各種の報告書を恒常的にチェックし、関連書類の提出命令や訂正勧告、当選無効・公民権停止を求める行政訴訟を提起する権限を持つことにしたい。政治資金の不正を巡っては、刑事罰を限定化し、第3者機関が行政罰を要求する仕組みを導入するのが自由な民主政治のあり方であることも強調しておきたい。

「企業・団体献金の禁止」を腐敗防止の特効薬のようにみる主張もあるが、民主制各国の比較分析から得られる結論として、これは幻想といってよい。さまざまな利益集団が政党等に働きかけ、結果として具体的な政策が作られていくこと自体は、現代の民主制、政党政治の重要側面として否定されるべきではない。もちろん、資金の流れを含めその活動を有権者がチェックし、最終的に選挙で審判できる仕組みを整備し、さらに寄付の上限などの歯止めは社会の合意の下でルール化されていくことは必要だ。

逆に指摘しておきたいのは、日本は政党交付金など公的助成の額が多く、米国やドイツなどを上回って世界最大規模であるという点だ。この規模は縮小するのが好ましい。さらに、各政党が自ら集めた献金に対し、公的補助が同額以下になるレベルが原則だ。実際にドイツでは、政党の収入の半分を上回る規模の公的助成は憲法違反とする判決も出ている。

政治資金、選挙資金の「一体改革」「抜本改革」の実現に向けては、現在は休眠状態にある「選挙制度審議会」(首相の諮問機関)を活用すべきだ。対症療法を重ねていては政治不信を払しょくできない。改革の基本ラインについては、専門家の間で概ね合意がある。そして、それが実現できるならば、「政治とカネ」の問題について、民主制各国の標準以上の状況にまで達することが充分可能であることを強調しておきたい。第3者的な専門家による体系的・抜本的改革プランに耳を傾け、与野党合意で日本の民主政治のバージョン・アップを目指す気概が求められる。

バナー写真:自民党安倍派の臨時総会で頭を下げる塩谷立座長(奥中央)ら。この総会で安倍派は派閥解散を決めた=2024年1月19日、東京・永田町の同党本部(時事)

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