2024年の日本経済:コロナ禍から回復途上の1%成長か、「賃金と物価」が鍵

経済・ビジネス 仕事・労働 社会 政治・外交

新型コロナウイルス感染症は、2023年5月に感染症法上の位置付けが5類に移行し、社会経済活動は回復途上にある。実質国内総生産(GDP)は同年4-6月期にようやくコロナ禍前のピーク(19年7-9月期)を上回った。しかし、国内民間需要は、個人消費や設備投資を中心にコロナ禍前のピークを大きく下回っており、経済が正常化したとはまだ言い切れない。

実質賃金は年後半にプラス転換も

2024年の日本経済を見通す上で重要となるのは、物価と賃金の好循環が実現するかどうかだ。23年の春闘賃上げ率は3.6%(ベースアップは2%程度)と30年ぶりの高水準となった。しかし、消費者物価が日銀の物価目標である2%を上回る高い伸びが続いているため、名目賃金を消費者物価で割り引いた実質賃金は22年4月から1年半以上にわたって前年比でマイナスが続いている。

24年の春闘を取り巻く環境を確認すると、失業率は2%台半ばで推移し、労働需給は引き締まった状態が続いている。また、法人企業統計の経常利益は過去最高水準にあり、消費者物価上昇率は高止まりしている。賃上げの環境は引き続き良好と判断される。

連合は24年春闘の基本構想で、賃上げ要求水準を前年の「5%程度」から「5%以上」(定期昇給相当分を含む)へと若干引き上げた。また、自動車、電機などの産業別労働組合で構成される金属労協はベースアップの要求水準を23年の「6000円以上」から「10000円以上」へと大きく引き上げた。こうした状況を踏まえ、24年の春闘賃上げ率は4.0%と前年から0.4ポイント改善し、1992年以来の4%台になると予想する。

一方、消費者物価(生鮮食品を除く総合)は23年1月に前年比4.2%と約40年ぶりの高い伸びとなった後、政府の物価高対策の効果もあり、2月から8月までは3%台、9月以降は2%台まで伸びが鈍化した。

今回の物価高は円安、原油高に伴う原材料コストを企業が販売価格に転嫁することによって、食料品を中心にモノの価格が大きく上がったという特徴がある。しかし、物価高の主因となっていた輸入物価の上昇には歯止めが掛かっており、モノの価格の上昇率は徐々に鈍化する可能性が高い。

賃金との連動性が高いサービス価格はモノに比べて上昇が遅れていたが、賃上げ率が大きく高まったことを受けて、23年10月には前年比2.1%と同年のベースアップと同程度まで伸びが高まった。24年の春闘賃上げ率は前年を上回ることが見込まれるため、サービス価格は今後も安定的な伸びが続く公算が大きい。

消費者物価は当面2%台の伸びが続くが、モノの価格の上昇ペース鈍化を主因として2024年後半には1%台まで低下することが予想される。実質賃金上昇率はしばらくマイナスが続くものの、名目賃金の伸びが高まるなか、物価高が落ち着く2024年後半にはプラスに転じる可能性が高い。

賃金と物価(四半期ごとの推移)

足元の個人消費は物価高に伴う実質賃金の目減りを主因として伸び悩んでいるが、2024年後半には減税効果、実質賃金の上昇を背景に回復に向かうことが予想される。

経済対策の効果は限定的

政府は2023年11月、追加歳出13.1兆円の経済対策「デフレ完全脱却のための総合経済対策」を策定。実質GDPの押し上げ効果を年率1.2%程度(今後3年程度)と試算している。しかし、補正予算の規模は21年度から、前年度比で縮小が続いていること、補正予算が消化しきれない可能性が高いことを考慮すれば、この試算は過大と考えられる。実際、22年度に使いきれなかった予算額は29.3兆円(うち翌年度繰越額が18.0兆円、それ以外の「不用額」が11.3兆円)と非常に大きなものとなった。

一方、家計支援策として盛り込まれた所得・住民税減税、低所得者向け給付、電気・都市ガス・ガソリン・灯油などの物価高対策は、家計の実質可処分所得の押し上げに寄与すると見込まれる。筆者は家計支援策による実質可処分所得の押し上げ幅は23年度が5.2兆円(うち減税・給付金が2.2兆円、物価高対策が3.0兆円)、24年度が6.0兆円(うち減税・給付金が4.4兆円、物価高対策が1.6兆円)と試算している。

政府の家計支援策による実質可処分所得の押し上げ効果

ただし、賃上げのように恒常的と考えられる所得増と比べて、一時的な減税・給付金による消費押し上げ効果はそれほど大きくない。内閣府の検証では、過去の定額給付金や地域振興券による消費押し上げ効果は、給付額の20~30%程度とされている。今回の所得・住民税減税と低所得者向け給付を合わせると5兆円程度の規模となるが、個人消費の押し上げ効果は0.4%程度、GDP比で0.2%程度にとどまるだろう。

輸出は期待薄、内需中心の成長

日本の輸出を左右する海外経済は減速傾向が続く可能性が高い。米国経済は堅調な推移が続いてきたが、累積的な金融引き締めの影響から2024年前半には大幅な景気減速が避けられないだろう。また、中国経済は、ゼロコロナ政策の終了を受けて、23年の実質GDP成長率は前年の3%から5%台へ上昇すると見込まれるが、不動産市場の低迷もあり、24年には4%台へと鈍化するだろう。日本経済にとって、輸出が景気のけん引役となることは期待できない。

一方、個人消費は雇用所得環境の改善や社会経済活動の正常化を受けて、外食、旅行などのサービス消費を中心に回復し、設備投資は高水準の企業収益を背景に増加が続くだろう。日本経済は内需中心の成長が続くことが予想される。

波乱要因は、自民党の裏金問題が表面化したことで23年末から急速に流動化しつつある政局の動向だ。年明けの通常国会は紛糾が予想され、予算案や税制改正の審議に影響が出る可能性がある。さらに司令塔である政権の基盤が揺らげば、政策執行にも響く恐れもある。

24年の実質GDP成長率は1.0%と予想する。コロナ禍からの急速な落ち込みの後としては決して高い成長率とは言えないが、所得の伸びを伴った個人消費の増加が実現すれば、景気回復は実感しやすくなろう。そのためには、実質賃金の伸びがプラスとなることが不可欠であり、2024年の最大の注目点は物価、賃金動向ということになろう。

バナー写真:連合の芳野友子会長(左)と経団連の十倉雅和会長(右)=いずれも時事

政局 経済調査・分析 経済政策 経済見通し 賃金 物価高 春闘 実質賃金