韓国の出生率、「0.78の衝撃」:日本よりも少子化が深刻になった訳

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日韓ともに少子化が加速している。とりわけ韓国の合計特殊出生率は2022年まで7年連続で低下し、0.78(暫定値)まで落ち込んだ。同年に過去最低と並んだ日本(1.26)や経済協力開発機構(OECD)諸国平均(1.58=2020年)をも大きく下回る低水準だ。その背景を、ニッセイ基礎研究所の金明中(キム・ミョンジュン)主任研究員が解説する。

韓国版「一人っ子」政策

なぜ韓国では日本以上に少子化が深刻になってしまったのだろうか。

韓国では特に2015年以降、出生率が一段と低下している。これは、同年以降に出産した女性の多くが1980年代中盤以降生まれということと関係している。産児制限政策が80年代に、それまでの「2人産んでよく育てよう」から、「1人だけ産んでよく育てよう」に変わり、出生率低下につながったと考えられる。

日本と韓国における合計特殊出生率の推移

次に韓国における少子化の大きな原因として考えられるのが、若者を取り巻く経済状況が良くないことである。韓国ではまだ儒教的な考えが根強く残っており、日本と同じように結婚してから出産するケースが多い。しかし、若者の多くは安定的な仕事を得ておらず、なかなか結婚を選択できない立場に置かれている。

大企業の狭き門、若年失業や就職浪人も

2022年の15~29歳の若年層失業率は6.4%で、失業率全体(2.9%)の倍以上もあり、日本の若者の失業率(20~24歳4.8%、25~29歳3.8%)を大きく上回っている。

韓国で若者の失業率が高い背景には、大学進学者が多く、卒業後の就職における需要と供給のミスマッチが発生していることがある。サムスン電子や現代自動車などの大企業(一次労働市場)と中小企業(二次労働市場)の間の賃金格差は大きく、「労働市場の二極化」が進んでおり、労働条件の格差は日本以上に大きい。大企業という狭き門を巡り就職戦線は厳しさを増している。

大企業の従業員は相対的に高賃金、良好な労働環境、労働組合による保護などの点で恵まれている。一方、中小企業は賃金が低く、劣悪な労働環境や、労働者の権利を保護するために経営者と交渉する労働組合の不在というように、求職者にとって魅力が乏しい。そこで、多くの若者は「就職浪人」をしてまで大企業に入ろうとするが、採用されるのは一部の人に過ぎない。

これを裏付けるデータとして「拡張失業率」がある。これは、国が発表する失業者に、潜在失業者(就労を希望しつつも、さまざまな事情から求職活動をしていない失業者)や不完全就業者(労働時間が週18時間未満)を加味した失業率。15~29歳の拡張失業率は22年時点で19%に達している。

韓国における全体失業率、15~29歳失業率・拡張失業率の推移

大企業に入れなかった若者の多くは公務員試験へと流れるが、合格は容易ではない。志願倍率は年々下がっているものの、同年の国家公務員採用試験の倍率は、最下位(9級)級でも34.3倍に達した。

不動産価格の高騰も未婚化・晩婚化の一因だ。韓国では結婚前に男性側が家を用意する慣習があり、近年の不動産価格の高騰は男性にとって結婚のハードルを高め、婚姻件数の減少につながっている。最近は、韓国銀行(中央銀行)の急速な利上げでマンション価格は下落している半面、住宅ローン金利は上がっており、マイホームの夢は遠のいたままである。

あまりに重い教育費負担

教育費の負担感が重いことも、子育てをためらわせる要因だ。韓国では特に塾や習い事、プライベートレッスンといった学校外の教育(私的教育)費負担が大きい。小学生から高校生までの学外教育費は2021年には前年比21%増の23.4兆ウォン(2.6兆円)、全学生のうち学外教育を受けている人の割合も75.5%に達した。学生1人当たり1カ月平均教育費は48.5万ウォン(5.3万円)、高校生に限ると64.9万ウォン(7万円)となる。

この金額はあくまでも平均値であり、地域や所得階層間で大きな格差がある。特に、ソウル市の江南区、その中でも有名塾が集まっている大峙洞(テチドン)の実情は想像を絶する。例えば、有名塾に子供を通わせる場合、日本の内申書に当たる「学生生活記録簿」の“内申点”を上げるため、入試コーディネーターにアドバイスを頼むだけで年2000万ウォン(220万円)かかる。記録簿には高校1年から3年までの成績はもちろん、学内外の受賞歴、資格証の取得状況、語学試験の結果、課外活動、ボランティア活動、クラブ活動、進路希望などが書かれている。なぜ、ここまで大金をかけているのだろうか。

韓国の大学入試は大きく分けて「随時募集(日本の推薦入学に相当)」と「定時募集(日本のセンター試験に相当)」の2種類ある。随時募集は高校の学校生活記録簿、自己紹介書、教師推薦書、面接などが選考に反映されるのに対して、定時募集では大学修学能力試験(修能)の点数を中心に選考する。随時募集の割合は年々高くなり、2000年には3.4%に過ぎなかったのが、23年には78%に急拡大している。多くの大学が「修能」だけでは、問題を見つける能力、批判的思考、創意的思考や表現力を測ることが難しいと判断した結果だ。

親に見送られ試験会場に向かう受験生=ソウル(共同)
親に見送られ試験会場に向かう受験生=ソウル(共同)

ソウルの有名大学に入るには、生活記録簿が何より重要であり、親は有名塾に子供を通わせているのだ。塾のほかに科目ごとのプライベートレッスンを受けると、その費用は科目当たり1カ月に数十万ウォン以上に上る。

エデュプア

塾の授業が一斉に終わる時間帯には塾が密集している「ウンマ交差点」をはじめとした大峙洞(カンナムグ・テチドン)一帯の道路は駐車場と化す。母親たちが子どもたちを迎えるため車の中で待機しているからだ。子どもたちは帰宅してもすぐに寝ることはできない。復習や宿題が終わると就寝は夜中3時から4時…。銃声の聞こえない入試という「戦場」で子供たちは孤独に戦っている。

教育熱は高校生だけに限らない。多くの親が幼稚園時代から子供に学外教育を受けさせている。英語を基本言語として使う英語幼稚園の費用は1カ月150万ウォン(16万円)もする。小学生になると塾に通わせながらプライベートレッスンを受けさせる。すると子ども1人当たりの教育費は1カ月200万ウォン(22万円)~300万ウォン(33万円)もかかる。

あまりに重い教育費負担に苦しむ「教育貧困層」、いわゆる「エデュプア」(エデュケーションプアの略語)が存在している。これは、家計が赤字で借金をしているにもかかわらず、平均以上の教育費を支出し、貧困状態にある世帯を指す。韓国の民間シンクタンク、現代経済研究院の推計結果(2011年基準)によると、子育て世帯のうち、エデュプアは13%を占めた。調査から10年以上経った現在はより多くの世帯がエデュプアになっている可能性が高い。

日韓共同で課題解決を

韓国での少子化の進展は、労働力人口の減少や高齢化をもたらし、労働力供給の大きな減少につながる。企業経営にはマイナスの影響を及ぼすだろう。また、若者の減少で将来に備えた貯蓄層が減り、逆に過去の貯蓄を取り崩して生活する高齢者の割合が増えることで、社会全体の貯蓄や投資が減少する。新しいアイディアを持つ若い世代の減少や新規の設備投資の減少は、企業の生産性の停滞を招く。経済成長を鈍化させる要因になり、社会保障制度の持続可能性も弱まるだろう。

さらに、学生不足で多くの大学が廃校に追い込まれ、兵役に就ける若者自体が急速に減少し、現在の韓国軍の規模を維持するのは難しくなると考えられる。実際、2018年に約60万人だった軍は現在約50万人まで減少。北朝鮮と休戦状態にある韓国にとって、少子化は安全保障にも直結する大きな課題である。

韓国の国会立法調査処は14年8月に、13年の出生率(1.19)のまま少子化が改善されない場合、「韓国は2750年には消滅する」という推計結果を発表した。しかし、事態はその推計よりも深刻だ。このままだと韓国が地球上から消滅する日はより早まるだろう。

ここまで日本とは異なる韓国の少子化の特徴について説明した。しかしながら、両国では①晩婚化や未婚化の進行②賃金などで男女差別の存在―といった少子化をもたらす原因に共通点も多い。また、両国とも子育て世帯を中心とする育児政策だけではなく、若者の就労対策や公的住宅の拡大などで結婚の経済的負担が減るような支援も強化する必要があるのではないだろうか。

日韓関係の改善をきっかけに、両国における最優先課題とも言える少子化対策に共同で対処するのはどうだろうか。両国の未来のために共に知恵を絞りたいものだ。

バナー写真:ソウルの産科病院にて(Yonhap News Agency/共同通信イメージズ)

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