破綻する「習ノミクス」:投資バブル崩壊で日本の後追う

国際・海外 経済・ビジネス 政治・外交

経済に限れば、習近平(シー・ジンピン)政権の3期目には、暗雲が垂れこめる。過剰投資による「バブル」が崩れ、 金融危機の足音も近づく。中国経済が、バブル後の日本のように、長期停滞に迷い込む確率は高い。

改革開放の李克強vs統制の習近平

1期目の習政権が発足して日も浅い2013年6月、英国の投資銀行バークレイズ・キャピタルのリポートが「リ(李)コノミクス」という新語を披露した。李克強(リー・クーチアン)首相が主導 する構造改革志向の経済政策を指したのだが、新語は定着しなかった。

リポートの書き手は、経済学博士号を持つ李首相が、経済運営を任されるはず、と早とちりした。江沢民政権で朱鎔基首相が、胡錦涛 政権で温家宝首相が、経済政策を仕切った前例があったためだ。

共産党の経済政策の司令塔「中央財経領導小組」の組長に就いた習総書記が、副組長の李首相の勝手を許さなかった。両者の経済観は、水と油だった。

李首相は、14年9月、天津での夏季ダボス会議で「大衆創業、万衆創新」(草の根の起業とイノベーション)のスローガンをぶち上げた。改革開放政策の継承者として、市場経済と民間の活力に賭けた。

対する習氏の経済政策「習(シー)ノミクス」とは何か。政権の内情を知る蔡霞・元中央党学校教授(米国在住)は、フォーリン・アフェアーズ誌への寄稿で、①民間部門を自らの支配への脅威と見なし計画経済を復活させた、②国有企業を強化し民間企業にも共産党組織を設置した、③汚職や反独占を口実に民間企業や起業家から資産を奪った-と指摘する。改革開放に逆行する統制経済こそ「習ノミクス」との見立てだ。

新指導部の顔ぶれに“中国売り”

李氏と習氏のサヤ当てが続いた。2020年5月、全国人民代表大会(全人代)閉会後の記者会見で李首相は「中国には月収1000元(当時のレートで1万5000円)前後の人が6億人いる」と明かした。絶対的貧困の撲滅、小康社会(ややゆとりのある社会)を誇示したい習氏を揶揄(やゆ)するかのように。

その翌月、山東省煙台市で、コロナ禍に耐え営業する屋台を視察した李首相は「屋台経済は重要な雇用の源であり、中国の生命力」と持ち上げたが、共産党系メディアなどが、屋台奨励を批判的に報じた。

今年8月、北載河会議の直後に李首相が訪れたのは経済特区の深圳市。鄧小平氏の銅像に献花し、「改革開放を引き続き推進しなければならない。黄河と長江は逆流しない」と語った。

最高指導部から外れて引退が決まった今となっては、李氏の政治的遺言とも受け取れる。「習派」で固めた新指導部に経済の専門家はいない。その顔ぶれに香港株が急落。外国人投資家が売った。

赤字だらけの高速鉄道網

上海市ロックダウンの責任者、李強氏が序列2位。習氏がこだわる「ゼロコロナ政策」が当面続くだろう。もっと深刻なのは彼らに「過剰な投資主導の成長が、どん詰まりに来ている」という切迫感がないことだ。

官民合わせた総投資は、胡錦涛政権下の2004年に国内総生産(GDP)の4割を超え、投資が民間消費支出を上回るという他国に例がない状況が今日に続く。

投資に投資を重ねれば、不採算、非効率な案件が増えるのは当然だ。例えば、開業から15年で地球1周分に延伸した高速鉄道。赤字路線ばかりで、運営する中国国家鉄路集団の債務は120兆円ほどに膨らんだ。

習政権下で経済成長率は、コロナ禍前から右肩下がり。企業も、家計も、政府も、債務が急増した。不動産セクターの不振は、過剰な投資の累積による「壮大なバブル」の崩壊が始まったと見るべきだ。

「地方融資平台」にデフォルト危機

バブル崩壊→金融危機という日本の経験をなぞるように、中国も金融危機のフェイズに入りつつある。発火点の1つと目されるのが「地方融資平台」だ。

投資バブル生成の過程で、地方政府は重要なアクターだった。開発プロジェクトを企画し、参加業者に国有地(利用権)を売った収入を財源にした。地方政府が設立した投資会社「融資平台」は、債券発行や銀行融資などで資金を調達し、インフラ整備などに投じた。

省、市、県各レベルの融資平台の総数は1万前後とされ、債務の総額は1000兆円を超える。その融資平台にデフォルトの懸念が高まっている。

景気刺激策の切り札のインフラ投資が使えなくなれば、改革開放に逆行する「習ノミクス」を嫌い資本が中国から逃げ出せば…。人口も減り始める。GDPで米国を追い抜くどころか、その背中が遠ざかる。

バナー写真:第20回中国共産党大会の閉幕式を終えた(右から)習近平総書記、李克強首相、汪洋・人民政治協商会議主席=2022年10月22日、北京の人民大会堂(共同)

中国 習近平 中国経済