日本共産党結党100年:時代に合わせ柔軟に変わった1世紀

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日本共産党が2022年7月で結党100年を迎えた。戦前から戦後の一時期、暴力革命を掲げ、過酷な弾圧の対象になったが、高度成長期に党勢を拡大。近年は野党共闘による政権交代を目標に掲げている。日本政治外交史が専門で近著『日本共産党「革命」を夢見た100年』(中公新書)を著した中北浩爾・一橋大学教授に、東欧革命・ソ連崩壊後も命脈を保ってきた日本共産党の来し方、行く末について話を聞いた。

中北 浩爾 NAKAKITA Kōji

一橋大学大学院社会学研究科教授。1968年三重県生まれ。91年東京大学法学部卒業。95年東京大学大学院法学政治学研究科博士課程中途退学。博士(法学)。大阪市立大学法学部助教授、立教大学法学部教授などを経て現職。専門は日本政治外交史、現代日本政治論。著書に『自民党ー「一強」の実像』(中公新書)『自公政権とは何か』(ちくま新書)『現代日本の政党デモクラシー』(岩波新書)『自民党政治の変容』(NHKブックス)ほか

傑出した指導者だった宮本顕治

―なぜ日本共産党史を研究しようと思われたのですか。

日本共産党は、ここ40年くらい、政治のメインストリームに影響を与える主体ではありませんでした。しかし、2015年の安保法制反対運動をきっかけに共産党を含む野党共闘が始まり、存在感を著しく高めました。ところが、もはや事実上の社会民主主義政党になったと言われたり、政府・警察からは未だに暴力革命路線を捨てていないと言われたりと、正反対の評価が混在。長年、注目されなかったので、実態がよく分からなくなってしまっている。そこで学問的な手続きで分析してみることにしたのです。

―諸外国の共産党と比べて日本共産党の独自性は何だとお考えですか。

日本は長年、アジアで唯一の先進国でした。この事実を踏まえ、宮本顕治書記長が主導して1961年、先進国でありながら社会主義革命ではなく民主主義革命(民族民主革命)を目指す独自の綱領を採用しました。さらにこの綱領のもと、まず米国に妥協的なソ連と衝突し、続いて武装闘争を求めた中国共産党とぶつかり、自主独立路線を確立します。「モスクワの長女」と呼ばれたフランス共産党はもちろん、イタリア共産党もソ連への遠慮が消えませんでした。これら二つの西欧最大の共産党と比べても、日本共産党の特異性は際立っています。

―著書の中で宮本顕治がソ連や中国と袂(たもと)を分かち、強固で安定した日本独自の「自主独立路線」を取ったことが日本共産党が命脈を保った面で大きいと評価し、多くの紙幅を割いています。宮本路線をどう評価していますか。

宮本顕治は傑出したカリスマ指導者でした。政治手腕や理論水準が秀でていただけでなく、戦前、獄中で拷問を加えられながら完全黙秘や非転向を貫き、圧倒的な権威を持っていました。日本共産党が100年存続したのは、宮本の功績が大きい。ただ、現在、その遺産が尽きつつあるというのが私の見解です。

武装闘争方針を放棄した55年の六全協(第六回全国協議会)の後、最高実力者になった宮本のもとで成立した日本共産党の政治路線を、私は「宮本路線」と呼んでいます。それは、第一に民族民主革命を平和的手段で実現することを目指す61年綱領を中核としつつ、第二に国際共産主義運動の内部で自主独立路線をとり、第三に大衆的な党組織の建設と国会などでの議席の拡大を図るものです。

宮本路線という言葉を使ったので、独裁的な権力を党内で行使したように思うかもしれません。しかし、宮本は集団指導の原則を少なくとも形式的には守りました。その結果、日本共産党は外国の兄弟党にみられるような個人崇拝とは無縁でした。今でも、それは変わりません。実は宮本自身、集団指導の原則ゆえに「宮本路線」や「宮本体制」といった用語には批判的でした。

第15回共産党大会を終え、記者会見する宮本顕治委員長(左)と不破哲三書記局長=1980年3月1日、静岡県熱海市の伊豆学習会館(党学校)にて(共同)
第15回共産党大会を終え、記者会見する宮本顕治委員長(左)と不破哲三書記局長=1980年3月1日、静岡県熱海市の伊豆学習会館(党学校)にて(共同)

野党共闘路線の行き詰まり

―一方、平成・令和を担ってきた志位和夫委員長の手腕は、どうご覧になっていますか。

非常に難しい状況のもとで、かじ取りをしてこられたと思います。1990年に書記局長に就任した直後にソ連が崩壊しました。その後、社会党の衰退もあって、共産党は一時的に躍進しましたが、委員長になった2000年以降は民主党が政権を取るところまで伸長し、そのあおりを食って低迷が続きました。私が見る限り、志位氏は宮本路線の範囲内で現実的な党運営を図ってきたと思います。はっきりとした形になったのが、2015年の安保法制反対運動をきっかけとする野党共闘です。これは志位氏のイニシアティブによるものです。前回の衆院選では立憲民主党との間で「限定的な閣外からの協力」という合意まで至ったのですが、選挙結果が振るわず、今回の参院選では後退してしまいました。

―参院選前の2022年4月に、志位和夫委員長が党本部の総決起大会で「有事の際に自衛隊を活用する」と発言し、他党から批判が相次ぎました。志位氏は「急に言い出したことではなく、2000年の党大会で決定し綱領にも書き込んでいる」と反論しましたが、これも同党がよく理解されていないことを示す事例ですか。

志位氏の発言は不正確だと思います。共産党はいったん00年に自衛隊活用論を打ち出したものの、党内に批判があって、当面は自衛隊を活用しないという方針に軌道修正しました。安保法制反対運動後、野党共闘を進めるなかで再度持ち出してきたというのが真相です。自衛隊活用論一つとっても紆余曲折があり、私たちだけでなく、党内でもきちんとした知識や情報が共有されていないと感じました。

―やはり時代に合わせて柔軟に変遷させてきた外交・安全保障政策の振幅が大きいからでしょうか。

日本共産党の政策には、強固に維持されている部分と、それ以外の柔軟な部分の両方があります。同党の外交・安全保障政策について言えば、米国帝国主義への批判は一貫していて揺るがない。しかし、自衛隊に関しては、かなりの柔軟性があります。戦前の共産党は天皇制の打倒がメインの方針でしたが、1961年綱領以降、日米安保条約の廃棄(破棄)が最も重要な政策です。それに比べると、自衛隊はやや脇の論点です。これも十分に理解されていない点であり、天皇制廃止論や自衛隊違憲論が共産党の主張のコアだと思っている人が意外に多い。同党にとって一番重要なのは、日米同盟の解消なのです。近年、日本共産党は中国批判を強めていますが、それが日米安保条約の肯定にまで至るかというと、かなりハードルが高いと思います。このことが立憲民主党などとの野党共闘を進める上で大きな障害になっています。

―最近、女性の登用が盛んですが、かつては日本社会に根深い女性差別から逃れられなかったと著書で触れています。

私の本では、戦前の日本共産党の暗部だった女性差別について、地下活動を行う男性幹部に女性活動家がハウスキーパーとして手当されていた事実を慎重な表現で紹介しました。立花隆の『日本共産党の研究』にも書かれていて、昔からよく知られていることなのですが、知り合いの研究者などからは、批判が生ぬるいと言われました。「日本共産党は性暴力を容認していた」と書くべきだったという意見も、複数のフェミニストからいただきました。

同党は最近、本腰を入れて女性を登用しようとしています。今回の参院選では58人の候補者のうち32人、55%が女性でした。当選者でも4名中2名、5割が女性です。党幹部についても女性を増やしてきています。しかし、その一方で、分派の禁止を伴う民主集中制の組織原則が維持され、党中央が下部を強力に統制しています。ジェンダー平等を重視し、多様な性のあり方を認めることも大切ですが、それとともに党内に多様な意見が存在することを認め、党員間で自由に議論を戦わせるようにならないと、党組織は活性化しないと思います。

―党員の減少や高齢化に伴って党勢が衰退しています。日本共産党に次の100年はあると思いますか。

このままではじり貧でしょう。党員の高齢化が進み、60代から70代が活動の中心を担っていることを考えると、これから10年が勝負でしょう。現在、党の最大の課題は「世代的継承」です。東欧革命・ソ連崩壊をきっかけに、若者があまり入党しなくなりました。しかし、欧米では、格差是正や気候変動に敏感なZ世代とか、ジェネレーション・レフトとか呼ばれる若者世代が注目されています。問題は日本共産党が旧来のイデオロギーと組織原則を維持しているため、その受け皿になれていないことです。

―著書の中でイタリア共産党のような中道左派の社会民主主義、あるいは米国のバーニー・サンダース上院議員のような急進左派の民主的社会主義を目指す路線転換を提言されていますが、他の野党との差別化が難しくなるのでは?

日本共産党が生き残るには、イデオロギー、組織原則、党名を三位一体で変えるしかないと思います。その上で、同党が変わって完結というのではなく、おそらく他の政党との再編にも踏み込んでいくというのが、現実的なプロセスではないかと思います。現段階では党員数も多いし、機関紙を含めて組織の強さも持ち合わせています。

最も重要なのは、日本共産党の内部で、将来のあり方を含めて活発な議論を戦わせ、結論を得ていくことです。やはりそこでネックになるのが、民主集中制です。まずは党員が党首を直接選べるような仕組みを導入することが出発点にならざるをえません。

―展望はありそうですか。

多くの老舗企業も同じですが、変わるのは容易ではありません。しかし、今回の参院選で日本共産党が獲得した比例票は361万で、前々回の601万、前回の448万から大きく減らしています。また、野党間の選挙協力も今回の参院選で後退し、見通しを失っています。体力が残っている今のうちに変わらなければ、じり貧に陥る恐れがあります。しかし、見方を変えると、共産党が本格的な路線転換に踏み切れば、野党共闘が強化され、自公ブロックに対抗できるようになる。つまり、日本政治の閉塞感を打破するゲームチェンジャーになりうる存在なのです。

「日本共産党 革命を夢見た100年」

「日本共産党 革命を夢見た100年」

中北浩爾(著)
発行:中央公論新社
新書判:440ページ
価格:1210円(税込み)
発行日:2022年5月23日
ISBN:978-412-102695-8

バナー写真:日本共産党結党100年に当たり、記者会見する志位和夫委員長=2022年07月14日、国会内(時事)

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