日本に暮らす外国籍の子どもたちに就学支援を:平等に教育を受けられる体制づくりが急務
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2019年9月、日本で暮らす外国籍の子どものうち、約2万人が学校に通っていない可能性があるという実態が、文部科学省が全国規模で初めて行った外国人の子供の就学状況等調査(2019年度)によって明らかになった。これは、日本で暮らす外国籍の子どもの約5人に1人(18.1%)(※1)が不就学状態に置かれている可能性を示す。この数を同じ時期の2019年に発表された国連教育科学文化機構(ユネスコ)リポートと照らし合わせると、その深刻さが顕著になる。なぜならば、世界で最も学校(初等教育)に通っていない子どもの比率が高い「サハラ以南のアフリカ地域」(18.8%)と、ほぼ同じであるからだ。
先進国の日本で、なぜこんなに不就学状態の外国籍の子どもが多いのか。2003年4月からの2年間、私は自治体 やNPO等と協働し、全国で初めて岐阜県可児市に暮らす全外国籍の子どもを家庭訪問しながら就学実態を把握する調査に着手した。その経験を踏まえて、理由を確認しながら、改善すべきことを考えていきたい。なお、本稿での外国籍の子どもとは、日本での小学1年生から中学3年生までの年齢(学齢期)に相当する外国籍者を示す。
教育を受ける権利や健康が守られない子どもたち
まずは、日本における外国籍の子どもの就学扱いから確認しよう。文科省のホームページ(HP)の就学事務Q&A「外国人の子等の就学に関する手続」を見ると、次のように示されている。
Q. 外国人の子の就学に関する手続について、どのような点に留意が必要でしょうか。
A. 我が国においては、外国人の子の保護者に対する就学義務はありませんが、公立の義務教育諸学校へ就学を希望する場合には、国際人権規約等も踏まえ、その子を日本人児童生徒と同様に無償で受け入れているところです。
日本においては、「外国人の子の保護者に対する就学義務はない」という事実に、驚く読者も多いだろう。これは、日本での教育法規の根本に位置付く重要な規定が定められた、憲法第26条に関係する。同条第2項「すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ」という条文の「すべて国民」が、「日本国籍者」と解釈され、外国籍の子どもの保護者には義務を課さないとされているためだ。日本では、就学義務は親が子どもを学校に通わせる義務とされているが、子どもの立場からすれば、世界人権宣言で定められた第26条「教育への権利(right to education)」が、就学義務の確立によって制度的に保障されることを意味する。
しかし、納税の義務を定めた第30条ではどうだろうか。ここでは、「国民」は「居住者」として、外国籍者からも税金をしっかり取っている。つまり、国の「解釈」とその使い分けによって、外国籍の子どもたちは「教育への権利」を奪われたともいえよう。
それだけではない。世界人権宣言の第26条第3項には「親は、子に与える教育の種類を選択する優先的権利を有する」とし、教育を受ける権利は、教育を選ぶ権利も保障されるべきとされている。だが、日本では「教育の種類を選択する」ことも認められていない。日本国内にはインターナショナルスクールをはじめ、ブラジル学校、ネパール学校、朝鮮学校などの外国学校が200校以上あるとされているが、これらのほとんどが「学校」として認められていない。そのために、学校健診などの子どもの健康や命にかかわる制度の対象からも、外国学校を除外する。それゆえに、子どもの安全を守れない社会をつくってしまった。
2020年11月、ある外国学校で新型コロナウイルスのクラスターが発生した。それは感染拡大の第3波が襲来した時期だったが、多くの外国人労働者はテレワークで働ける環境ではなかった。そのために、職場から子どもたち、そして学校へと感染が拡大したものの、行政はすぐに介入できなかったのだ。その教訓からか、外国学校に通う子どもの健康にかかわる有識者会議が初めて文科省に設置された。外国学校に対して保健衛生に関わる調査も実施されたために関係者らはこの会議に期待したものの、日本の「学校」のように養護教諭の配置や保健室の設置が義務付けられていないために、養護教諭不在で保健室がないなどの深刻な状況が報告されただけで会議が終わってしまった。子どもの健康や命にかかわる制度改正の兆しは、全く見られないままだ。
世界から選ばれる日本になるために
新型コロナの収束が見えない中で、健康さえも守られない子どもたちが国内にどのくらいいるのか。最新の文科省の調査結果を示しながら、具体的な数字を確認していきたい。
2022年3月末、文科省は第2回目となる外国籍の子どもの就学実態を把握した調査結果を発表した。それによると、5.9%が国の認めない「学校」、すなわち外国学校に通う子どもたちで、9.9%が不就学状態に置かれた可能性の高い子どもたちの割合を示す。つまり、図の「②外国学校」と「①②以外」を合計した2万1162人の健康は、法的に守られていないと言っても過言ではない。その割合は、全体の約6人に1人(15.9%)に相当する。とりわけ、図の「①②以外」の子どもたちの相当数が、就学状況の確認すらされていない。「子どもの所在がわからない」ことに対し、命が軽んじられていると思うのは、私だけだろうか。
2022年3月末には、公立学校に通う日本語指導が必要な子どもの実態(2021年度)について文科省から最新データが公表された。それによると、中学校などを卒業後、進学も就職もしていない人は20人に1人(5.0%)で、高校卒業後となると約7人に1人(13.4%)に増えていることが明らかになった。依然として高校での中退率が高く、全高校生(1.0%)の5倍(5.5%)だった。さらに、小中学生のうち約20人に1人(5.1%)が特別支援学級(支援級)に通っていることも報告された。これは、小中学校全体(3.6%)の約1.4倍に相当する。日本でいう支援級とは、障がいのある子どもへの教育を目的に置かれている少人数の学級を示す。
確かに、前述の文部科学省HPの就学事務Q&Aに示されているとおり、「公立の義務教育諸学校へ就学を希望する場合には、(中略)その子を日本人児童生徒と同様に無償で受け入れている」ことは事実である。それによって、国の認める「学校」に通う子どもが多いことは、図からも分かる。だが、日本語指導が必要な子どもたちの中退率の高さや、希望する進路や就職ができないという現状は、質の高い教育を受ける権利が、個人の社会的実現において重要な意味を持つ今日の社会において、極めて憂慮すべき課題であるといえよう。
日本が世界から選ばれる国になるためには、日本国籍を絶対基準にして、外国籍の住民を排除する施策を見直す必要があり、外国籍の子どもにも「教育への権利」が保障されるべきである。そこでは、諸外国では当たり前の「教育を選ぶ権利」とのセット、言い換えれば、全ての教育機関を学校として認め、多様性を尊重した教育を受ける自由とのセットが必須だ。そのことは、不登校の児童・生徒が過去最多の約20万人(2020年度、文科省調べ)まで増加する日本の「学校」において、生きづらさや抑圧から逃れたいと苦しむ子どもたちが抱える問題の解決にも通ずると私は信じてやまない。
バナー写真=愛知県豊田市の工場で働く日系ブラジル人やペルー人が暮らす同市の保見団地で、NPO法人が運営する外国人の子どもたちのための学校パウロ・フレイレ地域学校(時事)
(※1) ^ 転居・出国予定の不就学状態になっている可能性のある3017人を含む。