岐路に立つ日本の学校スポーツ:運動部活動の地域クラブへの移行は成功するか

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日本のスポーツを支えてきた学校部活動が変わろうとしている。少子化に伴う部員減少や部の統廃合だけでなく、指導者を兼ねる教員の過剰な負担が問題となってきたためだ。そこでスポーツ庁は「運動部活動の地域移行」を来年度から3年間かけて実施する。日本に長く根付いてきた部活動を、欧州のような地域クラブに衣替えする試みは成功するだろうか。

スポーツ庁の有識者会議が示した提言案

「『30』年後には運動部活動の生徒は半減する?!」。スポーツ庁の公式ホームページには、こんな刺激的な見出しが躍る。少子化の進行を見越した日本中学校体育連盟の試算によれば、運動部活動に加入する中学生の人数は、2018年度(202万9573人)から2048年度(147万9095人)までの30年間で約3割減る見込みだという。とりわけ、野球、サッカー、バレーボールなどのチームスポーツにおいては、半分近くまで減少するとみられている。

近年、こうした団体競技では他校との連合チームが組まれたり、廃部になったりする例が後を絶たない。今のまま推移すれば、スポーツをやりたくてもやる場所がないという状況が生まれる。

スポーツ庁の「運動部活動の地域移行に関する検討会議」(座長=友添秀則・日本学校体育研究連合会会長)は4月26日、来年度からの実施に向けた提言案を公表した。まずは公立中学校の休日の活動を対象とし、できるところから平日の地域移行についても改革を進めていく方針だ。

部活動の休日の受け皿としては、総合型地域スポーツクラブやスポーツ少年団、クラブチーム、プロスポーツチームの下部組織、フィットネスジムなどが想定されている。このような団体は全国で18万あるとされるが、その多くは人口の多い都市部に集中しており、過疎地域などでは受け皿がないという事態も考えられる。

地域に部活動を移す場合、具体的にはどのような形式になるのだろうか。たとえば、平日は学校のサッカー部に所属しながら、休日は地域のサッカークラブで活動するというケースだ。平日は教員、休日は地域クラブのコーチが指導に当たることになるが、指導方針が一貫しないという課題も残る。

限界を超えた教員の過剰な負担

何より教員の負担軽減は急務であり、1カ月の残業が100時間を超える教員は少なくないという。過労死の危険性が高まるといわれる80時間のラインを上回る現状は、待ったなしで改善しなければならない。

土日も返上で部活動に関わるとなれば、全く休めない状況が続くことになる。過重労働で心身を壊し、休職や退職に追い込まれるケースも多く、深刻な社会問題となっている。

当面は休日の指導を地域住民が担い、将来的には平日も任せる形にできれば言うことはない。だが、それだけの人材を探すのは容易ではないだろう。質・量ともにしっかりと指導者を確保できなければ、今回の部活動改革は「絵に描いた餅」に終わりかねない。

指導者の「質」は、生徒の技術向上だけでなく、安全・健康管理や人格形成にも関わってくる。それだけに、スポーツ科学やハラスメント、組織運営などに知識と理念を持った人材が求められる。指導者資格の付与を導入するのであれば、そのためのシステム作りも進めなければならない。

「量」については、指導者になりたいというニーズをどう掘り起こすかにかかっている。現役を引退したアスリートや競技経験のある大学生や卒業生、仕事をリタイアした後もスポーツに情熱を持つ住民ら、さまざまな人材をリクルートする必要がある。もちろん、指導者を希望する教員も多数いる。過重労働に配慮しつつ、休日に地域クラブで報酬を得て指導する場合は兼職・兼業を認める制度も作らなければならない。

指導者を雇用する財源は?

最も懸念されるのは、指導者に対する報酬をどう捻出するかだろう。無償のボランティアだけで全てをまかなうのは極めて難しい話だ。今でも外部指導者に報酬を出している学校は多いが、その数はまだまだ不足している。

有償とする際の財源について、提言案では明確な方向性が述べられていない。指導者が地域のクラブに属することを想定し、「自立して運営ができる組織体制の育成を促すことが基本」と突き放しているのは心配だ。スポーツ振興くじ(toto)助成や国による支援も検討するとしているが、あくまでクラブの体制立ち上げ時にとどまるようだ。

民間のスイミングスクールのような仕組みを想定しているのかもしれない。水泳のインストラクターは、有償で雇用されている。クラブの経営を自立したものにさせるならば、当然、会費収入に財源を頼らざるを得ない。それを負担するのは、生徒の保護者にほかならない。

学校部活動は、収入の少ない家庭の子どもでも加入できる優れたシステムだった。複数にわたる分野の指導者が身近におり、練習場所もすぐそばにある。このような環境は外国では珍しいはずだ。その部活動が危機にひんしているということは、日本スポーツの危機ととらえなければならない。

「民営化」されれば二極化の懸念

今回の改革は、地域移行という名の「民営化」ともいえる。やり方次第で活性化も期待できるが、一方で、スポーツに取り組む生徒とそうでない生徒との二極化を加速させる可能性がある。人気スポーツとマイナースポーツの間でも大きな差が生じるだろう。

二極化の例は、既に中学校の野球界で進んでいる。学校の軟式野球部の多くでは部員の減少傾向が続いている。しかし、その半面、地域クラブである硬式野球のボーイズリーグやリトルシニアでは選手が増加の一途をたどっている。

今春の選抜高校野球大会では、優勝候補の大阪桐蔭と国学院久我山(東京)が準決勝で顔を合わせた。その東西対決のメンバーの中に、ともに千葉・京葉ボーイズの出身者がいたことが話題になった。

2010年にボーイズリーグに加盟した歴史の浅いチームだが、部員が膨れ上がり、今や京葉ボーイズ、京葉下総ボーイズ、八街京葉ボーイズの3チームを有するまでになった。中でも京葉ボーイズは全国トップクラスの強豪に成長し、大阪桐蔭など甲子園常連校へ選手を輩出している。このような名門校の多くは、中学硬式野球に支えられているのが現状だ。

今後は他競技でも地域クラブの存在が目立っていくだろう。サッカーでは学校の部活動ではなく、Jリーグの下部組織から育ってくる選手が多くなった。高校生年代では、高校のサッカー部とJクラブユース、地域クラブの強豪24チームが参加する「U18プレミアリーグ(前身は全日本ユース選手権)」で、日本の最高峰を争うリーグ戦が行われている。

こうした例を参考に、今後はどの競技でも学校単位にこだわらない大会が開催されることになるだろう。中体連も来年度から全国中学校体育大会に民間クラブの参加を認める予定だ。

だが、さまざまな部活動を地域クラブに移行させ、経営的に成り立たせるのは困難かもしれない。選手が集まる人気スポーツだけが生き残り、競技人口の少ないマイナースポーツは、衰退の道をたどる恐れがある。

少なくとも学校には多くの施設や用具がそろっている。地域移行といっても、学校が部活動のすべてを手放すのではなく、今ある「資源」を有効活用しながら、問題点を改善していくべきだ。そのためにも指導者の確保を最優先させなければならない。民間資金だけに任せるのではなく、国費を投入することも必要だ。

スポーツ庁が青写真を描きつつ、各競技団体もそれぞれの事情に応じて新たな部活動の在り方を提示していく。将来を見据え、スポーツ界全体が危機意識を持って取り組むべきテーマだ。仕組みが変わっても、今まで同様、多くの若者がスポーツに親しめる環境を守っていかなければならない。

バナー写真:圧倒的強さを見せつけ、今春のセンバツを制した大阪桐蔭。ボーイズリーグなど中学硬式野球のトップ選手が全国から集まっている(2022年3月31日、甲子園、代表撮影) 時事

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