新設されたデジタル庁:国民生活を大きく変えられるか

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2021年9月1日、ポストコロナ時代のデジタル社会形成の司令塔として「デジタル庁」が発足した。菅義偉前首相の肝いりの新組織には、国民の安心につながる行政サービスの提供が期待される。

デジタル庁は、首相の下にデジタル相を据える首相直轄の組織だ。官民を問わず能力の高い人材を集め、これまでの行政の縦割りを打破し、予算と権限を集中させ、行政手続きのオンライン化や国と地方のシステム統一など強力にデジタル化を推し進める。

世界と比べて遅れをとる日本

新型コロナウイルス感染症の影響により、日本経済も大きな打撃を受けている。この間、国、自治体のデジタル化の遅れや人材不足、不十分なシステム連携に伴う行政の非効率、煩雑な手続きなど、先進国と比べ、日本におけるデジタル化の遅れが顕在化した。

2020年春の新型コロナ感染拡大当初に支給が始まった給付金は、世界と比べて遅れが目立った。デジタル化が進んでいるシンガポールでは5日で約9割の国民に給付できた。それに対して、日本では国会で予算が成立してから、国民に届くまで数カ月の時間を要した。

20年7月に国連が発表した電子政府ランキングで日本は14位と、前回(18年)の10位から後退しており、行政のデジタル化への対応が急務となっている。

デジタル社会が目指すビジョン

デジタル庁は、以下のとおりの「デジタル社会の目指すビジョン」を掲げている。

「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合った
サービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会」
~誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化~

https://www.soumu.go.jp/main_content/000735658.pdf

全職員の3分の1は民間から採用

デジタル庁の長、主任の大臣は内閣総理大臣が務め、事務を統括するデジタル大臣を置いている。また、副大臣、大臣政務官に加えて、事務方トップのデジタル監やデジタル審議官などの職を設けている。発足時の職員数は600人規模で、そのうち民間から非常勤を含む約200人を採用している。

非常勤職では、CA(Chief Architect:チーフアーキテクト)、CDO(Chief Design Officer:最高デザイン責任者)、CISO(Chief Information Security Officer:最高情報セキュリティー責任者)、CPO(Chief Product Officer:最高製品責任者)、CTO(Chief Technology Officer:最高技術責任者)などが配置されている。

また、「戦略・組織グループ」「デジタル社会共通機能グループ」「国民向けサービスグループ」「省庁業務サービスグループ」の4つのグループから構成されている。(※1)

デジタル庁の発足に合わせて、デジタル社会推進会議が設置され、施策の推進や関係省庁との調整をする。また、デジタル社会構想会議を開催し、2021年12月中下旬の閣議決定に向けて、新たな重点計画の策定に向けた調査・審議を行っている。

実現に向けた基本的な施策

デジタル社会の実現に向けた基本的な施策は、以下の4つとなる。

  1. 国民に対する行政サービスのデジタル化の推進
  2. くらしのデジタル化の促進
  3. 産業全体のデジタル化とそれを支えるインフラ整備
  4. 誰一人取り残さないデジタル社会の実現

「国民に対する行政サービスのデジタル化の推進」では、新型コロナ対策など緊急時の行政サービスのデジタル化やマイナンバーカードなどの活用推進、省庁や地方の情報システム刷新などを行う。

新型コロナ対策など緊急時の行政サービスのデジタル化では、2次元コード付き新型コロナのワクチン接種証明書の電子交付を2021年12月中旬より運用を開始する予定だ。

特に、重要な位置付けとなっているのが、日本国内の全住民に割り当てられた12桁のマイナンバーを記したマイナンバーカードだ。このカードは、社会保障や税、災害対策関連の事務手続きなどで、本人確認が行える。カードに組み込まれているICチップは個人を認証する電子証明書を搭載し、民間事業者が提供するサービスとも連携できる。

総務省によると、マイナンバーカードの2021年10月1日時点の交付枚数は約4867万枚で、交付率は38.4%にとどまっている。政府は、22年度末までに、ほぼ全員にカードが行き渡ることを目指している。

マイナンバーでは21年10月20日には、健康保険証として使う「マイナ保険証」の運用が開始した。マイナ保険証により、就職・転職・引っ越しをしても健康保険証として使い続けることができ、特定健診情報や薬剤情報・医療費の閲覧や、確定申告の医療費控除なども利用できる。しかしながら、マイナ保険証が利用可能な施設は21年10月時点で1割以下にとどまっている。

政府は、マイナンバーカードを保有する全国民を対象に、1人当たり最大2万円相当のポイントを付与する計画で、マイナンバーの利活用促進やマイナンバーカードの普及に向けた取り組みを進めている。

マイナンバーカードは、22年度中に電子証明書などのマイナンバーカード機能のスマートフォンへの搭載や、子育てなどの主要手続きが概ね全市町村でオンライン申請を可能とする予定だ。また、24年度末~25年度には、運転免許証・在留カードとの一体化も予定している。

デジタル庁にとって、マイナンバー利用とマイナンバーカードの普及と用途拡大が、大きな成否を分ける取り組みの1つとなる。

データ戦略の推進

「くらしのデジタル化の促進」では、デジタル庁主導で全体像を描き、医療、教育、防災、モビリティ、契約・決済などの分野において、デジタル化やデータ連携を推進する体制を構築し、実装を進める。政府は今年度中に医療、教育などの公共性の高い分野でデータ連携を進める具体策をまとめる計画だ。

政府は、デジタル社会においてデータの十分な活用が社会課題の解決や競争力の源泉になると見ており、あらゆる情報を一元化し、住民の生活サービス向上やビジネス活性化につなげるために、データ戦略を推進する。

政府のデータ戦略の基本的なコンセプトは「使うたび、良くなる、公共のデータ」の整備だ。

データ戦略を推進するに当たり、重要な位置付けとなっているのが、「公的機関などで登録・公開され、さまざまな場面で参照される、人、法人、土地、建物、資格などの社会の基本データ」を指す「ベース・レジストリ」の整備だ。

データ連携を実現するプラットフォームとベース・レジストリが整備され、データが安価に安定的に供給される持続可能なエコシステムが形成されるようになると、データを誰もが利用できる、暮らしやすい社会や新しいビジネスの創出などが期待できる。

その際、国民がデータを安全・安心に利用できるようデータの信頼性を確保する仕組み(トラスト)の実現も不可欠となる。

国民参加でより良い社会の実現を

デジタル庁の発足は、世界と比べてもデジタル化が遅れている日本にとっては、大きな第一歩となる。

成果を出していくには、予算と権限だけではなく、省庁横断で旗振り役となり、デジタル技術の活用はもちろん、現場で推進役を担う人と人をつなぎ、組織や価値観を変革して初めて、本質的な変革につながるだろう。

また、国民がデジタル化された行政サービスを安全・安心に利用しつつ、行政の政策に意見を届けていく行動も大切となる。

デジタル庁では、幅広く国民から意見やアイデアを募集し、オープンに共有・議論するコミュニティプラットフォーム「デジタル庁アイデアボックス」に取り組んでおり、その一環として「PoliPoli Gov(β版)」による実証事業を2021年10月から開始している。

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デジタル庁が旗振り役となり、国民が積極的に行政サービスを利用して政策に意見を届けていく。これにより、省庁横断の柔軟な連携とオープンな場が機能し、アクションにつなげていければ、国民一人ひとりが利便性を感じられる、デジタル社会や行政サービスの実現が期待できるだろう。

バナー写真:PIXTA

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