継続する米中対立で問われる日本の覚悟:より一体化に向かう経済・技術政策と安全保障を見据えよ

政治・外交

米バイデン政権の外交が対中強硬姿勢を取りつつある中、東アジアにおける同盟国として、日本の重要性はこれまで以上に増している。筆者は「日本が米中双方と同時に関係深化を図ることのできる時代は終わった」と指摘。過度に対中配慮を意識しない「覚悟の外交」も必要な局面だと分析する。

ジョー・バイデン氏が第46代アメリカ大統領に就任してから100日余りが過ぎた。もちろん、政権の最大の課題はコロナウイルス感染症に苦しんできた国内を再建することにあり、ワクチン接種や大規模な財政出動によってそれを成し遂げようとしている。他方で、バイデン政権は外交においても、トランプ政権によって戦後アメリカ外交の基礎にあった国際秩序や同盟関係が揺さぶられたとの認識を強く持っており、アメリカの強みであるそれを回復したうえで、権威主義、専制政治と糾弾する中国、ロシアとの競争に備えるとの方針を明確にしている。

「国際システムへの挑戦者」中国への対抗加速

バイデン外交の初動で明らかになったことは、世界戦略における中国の重要性を押し上げたトランプ政権の立場を踏襲し、さらに加速させていることだ。オバマ政権末期から、中国の台頭には従来の関与政策を中心にしたアプローチでは限界があり、サイバー攻撃や南シナ海問題に対して新たな政策手段が選択され始めていた。それでも、世界戦略における中国の優先順位を明確に高めたのは、トランプ政権だった。2017年の国家安全保障戦略やその後に示されたインド太平洋戦略に込められた趣旨は、中国が地域課題であると同時にグローバルな課題であるとの認識だった。そしてバイデン政権のキーパーソンたちは、そういった世界観を共有している。中国のパワーは、単にアメリカに追いつきかねないから問題なのではなく、地域の勢力均衡、国際システムを塗り替えるほどの強制的な性格を持つと考えられている。

バイデン政権が異例なことに、3月に早々と示した国家安全保障戦略の青写真は、暫定版のガイダンスという形式ではあるものの、中国を「経済力、外交力、軍事力、技術力を組み合わせて、安定的で開かれた国際システムに持続的に挑戦することができる唯一の競争相手」と呼んだ。そして長期的に競争を勝ち抜き、国際システムを守るという意欲が示された。

中国は多面にわたってアメリカと世界に挑戦しているという世界観は、次のような箇所にもみられる。「反民主主義勢力は誤報、偽情報、武器化された汚職を利用して(相手の)弱点を利用し、自由な国の国内、国家間に分裂を生み、国際ルールを侵食し、権威主義という代替モデルを推進している」。バイデン外交は権威主義と民主主義の対立という構図を描くことが多く、大統領演説でもそれが繰り返される。ホワイトハウス国家安全保障会議の幹部職員には民主主義を擁護・推進する研究機関に所属したものが複数入っていることも、その重要な背景だ。トランプ政権のアプローチを同盟軽視だったと批判しつつ、中国認識では一致していることが多いのがバイデン政権の特徴といえる。

科学技術・安全保障政策の一体化は継続

アメリカの技術覇権を維持しようとして、経済安全保障の政策手段を増加させてきたのがトランプ政権期以来の流れであり、輸出管理改革法や対米外国投資委員会の権限強化などが立法化された。そういった政策手段を引き続き活用し、アメリカの科学技術と安全保障の基盤を守る意思も、バイデン政権の閣僚たちは明確にしている。米中対立が進展するなか、米政府において経済・科学技術・安全保障にかかわる政策は、より一体化しつつあり、トレンドは変わらない。コロナ禍により、サプライチェーンの国内回帰の重要性は国内経済の刺激、安全保障の両面から重視されるようにもなった。議会はこうした動きを一貫して支持している。

中国を念頭に置いたアメリカの政策対応は、全省庁的な性格を強めていくだろう。米中対立の緩和要因は弱く、トランプ政権におけるムニューシン財務長官のように、関係融和を図ろうとする有力な政府高官・政治アクターは現時点で見当たらない。よく気候変動問題での米中協調の可能性が指摘され、米産業界から、いわゆるデカップリングが雇用に与える懸念を示す報告書も公表されてもいるが、それらも米中対立を和らげるほどの効果は持ち得ないだろう。

最前線の同盟国として重視される日本

コロナ禍の最中でも、対面とオンラインを組み合わせて活発に展開され始めたバイデン新政権の外交活動において、中国が中心的なアジェンダになった。直近では先進7カ国(G7)外相会合において中国が大きく取り上げられ、人権問題によって強硬化する欧州の対中姿勢と合わさって、価値観を重視するバイデン外交と中国問題の相性の良さを示した。時をさかのぼれば、日米豪印のいわゆるクアッド首脳会談(オンライン)、日米2+2、韓米2+2と同盟、パートナー国との対話が頻繁に実施されたが、その多くに日本が参加している。

アメリカからみれば、日本は中国を念頭にした国際連携を要する政策対応のおそらくすべてに参加するほど重要な国であると同時に、中国への経済依存とアメリカへの安全保障依存という構造をもつ多くの同様の国が対応を注視している存在でもある。換言すれば、日本がどのようにアメリカと対中戦略を協議するのかは、アジア、ヨーロッパの国々にとって重要な参照点になるとアメリカは考えている。

その観点に立てば、日本が重要視されたのは当然だった、公開される会談冒頭で激突を演出したアンカレッジ(アラスカ州)での米中ハイレベル協議後、4月における日米首脳会談がバイデン大統領にとって初の対面での首脳会談になったことも決して偶然ではない。日本の旗幟を鮮明にすることが世界に与えるインパクトを十分に理解していたのだ。中国を念頭に置いた外交の初動、その総決算として日米首脳会談が位置づけられた。

経済安全保障面で踏み込んだ共同声明

菅首相とバイデン大統領による共同声明では、2+2の内容に続き、安全保障協力の深化なども触れられているが、何より注目を集めたのは、台湾と人権、経済安全保障という3点への言及だ。

台湾に関して、「台湾海峡の平和と安定」に両首脳が触れたことはたしかに歴史的なことである。それが日米の安全保障上欠かすことのできない利益ということであり、また日本の安全保障が台湾海峡の安定と一体であるとの認識を示してもいる。実のところ、台湾海峡有事が日米安全保障体制の問題になる可能性があるとの立場は、これまでの政府の説明とも一貫性がある。

他方で、今回の日米首脳共同声明は、日本が1972年の日中共同声明を初めとする重要文書によって整理してきた中国大陸および台湾との関係を再構築するものではなく、また歴史認識に対する日本政府の姿勢も変更するものではない。

安全保障において、日米両政府が台湾海峡の重要性を強調し、今後協力を模索する可能性も示したということ以上に今回の共同声明を踏み込んで解釈することは控えるべきだ。さらにいえば、沖縄返還後の極東有事を想定した台湾条項(1969年)と異なり、今回の共同声明は日米の軍事行動に新しい基盤を与えたものではない。アメリカが対中抑止破綻への懸念を高め、日本の政府当局がそれに可能な限り声明レベルで応じようとしたことは事実だが、日本が、また日米同盟が台湾を念頭に取り組むのはむしろこれからである。

共同声明は、中国における人権問題では2+2の表現を踏襲したに留まったが、他方で経済安全保障では相当に踏み込んだ。中国による経済力を利用した強制外交や不公正な貿易慣行、産業政策を批判しただけでなく、付属文書(日米競争力・強靱性(コア)パートナーシップ)によって、安全でオープンな次世代通信網の構築推進、国際標準での協力、半導体を始めとしたサプライチェーンの育成・保護、研究公正の確保、量子科学での協力、さらに感染症、気候変動問題で科学技術活用を含む連携と、かなり具体的な協力が書き込まれた。過去数年、経済安全保障で議論されてきた主要テーマがふんだんに盛り込まれたという印象を残す。

もちろん、問題は今後、日本政府が産業界、科学界等と調整を行い、どれほど政策協調を実現できていくのかということにあるが、それでも真正面から経済安全保障を取り上げ、伝統的な安全保障と並ぶ同盟のもう一つの柱と位置づけたことは、今回の共同声明の画期性だ。

問われる日本の覚悟

過去4年間、日本はアメリカとの同盟を強化すると同時に、中国との関係改善に取り組み、安倍前首相の訪中は対立ではなく協調を訴えた。しかし日本にとって、米中双方と同時に関係深化を図れるつかの間の黄金の時代は過去のものになった。今回の日米首脳会談で、アメリカとの同盟をまず固め、それをもとに中国と向かい合うという日本外交の伝統に回帰した。

日本にとっての目標は、国際秩序をめぐる大国間政治において、ルールや価値観を重視しないと映る中国政府からどのようにゲームの主導権を取り戻せるのか、ということだ。そのためには、日本は改めて覚悟を決める必要がある。

第一に、あるべき世界像、国際秩序の姿を正面から議論しつつ、同時に国家の生存を支える経済、科学技術をどう発展させていくかを問う姿勢が必要だ。この連立方程式を解くことは容易ではないが、片方のみを取り上げた議論では不十分だ。そのためにも、経済安全保障を含めた最新の状況を把握する政府や民間企業の努力が一層求められる。また政治にも、米中対立がもたらす厳しい国際環境を理解した論争を求めたい。

第二に、中国による経済的な報復行為、強制外交は楽観を許さない。人権制裁を行った欧州連合(EU)は実のところ報復を避けるように慎重なリスト作りをしたが、中国の報復は予想外だったとの解釈もある。対中配慮をすれば避けられるという楽観は排すべきだ。報復に対抗するために国際連携の重要性がますます高まるだろう。

第三に、台湾を正面に据えた戦略を政府は描くべきだ。これまで必要以上の自主規制によって、議論すら避けてきたところがある。民主主義と市民的自由を発展させた台湾社会、そして世界を牽引する半導体製造能力をもつ台湾経済を議論すること抜きに、この地域の将来は論じられない。

(2021年5月12日 記)

バナー写真:ロンドンで行われた先進7カ国(G7)外相会合。ここでも中国・台湾問題が大きく取り上げられた=2021年5月4日、外務省提供(時事)

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