試される日本の「移民」政策

JICAが外国人労働者の支援に本腰:多数の企業が参加

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外国人なしでは成り立たない産業を多く抱える日本。技能実習生の急増を受けて、JICAが受け入れに本腰を入れる。日本国際交流センター執行理事の毛受氏が外国人受け入れの現状と課題を解説する。

コロナ禍にあって人の往来は停止し、政府の外国人受け入れの議論も停滞しているが、国内では新たな動きが始まっている。その一つは国際協力機構(JICA)が主導する「責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム」の創設だ。

人口減少に直面し、政府は女性と高齢者の活躍を推進するものの、移民政策については明確な方針を示さないままだ。在留外国人数は2019年末には293万人にまで増加した。安倍晋三政権時の19年4月に初めてブルーカラーの労働者を正式に受け入れる特定技能の在留資格制度を創設したが、移民政策をとらないという政府の方針自体は変更されず、外国人受け入れの在り方について明確な方向性が示されないまま、菅義偉政権へ引き継がれた。

「責任ある外国人労働者プラットフォーム」

JICAは2020年11月16日に行政、企業、NPOが一堂に会して外国人労働者受け入れ問題を議論する「責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム」を設立した。トヨタ自動車、イオン、セブン&アイ・ホールディングス、ソフトバンク、アシックス、ミキハウスなど日本の大手企業が会員に名を連ね、メンバー団体や、サプライチェーン、関係企業に外国人労働者に対しての法令順守、適切な配慮を求める。

当初から多くの企業がプラットフォームに参加した背景には、人口減少で外国人労働者への依存が増すと同時に、持続可能な開発目標(SDGs)に含まれる仕入れ先や販売先などに対する「サプライチェーン管理」への認識の高まりがある。設立時に開催されたシンポジウムでは、技能実習生への企業としての対応や、企業傘下のサプライチェーンにおける雇用問題の責務などについても話し合われた。

シンポジウムには、日系ブラジル人の多い群馬県から山本一太知事がメッセージを寄せ、太田市の清水聖義市長が登壇した。清水市長は日系ブラジル人がスバルをはじめ、地元の製造業に欠かせない人材となったことで、定住化が進んでいると報告した。

登壇者の一人、ベトナム人のフィ・ホア(Phi Hoa)さんは、大阪大学・大学院に国費留学した後、デロイト・トーマツで日本企業のベトナム進出に携わった。現在は、One-Value(を立ち上げ日本企業を広く支援している。在留外国人の中にはコロナ禍で仕事を失い、中間業者への借金を抱え、食べるのに困って犯罪に手を染めてしまったケースもあり、「日本政府には巨額の仲買料を搾取する中間業者をなくしたり、生活や日本語習得を支援したりするインフラ制度を充実してほしい」と訴えた。

JICAの北岡伸一理事長は移民政策に言及しながら、日本の社会を変えていく必要性を強調。自民党の外国人労働者等特別委員会委員長を務める片山さつき参院議員は、コロナ禍における在留外国人支援の重要性を指摘し、JICAとプラットフォームへの強い期待を込めた。

移民はJICAのDNA

なぜJICAが従来の国際協力に加えて、在住外国人を支援するようになったのだろうか。JICAは日本の政府開発援助(ODA)の実施機関であり、途上国における人々の生活向上を目指す組織だ。しかし、途上国でいかに貢献しても、日本に住む40万人を超える技能実習生が、日本のブラック企業の実態をインターネット交流サイト(SNS)で母国に発信すればその努力は台無しになる。ダイナミックでグローバルな人の移動が前提の時代になった今、JICAの活動は途上国だけにとどまっていられないのだ。

1974年に発足した、JICAの前身の一つ「海外移住事業団」は日本から南米への移民を促進した歴史があり、JICAは「移民問題」のDNAを持っていると言える。また、①従来JICAは全国に支部を持ち自治体と連携して日本の地方創生にも関与してき、②日本のODAが将来先細りになることが想定される、③JICA海外協力隊OBの就職先として、在住外国人を支援する新たな仕事を発掘したいという意図がある―といった要因もあるようだ。

変化する日本とASEANの関係

特に筆者が指摘したいのは、日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)の関係が、従来の垂直的な関係から水平的な関係へと変化していく中で、JICAが果たすべき新たな役割が生まれていることだ。日本に在留する外国人の多くは中国、韓国以外はASEANの出身で、増加が著しい。日本は経済の低迷が続く一方、ASEANは順調な経済発展を続け、2020年代半ばにはその国内総生産(GDP)は日本を追い抜く可能性もある。

そうなれば、ASEANは日本が一方的に技術支援を行う相手から、相互に弱点を補い合うパートナーになっていくだろう。日本の最大の弱点は少子・高齢化であり、人口減少だ。ASEANの有為な若者を受け入れ、活躍してもらい、定住を促すことで日本に新たな活力が生まれ、社会基盤を支える人材になってもらうことが望まれる。

日本とASEANの対等な関係への移行が進む中で、草の根レベルでの人的交流が広がることは、日本の青年にとっても大きな刺激となるだろう。そのとき、JICAには、単なる途上国に技術移転する役割を超えた存在として、日本とASEAN、途上国との新時代の懸け橋となることが求められる。例えば市民交流の推進や姉妹都市提携のあっせんを含め、国民相互の交流を促進する役割が期待される。それは従来の上下関係の中でのODAを超えた日本型モデルとして世界でも注目を集めるに違いない。

本格的な移民政策議論への一歩

JICAが創設した「責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム」ができたことによって、直接外国人労働者の声を聞き、行政、企業、NPOがディスカッションする場が設けられ、互いに垣根を越えて課題と将来について議論が始まったのは画期的といえる。

プラットフォームをきっかけに、世界的なSDGs、環境などの取り組みを重視するESG投資などが広がる潮流の中で、企業サイドから自発的に責任ある外国人材受け入れの議論が広がり、技能実習生制度の見直しの機運が高まることも期待できる。在留外国人に占める技能実習生の割合が最多となるのは20道県に上るなど、技能実習生は全国的に急増しているが、多文化共生の活動を行ってきた数多くの自治体は、日本語学習や生活支援に活動が限定され、労働者としての支援は限られてきた。自治体にとってプラットフォームの意義は、企業との意見交換、連携強化である。従来の多文化共生でおざなりにされてきた技能実習生への自治体支援が、これを機に拡大してほしい。

コロナ禍で政府の移民政策の方向性が明確に示されない中で「プラットフォーム」の発足は、コロナ終息後に必ず起こるであろう移民政策についての国民的な議論に向けた引き金となるのではないか。

創設2年目の2021年4月に特定技能制度について、再検討することが発足時に決まっている。今後、プラットフォームの中で行われる議論や提言によって、本格的な移民政策に向けた新たな方向性が打ち出されることも併せて期待したい。

バナー写真:ミャンマー人実習生活躍 入所者と話す実習生 「花むつ苑」で入所者と話すミャンマー出身の技能実習生ミヤツ・ス・モンさん(右)=福井市 「カラー」「北陸カレント」(共同)

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