アフターコロナの社会はどう変わるのか―新しい日常と若者・家族の未来

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コロナ禍でオンライン授業やリモートワークが広がり、ソーシャルディスタンスが前提となる新しい生活様式は、若者の恋愛や人間関係にどんな影響を与えるのか。家族社会学者で若者文化に詳しい永田夏来(なつき)さんに話を聞いた。

永田 夏来 NAGATA Natsuki

兵庫教育大学大学院学校教育研究科准教授。専門は家族社会学。1973年長崎県出身。現代日本の結婚観・家族形成について調査研究を行っている。インターネットによるコミュニケーションやサブカルチャーにも関心が高い。著書に『生涯未婚時代』(2017年、イーストプレス)、『音楽が聴けなくなる日』(共著/2019年、集英社新書)がある。

「ポケモン人生」「ドラクエ人生」の差が開く

——「ステイホーム」を経て、家族や家庭に関する意識の変化はあるでしょうか。

緊急事態宣言で実家に帰ることもできず、ずっと1人で過ごしていた知人の中には、自粛解除後に引っ越した人たちもいます。これまで、職場で過ごす時間が長く、家はただ寝る場所で、狭くても駅から近ければよかった。「ステイホーム」でこれまで在宅の時間をないがしろにしていたことに気付き、駅から多少遠くてももっと広くて日当たりのいい場所に住む決断をしたのです。結婚して家庭を持とうと思う以前に、まず「生活を大事にしよう」という機運は高まっているのではないでしょうか。

家族の在り方も大きく変わると思います。「ステイホーム」「在宅勤務」で大事なのは家庭の居心地の良さです。自分のストレスを適切にマネジメントして、相手のことを思いやり、家族が居心地よく過ごせる環境づくりが求められるわけで、それがうまくいかないカップルが多ければ、「コロナ離婚」が増えます。 

——『生涯未婚時代』では、「ドラクエ人生」と「ポケモン人生」の比喩を使って2つの人生観を対比していました。コロナ禍はそれぞれにどんな影響を及ぼしますか。

「ドラクエ人生」とは、一本道となるストーリーをなぞりながらゲームを進める「ドラゴンクエスト」的な人生を指します。例えば就職や結婚といったライフコースにおける標準的なイベントを、1つずつ攻略して進むイメージです。一方で「ポケットモンスター」の場合、一本道のストーリーは特になく、ポケモンを捕まえて育てることがゲームの主な目的です。進め方が人と一緒である必要はありません。つまり「ポケモン人生」では、さまざまな局面で個人が居心地よく生きるための選択をすることが主眼となり、就職も結婚も、数ある選択肢の1つにすぎない。役所や年功序列が根強い大企業では、流動性が低いので「ドラクエ人生」が適していて、個人の自由な選択の余地はありません。アフターコロナでは「ポケモン人生」を送れるか送れないかの職種間格差が開くでしょう。官公庁や大企業での働き方が変われば、社会全体が変わりますが、こうした職場がどれだけ変われるかは未知数です。(住む場所として)選ばれやすい・選ばれないという地域格差も生まれるでしょう。これまでと違って、東京が選ばれなくなる可能性もあります。

「あつ森」ブームが示す可能性

——アフターコロナ社会の理想的な展望とは?

個人がそれぞれに居心地の良さを追求できる社会に変わることが理想です。さまざまな格差は鮮明になるでしょうが、悪いことばかりではありません。いまの日本社会の閉塞感を変えるには、個人の働き方、暮らし方をどう変えるかがカギになります。先は見通せなくても、恐らくいまが生き方を変えるチャンスだと思っている人は多いのでは。

リモート化は、オンラインに違和感のない若者に有利です。大人は若者から学べることは学んでほしい。若者は気心の知れた同質のコミュニティー内の交流に安住しないで、年長者や会ったことのない人に対して積極的に心を開いてほしい。むしろこの機会に世代間の対話を活発化させたいですね。

——自分にとって居心地のいい「オンラインコミュニティー」を見つけることも、在宅生活を充実させるポイントになりそうです。

コロナ禍の外出制限の中で、「あつまれどうぶつの森」(「あつ森」=3月に発売された任天堂のゲームソフト。プレーヤーがゲーム内で住む島を自由にデザインし、他のプレーヤーと交流しながら遊ぶ)が世界的なブームになりました。そもそも戦うという概念がなく、果物を収穫したり釣りをしたり、自分の島で好きなことをして過ごすゲームです。いま国や年代を問わず、さまざまな人たちが「あつ森」に居心地の良さを見いだしています。現実世界では集まれないけれど、「あつ森」で卒業式や結婚式を行った人たちもいます。

こうした新しい場に積極的にアプローチして適応できる人は、コミュニケーションの選択肢やネットワークが広がります。電話しか使いたくない人と、電話でもZoomでもいいし、「あつ森」もやっていますという人では、人生の可能性の開かれ方が全く違ってくる。もちろん、リモートが直接会うことの利点を代替できるわけではありません。ただ、対面とオンラインを両方選べて使い分けることで、人生がより楽しく、豊かになることは確かです。

取材・構成:板倉 君枝(ニッポンドットコム編集部)

バナー写真:新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、京都市の同志社大学では当面ネットを使って授業を行うことを決めた。同大学の男子学生(写真)は、高校時代からスマホのアプリで勉強をしていてオンライン授業に抵抗がないが「慌ててパソコンを買ったり、ネット環境が整っていない友達もいる」と話した=2020年4月20日、京都市左京区(時事)

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